4-39:帰路
早く、要塞に帰りたい。
日常編が、日常編が作者を待っている!
ボルジア共和国の主星『ステッサ』から、幾度となく航路偽装をしつつ宙を行く我らが『ランドグリーズ』艦隊。ランドロッサ要塞までは、後1時間といった所まで来ていた。道中、往路より厳重になった共和国軍の警戒網を、悠々自適に突破しての逃避行。まぁ、大部分が食って寝てだけだった事は秘密だ。
「パメラ嬢は?」
「昨日辺りから、漸く刺々しさが薄れたと言うところだな」
「そうか。俺は碌に口すら聞いて貰えないんだけどな……」
「一馬は、完全に避けられている様だな? クックック……」
「……サウサン。笑い方が、完全に悪役のソレだぞ?」
薄暗い室内、暖炉の前で高い酒の入ったグラスを片手で揺らしながら、悪い笑顔を浮かべるサウサンがイメージ出来た。サウサンに対する、風評被害だって? 気のせいだよ、気のせい。木の精とも言うね。いや、これは木の精に対する風評被害になるな。
「まぁ、そう心配するな。何れ、自分なりに折り合いを付ける。そうしたら、後は一馬が正面からちゃんと向き合ってやればいい」
「……いや、1人で勝手に理解して納得されても困るんだけどね!?」
「大の男が、小さい事でグチグチと言うな」
「小さい事かな!?」
こうやって面と向かってサウサンと会話すると、彼女のペースに終始振り回される。職業と言うより、性格なんだろうが、人を煙に巻くのも非常に上手い。シャンインとの見慣れたやりとりとか、コントかよって思う程だしな。サウサンに言い負かされた後で、ぶう垂れるシャンインの絡みが地味にウザいのは秘密。
「……はぁ。まぁ、時が解決するって言うならば、それを信じよう」
「そうしてやれ。そもそも、一馬にはやるべき事が沢山あるからな?」
「……分かってるさ。これからの、数か月で世界は大きく変わる」
「そうだ。もう、この宙の変化は誰にも止められん。行き付く先まで、回り続ける」
「ならば、回す側にいないとな?」
「あぁ、それが時代の針を動かした者の責務だ」
……責務か。いやはや、何時の間にか背負うモノが大きくかつ重くなってやいませんかね? いや、最初からだって? まぁ、星系に平和を齎せなんて言われた時点で、既に結構なモノを背負わされてはいたんだけどね。でも、それから仲間が増えて、色々な人達と関わって背負うモノが増えたのは間違いない。
「全く、あのバカはとんでもないモノを背負わせてくれたもんだ」
「ふっ、何と言っても宙そのものだからな」
「本当だよ。バカなんじゃないのか、アイツ?」
「だから、バカと呼ばれているのだろう?」
「確かに、違いない!」
本当に、とんでもないモノを背負わせやがって。全部が終わったら、絶対に殴ってやる。まぁ、その為にもやり遂げないとならないんだけどさ。さて、どうするかね色々と……。
「……それにしても、まさか帝国が返す刀で仕掛けるとは思わなかったな」
「まぁ、想定より損害が少なかったのもあるだろうが……。焦りがあったのだろうよ」
「天下の帝国様が、焦る様な事があったとは思わないけどな?」
「分かっている癖に、いけしゃあしゃあとよく言うものだな?」
「ソレハ酷イ偏見ダヨ。謝罪ヲ要求スル」
「……どの口が言うか」
マーク・トゥウェイン要塞攻略戦に参加した帝国軍機動艦隊だが、占領した要塞に最低限の守備隊を残し帝国本国へと帰投する予定だったのだが、突如として共和国軍の第1防衛ラインを構成していた残りの宇宙要塞を強襲したのだ。勿論、帝国本国からも合わせて増援は派遣されていたが、幾ら国力のある帝国と言えども短期間での連戦ってのは負担が大きいはず。それでも、要塞攻略を強行した。
強攻軍で攻めた理由としては、共和国軍の第1防衛ラインを完全に陥落させる事で、これからの戦いにおいて主戦場となるであろう第2防衛ラインの背後を、共和国軍の遊撃部隊によって脅かされるリスクを低減させる為のものだろう。それでも、そこまで急いで攻略する必要があるかと言われれば疑問だが。
「本来ならば、あの戦いは帝国が我々に対し力を見せる場だったのだ。辺境で少しばかり上手くいっているからといって、良い気になるなと言う警告の意味も込めてな?」
「まぁ、帝国がわざわざ辺境の一勢力でしかない俺達と、一時的とは言え手を組むんだ。そこに、何の意図も無い訳がないよな?」
「だが、ふたを開けてみたらどうだ? 撒き餌として少しばかり共和国の注意を引ければ御の字という程度だった存在に、戦場を良い様に一方的に掻き回されたんだ。要塞を抜きに考えれば、彼我の挙げた戦果も大して変わらんしな。しかも、最後には帝国軍のど真ん中に大規模な艦隊を突如出現させるなどという、非常に性質の悪い悪戯まで仕込む始末」
「正に、痛快愉快ってヤツだな」
シャンインから言われた時はどうかと思ったけれども、結果として帝国の哨戒網も共和国同様にザルだって事が判明したから悪い話ではなかった。あの後で、帝国からコンラッドの商会経由で何やら抗議が来たらしいが、シャンインが良い笑顔で煽り返したらしい。良くやるよ、本当に。
「貴族が幅を利かせる帝国で、今回の戦いが民衆へとそのまま伝われば、余計な騒ぎを引き起こしかねん。だからこそ、それを少しでも帝国優位な形で上書き出来る戦果を求めたのだろう。1度の出征で2ヶ所の軍事的要衝を落としたともなれば、多少の噂話程度ならば話題性で隅へと押しやれるからな」
「帝国も必死だねぇ」
「当たり前だ。信賞必罰とは世の常であり、それは帝国も共和国も変わらん。要塞1つ落とした代わりに、辺境の一味に良い様に弄ばれましたとあっては、今作戦の指揮官の首がとぶだけでなく、軍の最高司令官を担う皇帝の名声にも傷が付くからな」
実に、下らん。貴族や皇帝の名誉や名声なんぞ、価値の無いゴミだろうが。そんなもんに縋りつく暇があるならば、民衆に今日を生き延びる為の食事でも配ってやれっての。
「あー、必死過ぎて笑えてくるわ。そもそもは全ての基本である情報収集を怠り、これまでの傲りから調子に乗っただけだろうにさ」
「確かにな。だが、これからは奴らもこれまで以上に必死になるだろうさ。まぁ、此方はそれを手ぐすねを引いて待つだけだがな?」
「サウサン、程々にしておけよ?」
「何故だ?」
「そんなの、長く遊ぶ為に決まっているだろ? 簡単に壊してしまっては、勿体無いじゃないか」
「確かにな。……ふむ、少しばかり歓迎プランを練り直すとしよう」
「そうしてやれ。きっと、大喜びだぜ?」
まだ見ぬ、帝国諜報員の皆様。御機嫌よう、そしてサヨウナラ。恨むならば、オッサンを恨め。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!