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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第4章:マーク・トゥウェイン要塞攻略戦
186/336

4-37:『オペレーション・ヴァルゴ』⑦

普段より、少しだけ長め。

どうしても、サウサンにこのセリフまで言わせたかったのよ。


※本日の投稿で、連載開始から丸1年が経ちました。

此処までこれたのも、読んで下さった全ての皆様のお陰です。

本当にありがとうございます。

そして、今後とも本作をよろしくお願いいたします。

 『ランドグリーズ』艦隊による苛烈な対地・対空攻撃によって、相対していた共和国軍部隊は壊滅的な被害を被った。生き残った幾らかの地上部隊と航空部隊は、這う這うの体で散り散りになりながら離脱していった。


 「ふぅ……」


 友軍の支援攻撃のお陰もあってか、何事も無く母艦たるクロークヘイブン級空母へと帰投した。指定のハンガーに機体を固定しコクピットハッチを解放すると、見慣れたハンガー内の光景が視界に映る。未だに俯き無言のままのパメラ嬢を伴ってデッキへと降り立つと、入れ替わりにメカニック達が機体へと取り付き整備を開始する。既に、艦隊は大気圏突破に向けて速度と高度を上げつつあるが、念には念を入れるか。


 「念のため、推進剤とカートリッジの補給も頼めるかな? ミディール隊の方も可能な範囲で頼む」

 「了解しました」

 「よろしく」


 専属メカニック達に、整備だけでなく同時進行で補給もお願いしておく。大気圏内でのこれ以上の追撃は恐らく無いだろうが、突破後は相手側次第な部分が多い。基本的には速力の差で振り切る予定だが、何事も絶対は無いからな。


流石に、光学迷彩とは言っても大気圏突破時の摩擦熱で船体の形が浮かび上がる。オッサンが敵側の指揮官ならば、離脱コースを想定して予め網を張るだろう。


 とは言え、攻撃を受ける可能性があるのは、大気圏離脱から艦隊が最高速に達して離脱コースに乗るまでの僅かな時間。そこから先は、速度差で敵艦隊を振り切るだけだからな。無論、ランドロッサ要塞に帰投するまで、敵の哨戒網を幾度となく突破しなくてはならないが。まぁ、往路では問題無く突破できた訳だし、復路も余計な事をしでかさなければ問題はないだろう。


 「一馬!」

 「サウサン。全員、無事みたいだな?」

 「あぁ、問題ない。あの程度でやられるほど、柔な訓練はしていないからな」

 「それは何より。で、早速で悪いんだけどさ、部下の誰かに彼女を客室まで送らせて貰えないか?」


 これから、一先ず指揮と状況の確認を兼ねて艦橋に上がるつもりだが、流石にパメラ嬢を連れていく訳にはいかない。かと言って、オッサンが案内するのもね? ノンビリと船内デートなんてしている余裕はありません。なので、手隙になるであろうサウサンの部下へと話を振るのが手っ取り早い。


 「構わんぞ。……頼めるか?」

 「了解しました」


 サウサンの右後ろにいた女性型の諜報アンドロイドが、パメラ嬢の案内を請け負ってくれた。同性の方が、彼女も安心するだろう。未だに俯いたままなのが気になると言えば気になるが、今は艦橋に向かうのを優先したい。




 「香月司令官、ご無事でなによりです」

 「ありがとう。俺の不在中、特に問題はなかった?」

 「特には。1度、要塞のソフィー様から状況確認の通信がありましたが、彼方も問題無いとのこと」

 「了解。離脱までの時間は?」

 「後2分ほどです。間も無く、艦首角度の最終調整に入りますので、着席をお願い致します」

 「了解」


 艦橋要員を務めているドクター旗下のアンドロイド達の指示に従い、サウサンと共に空いている席へと着席する。人生初の大気圏離脱になる訳だが、突入を先に体験してるせいか、何とも不可思議な感覚にとらわれる。


 僅かに、背凭れへと身体が引き寄せられる感覚に襲われた。どうやら、離脱に向け艦首が少しずつ上がってきた様だ。一定高度までの上昇と加速の為の鈍角軌道での飛行から、離脱の為の鋭角軌道での飛行へと『ランドグリーズ』全艦が一斉に動き出す。


 「全艦、メインスラスターの出力を5%へと上昇」

 「香月司令官。間も無く揺れが始まりますので、お気を付け下さい」

 「了解」


 大気圏離脱に要するメインスラスターの出力は僅か5%で事足りる。元々、駆逐艦クラスなら時速300万kmを叩き出すメインスラスターだけに、大気圏内では限界まで出力を絞らないと色々と大変な事になるのだ。共和国を打倒するとは言え、『ステッサ』の惑星内環境にまでダメージを与えたい訳では無いからな。スピードの出し過ぎは、何処の世界でも厳禁だ。


 「……」


 先ず、艦首付近が摩擦熱によって紅く染まっていく。そして、それらはあっと言う間に見渡せる範囲内全てを染めてしまう。視認出来る範囲にいる全ての僚艦もまた同様だ。お船が熱で真っ赤っか。まぁ、船体自体は冷却システムで守られているから、何の心配もないんだけどね。艦橋内も、空調ガンガンで快適です。


 「離脱まで残り3、2、1」

 「会いたかったぜ、宙!」

 「離脱を確認。全艦、メインスラスター最大同調出力まで上昇」


 お船が真っ赤っかだった時間は僅かなもので、あっと言う間に本来の船体色を取り戻していく。そして、見慣れた宙がオッサンを出迎えた。何時の間にか、空よりも宙の方が身近に感じると言うのだから、人生ってのは分からないものだな。何はともあれ、無事に宙へと帰る事が出来た良かった。


 「ふっ……、一馬は何時の間にか宙に魅入られたのか?」

 「どうだろうな? でも、確かに今は宙の方が好きかもな」

 「そうか」

 「何て言っても、『オグマ』を全力で飛ばせるしな?」

 「……一馬の場合、其方の都合の方が大きそうだな?」

 「違いない」


 どうしても、大気圏内だと『オグマ』の全力機動とはいかないからな。その点、宙は気にせずに全力を出せる。まぁ、やり過ぎると綺麗に空中分解するが……。いや~、宙にコクピットブロックごと放り出された時は現実では無いのに冷や汗が出たよ。あれが、シミュレーター内での出来事で本当に助かった。現実にやらかしてたら、二度と乗せて貰えなくなるからな。


 「香月司令官。針路上に敵機動艦隊です」

 「……やはり、網を張っていたか。数は?」

 「3個機動艦隊です」


 主星『ステッサ』の周辺宙域には、合計10個の機動艦隊が守備戦力として展開している。今回は、その中から3個艦隊が我々の針路方向へと網を張っていた様だ。先の攻略戦の舞台となったマーク・トゥウェイン要塞には45個もの機動艦隊が集結していた事から考えれば、その戦力は少ないとも言えるだろう。


 勿論、共和国が『ステッサ』の防衛を軽視している訳では無い。単に、最終拠点周辺に戦力を集めるのではなく、各防衛ラインに対し重点的に戦力を割り振っているだけだ。それに、主星宙域まで敵戦力が到達した時点で、負けと言って過言では無いしな。


 「先の戦いでは、確か熱探知で応戦されたって話だったよな?」

 「はい。とは言え、それでも命中率の低さは如何ともカバー出来なかった様ですが」

 「敵も学習しているが、此方の戦闘AIも順調に進化しているからな。……いや、既に進化ってレベルじゃない気もするけど」

 「ドクター曰く、階段を数段飛ばしで駆け上がる様なモノらしいな?」

 「……マジか」


 本来、一段ずつ上がるのが普通の進化だと思うのだが、ドクター曰くどうやら要塞の戦闘AIは色々と規格外になってきた様だ。まぁ、戦力の底上げに繋がるから歓迎すべきことではあるのだが。部外者から見たら、異常としか言いようが無いだろうな。


 「香月司令官。間も無く砲戦距離に入りますが、当初の予定通りでよろしいでしょうか?」

 「勿論だ。基本、応戦はせず最低限の迎撃のみで最短距離を突っ切れ!」

 「了解しました」


 3個艦隊程度ならば、現有戦力で叩いてから逃げる事も可能ではあるが、時間の無駄だ。下手に目の前の敵にばかり気を取られていると、周囲から増援を招きかねないからな。今は、パメラ嬢を要塞まで連れて帰るのが最優先だ。


 「ほぉ……?」

 「どうかした、サウサン?」

 「いやな? 此方の目指す針路上に展開している敵艦隊に、共和国一の武勲を誇る殊勲艦がいる様でな?」

 「殊勲艦?」

 「あぁ。共和国で唯一、戦艦では無く空母ながら機動艦隊の旗艦を任されている程の艦だ」


 そう言えば、基本的に共和国軍の機動艦隊で旗艦に任命されるのは戦艦って話だったな。その通例を覆してまで旗艦に選ばれると言うのだから、かなりの艦なのだろうな。まぁ、今は殊勲艦だろうと、相手をしている暇はありませんがね。暇潰しとばかり、サウサンはその艦の情報をツラツラと読み上げる。


 「何でも、沈んでいてもおかしくない程のダメージを何度となく受けながらも、これまでしぶとく生き残ってきた艦だそうだ。後、笑える話なのだが、帝国や連邦によって何と9度もの撃沈報告がされた艦でもあるらしいぞ。データを扱う私から言わせて貰えば、とんでもない幸運艦だな、彼のフネは」

 「……」


 幾度と無く大ダメージを受けながらも、その度に不死鳥の様に蘇り、更には敵によって複数回の撃沈報告をされた空母。サウサン曰く、とんでもない幸運艦。おいおい、いやな予感がヒシヒシとする単語が幾つも並んでやいまませんか?


 「……サウサン。その艦の艦名は?」

 「ん? あぁ、グレイゴーストこと……空母『エンタープライズ(・・・・・・・・)』だ」

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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