4-34:『オペレーション・ヴァルゴ』④
エースとは?
※誤字報告、いつもありがとうございます。
「……そこっ!」
何機、敵機を墜としたかって? 20だか30だかまでは数えたけれども、その先は諦めたよ。元の世界ならエースと呼称されるだろう戦果だけど、生憎と此方ではそれを自慢する相手もいない。そもそも、今も現在進行形で敵機が周囲に大量に集っている状況だ。
「……」
地上からのミディール隊による対空支援が始まった当初、一時は此方に向かってくる敵機の数も少しばかり減ったのだ、それも今は昔の話になってしまっている。むしろ、此方が墜とせば墜とす程に集ってくる敵機の数は増加する一方だからな。どうやら、本格的に共和国側から最優先ターゲットにされてしまった模様。解せぬ。
「……っと?」
今のは中々良い時間差攻撃だったな。絶妙なタイミングで別々の方向から仕掛けて来た5機の戦闘機。個々の動きだけでなく、部隊としての練度もそこそこのようで、ちょっとばかり驚かされた。まぁ、今の敵機の動きに点数を付けるならば、100点中30点位だろうか。
えっ? 点数が随分と厳しいって? でも、2番目と5番目に仕掛けて来た機体が、時間にして0.1秒程度だが仕掛けるタイミング早かったんだよな。その無駄なズレさえ無ければ、命中弾は不可能でも至近弾位はいけたと思う。なので、それすら失敗したレベルの敵機では30点が良いところだよ。
「……」
何処かに、敵エースは居ないものか。個人でも部隊でも良いので、是非とも熱い戦いをしたいのだが……。生死ギリギリの戦いが、人を成長させてくれるからね。なので、お願いします!
『……一馬、聞こえるか?』
「サウサン? どうした?」
『例の彼女の身柄、無事に確保したぞ? 予定通り、裏口から脱出するから早く来い』
「っ了解!? 直ぐに、そっちへ向かう!」
流石はサウサン、仕事が早くて助かるわ。幾らミディール隊によって粗方の防衛戦力は一掃されていたとは言え、研究所内にも敵は居ただろうに。それを自身を含めた少人数のチームで相手しつつ、パメラ嬢の身柄を確保するのは容易では無かったはずだ。
でも、サウサンは何事も無かったかの様にパメラ嬢の身柄を無事に確保したとだけ伝えてきた。いやはや、皆が皆、物凄く優秀過ぎませんかねウチの要塞メンバー達。オッサンだけ、確実に足を引っ張る要員になっていると思います。
「さて……」
出来れば、もう少しだけ彼らとは遊びたかったのだが、時間切れでは仕方が無い。結局、敵のエースとも戦え無かったから消化不良も良いところだけど、優先すべきはパメラ嬢を無事にこの『ステッサ』から連れ出す事だからな。戦いでテンションがアゲアゲでも、優先順位は間違えません! でも、マジで敵のエースって何処にいたのだろうか? やっぱ、宙の前線か?
「それじゃ、リミッターを少しばかり解除してと……」
新型『オグマ』には、ドクターによって何重にもリミッターが掛けられている。まぁ、そうは言ってもパイロットである此方の判断で何時でも解除出来るんだけどね。ドクター的には、出来れば解除しない方向でとは言っていたが、今は解除すべきタイミングだと判断します。
『リミッターの限定解除を確認。FCS解除。オートバランサー解除』
「うっし……」
ただの機械による合成された音声って単調で味気無いよね? 今度ドクターに頼んで、ソフィー達の声を取り込んで貰うかな。やっぱ、女の子の声の方が男としてはやる気が出ます。後は、渋いオッサンの声でも良いかもしれんな。
リミッターを限定解除する事で、『オグマ』のFCSとオートバランサーが解除される。FCS、日本語だと射撃統制システムって言ったかな? 要は、目標の捕捉から射撃までを統括しているシステムって理解で良いと思う。もし、違っていても知らない。ぶっちゃけ大雑把な理解でも何ら問題無いしね。
で、それを解除するとどうなるかって言うと、オッサンの場合は敵を捕捉して撃ち落すまでの速度が上がる。感覚的には、FCSの支援を受けるよりも3割程度は早くなるんじゃないかな? 敵機捕捉、発射が、敵機捕捉発射くらいにはなると思う。違いが分かり難かったら、ゴメンね。
「墜ちろ!」
カトンボとは言いません。それを言ったら、お終いよ!
後、オートバランサーは読んで文字の如くだな。機体のバランス制御を担っている。宙と違って、重力圏下の空では、色々と勝手が違うからね。その辺のフォローをしてくれていたのがオートバランサーになる訳だ。でも、此方もFCS同様に操縦に制限を与える原因ともなっている。
重力の影響とか、航空力学とか、難しい専門分野なんぞ分からん。こちとら、感覚だけで『オグマ』を飛ばしているからな。勘に加え、根拠の無い憶測と勝手な予想、後は僅かな邪推で空なんぞ如何様にも飛べるんだよ。伊達に、34歳から機動兵器を操縦してないって事を証明してやろうじゃないか!
個人的に、絶対カッコイイポーズランキングTOP3に入る、身体の前で両手をクロスさせて銃を撃つヤツ。人型機動兵器でやると、マジでカッコイイです。ついでに、その場で好きな方向への回転も加えるとなお良し。高速回転しながら、全周囲モニターに映った敵機を目測だけで狙い撃つ。ヤバい、自分でやって、自分に惚れそうだ。遠心力によって、弓なりの軌道を描きながら敵機を貫くビーム達。地上から見たら、巨大な花火みたいに見えるかもね。
「……」
手持ちのカートリッジを全て使い果たすつもりで、盛大にお見舞いしてあげようじゃないか。最悪、後で必要になったらミディール隊から予備カートリッジを貰い受ければ良いしね。ちゃんと、共通規格で装備品を用意してくれる辺り、流石はドクターと言わざるを得ない。略して、流ドク。流れのドクターみたいだな。
「ヤベェー、楽しぃー!」
バッタバッタと次々に墜ちていく敵機を横目に、いつまで縦横無尽に空を駆けつつコマの様に回転し続ければ良いのだろうかと少しばかり疑問に感じつつも、まぁ良いかと思考停止したオッサンでした。
お読みいただきありがとうございました!
次回もお楽しみに!