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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第4章:マーク・トゥウェイン要塞攻略戦
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4-33:『オペレーション・ヴァルゴ』③

重力は偉大なり(えっ?

 「くっ……!!」


 敵機から放たれるミサイルや機銃を、最低限の挙動だけで回避していくが、如何せん宙とは違い重力圏での戦いってのは身体により強い負荷が掛かる。これでも、ドクターの技術によって幾分かは負荷が軽減されているのだから、贅沢は言えないが。それに、この負荷も生きているって感覚がして、嫌いじゃない。


 「……ちょこまかと!」


 最初に此方へと迎撃に上がった来た20機余りの共和国軍戦闘機は、何れも大地へと還っていった。で、現在は第2陣となる敵戦闘機相手に空で大暴れしている訳だが。とにかく数が多い。100機まで数えたところで、それ以上は止めた。流石は敵の主星かつ首都と言うべきか、事前情報通り防空部隊の数も相応の物だわな。


 「まぁ、地上部隊の為にも弱音は吐いてられないけどねって……マジで多い!」


 先行量産型であるカートリッジ式のビームマシンガンの銃口を、己の感覚だけを頼りに敵機へと向け単発モードで引き金を引く。被弾し煙を吐きながら落下していく敵機の撃墜確認を放棄し、次の獲物へと照準を定め再び引き金を引く。さっきから、これの繰り返しだ。勿論、その間も機体は空を縦横無尽に飛び回っているし、『オグマ』の上半身は何度も可変を繰り返している。


 ドクター謹製の機体特性ゆえか、コブラやダブルクルビット等の戦闘機動も容易く行える。共和国軍の戦闘機にも推力偏向ノズルが搭載されている様だが、この様な戦闘下でそれらを用いるパイロットは殆ど見受けられない。実直に、背後を取ることを第一としているようだ。


 まぁ、相手がそれらの戦闘機動を多用してきたところで、撃墜する難易度がそれほど変化する訳でも無いけどな。此方がやるべき事は、敵機の行く先に銃口を向けて引き金を引くだけだし。たった、それだけのことで、敵機は残骸となって大地へと還っていく。実に呆気無い。


 「メビウスとか黄色とかいないものか……」


 やっぱ、空戦の醍醐味と言えば敵エースとの死闘だよね。雑魚を何機墜としたところで、スコアとしてしか意味を為さない。逝った戦友の為、仲間の為、部隊の為、国家の為、何より自身の未来の為に敵エースを墜とす展開、燃えるよね?


 極たまに、他の機体より幾ばくか動きの良い敵機もいるものの、結局は1、2発躱される程度の差でしかない。いや、それでも弾数に制限がある此方としては嫌らしい相手ではあるけどな。今のところ、雑魚は1発、上位版雑魚に2~3発の消費と言ったところだろうか。まだ、予備カートリッジに余裕があるとは言え、ギリギリの残弾ラインで戦うってのは決して優雅ではない。


 「地上のミディール隊は……」


 爆散して墜ちていく敵機を横目に、地上部隊の様子をモニタリングしてみる。どうやら、研究所自体の制圧は問題無く進んでいる様だ。軍の研究所とは言え、多数の部隊が駐留する基地とは異なり自衛戦力は軽武装の歩兵が主力だ。それ以外は幾らかの装甲車や戦闘ヘリ、後は各所に設置された対空兵装や対車両用の重火器と言った塩梅でしかない。


 それらはミディール隊の前に呆気無く物言わぬ残骸と化した。装甲車は車両保管所を出たところで蜂の巣にされ、ヘリポートから緊急発進しようとした戦闘ヘリは、四方八方から滅多撃ちにされ地上へと強制的に降ろされた。こんな事を言うのも何だけど、ミディールの成長スピードがおかしくないか?


 自身目掛けて放たれた対空ミサイルを、空挺降下中にビームマシンガンで当たり前の様に撃ち落しているし、歩兵が放った至近距離からのバズーカ砲の一撃を、空中で器用に一回転しながら回避とかしているしな。これが、戦闘AIが学習するってことなのだろうか? あれらの行き付く先が、末恐ろしいぜ。


 「……っと!?」


 地上部隊に気を取られている隙に、何時の間にか目の前に敵機が迫っていやがった。咄嗟に機体を右に捻りつつ、左手のマシンガンで丁寧にお礼しておいた。敵機のパイロットとモニター越しに視線が合った様な気もするが、墜とした相手を何時までも気にする必要は無い。


 機体を水平飛行に戻しつつ、改めて空の敵へと目を向ける。レーダーには未だ多数の敵機が映し出されており、更なる増援の影も見えている。それなりの数が、この空域を抜けて研究所へと向かったものの、何れも地上のミディール隊によって排除され、その役割を果たすこと無く墜とされている。


 地上から一方的に狩られる戦闘機って哀れだよな、何て下らない事を考えながら敵機と相対していたら目の前の機体が突如として爆散し果てた。一瞬だけ新手の敵かとも思ったが、そもそも墜とされたのは敵機の方であり、普通に考えたら味方の援護だわな。その証拠に、地上の複数個所からビームが放たれ、その度に此方の周囲で五月蠅く飛んでいた連中がバッタバッタと墜ちていく。


 「あれは……」


 マシンガンに比べて、数倍の長さの銃身を誇るスナイパーライフルを装備したミディール改B型(狙撃仕様)と、その機体を護る様に周囲へ展開する3機のミディール改B型(拠点防衛仕様)。遠距離からの支援射撃を行っていた部隊の一部が、此方への支援へと役割を切り替えてくれた様だ。


 「……サウサンか?」


 此方では特に命令を出していないので、『ランドグリーズ』に対し同レベルの指揮命令権を臨時に与えてあるサウサンの指示だろうと当たりを付ける。恐らく、彼方はある程度の目途が付き始めたので、此方へと幾らか戦力を振り分けてくれたのだろう。負ける気は到底しないが、数が数だけに時間掛かるだろうなって思っていたところだったので、その采配はありがたい。


 「さて、さっさと片付けて女の子を助けに行くとしますかね?」


 飛行モードから人型モードへと可変させつつ、ビームマシンガンを単発から連射モードへと切り替える。左右どちらのマシンガンも、カートリッジ残量は交換したばかりなので十分にある。


 「……」


 目を閉じて、全神経を集中させる。全周囲モニターも、レーダーも、今は必要無い。ゆっくりと左右のマシンガンの銃口を各々の方向へと向け、機体を上方へと急加速させつつ数秒ずつ発射。続いて胸部の姿勢制御スラスターを短く吹いて上半身のバランスを後ろへと崩しつつ、機体下部の脚部を兼ねた推力偏向ノズルを強引に前方へと突き出し出力を全開にして急制動を掛ける。無論、その間も周囲の敵機への発砲は続けている。


 「ぐぅっ……!」


 急上昇からの急制動は、身体へとアホみたいに負荷を掛けてくる。でも、普通の戦闘機ではとても出来ない芸当だからな。勿論、それに近い戦闘機動は出来るだろうが、この『オグマ』ほどのモノは不可能だろう。ついでに言うならば、ドクター謹製のパイロットスーツが無ければ、確実に意識がとんでるだろうさ。


 上へと機体を押し上げていた力と、後から発生した下へと押し下げる力が真っ向から衝突する。そこに元から存在していた重力が後押しとばかりに力を発揮し、機体は一瞬だけ空中に天を見上げる形で静止する。


 「……綺麗な空だ」


 空中で一瞬だけ静止したタイミングで目を開けると、綺麗な空が広がっていた。多くの命が散った空とはとても思えない美しい光景だった。

お読みいただきありがとうございました!

次回もお楽しみに!

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