4-21:動く世界①
章タイトル詐欺が続く。まだだ、まだ終わらんよ!(使い方が激しく違う
要塞に帰投後、自室のシャワーで汗を流してからミーティングルームへと足を踏み入れる。テーブルには色取り取りの料理が大皿で並べられ、後は各自が好みのドリンクを手元に用意すれば、直ぐにでもランチミーティングが始められる準備が整っていた。メンバーは、何時通りのソフィー、シャンイン、ドクター、サウサン、それからヘイスァとバイスァ。オッサンを含めて合計で7人となる。
「さて、先ずは食事を楽しみつつ情報整理といこうか?」
「では、飲み物を注ぎますね」
「なら、私は料理を取り分けますわ?」
この手のミーティングは既に何十回と行っている。皆、阿吽の呼吸と言うべきか無駄なくテキパキと配膳を進め、あっと言う間に各自の手元に丁寧に取り分けられた料理がのった皿が並ぶ。適度な運動の後は、やっぱり美味い飯だよな。ただ、飯のお供が厄介事についてってのは頂けないが。
「いただきます」
さて、今日のランチメニューをセレクトしたのは誰だろうか? ソフィーなら堅実に美味い物を揃える傾向にある。一方でシャンインの場合はチョイチョイ実験的な料理が混ざる。ドクターは、どちらかと言えば健康志向で薄味気味だが、そのぶん素材の味を楽しめる。サウサンは、色々と明後日の方向にぶっ飛んでいるが、味は至って普通という謎の法則が働く。
「さて、何から……」
ナイフやフォーク、スプーンと言った洋食器の他に箸も用意されている。やはり、日本人だけあって箸が手に馴染むんだよな。意外と言ったら失礼かもしれないが、ソフィー達も箸を綺麗に使い熟す。データとして与えられていたのかは不明だが、気が付いたら普通に使ってたな。なので、オッサンがメニュー決める時は、迷わず和食系が主体となる。
さて、無駄話に発展する前にやるべき事を先に片付けるとしようか。正直、折角の飯が不味くなるかもしれないから避けたいところではあるが、立場的に我が儘も言っていられない。
「サウサン。『シャングリラ』の状況は?」
「ん? ……ふむ。まぁ、一先ずは小康状態に落ち着いたと言ったところだな。上官達が抑えに回り、どうにかといったところだが」
「……そうか。パルメニア教団側に動きは?」
「教団上層部は、適度なガス抜きも必要だと見ている様だ。一応、『シャングリラ』の支部長が聖戦師団の幹部と会談したが、公に向けたパフォーマンスだろうな。その他、人員や資金面等では特に目立つ動きは無い」
「そうか」
小競り合いと聞いていたが、一先ずは収まった様だ。まぁ、実際は不満を更に内々へと溜め込んだだけだろうがな。抑えに回ったと言う上官達だって、何時その立ち位置を翻すか分かったものじゃない。聖戦師団が相手となったら、祈るしか能の無いパルメニア教団じゃ抑えにはならない。都市の治安を担う者達が、治安を乱す要因になるって言うんだから、マジで笑えない。
「教団と聖戦師団への情報収集を強化してくれ。もし、身内で収集が付かなくなった時は……」
「軍事介入か?」
「それも選択肢だろうな。下手に放っておいて、共和国辺りがそそくさと出張って来ると厄介だろ? ただ、出来れば余計な介入をしたくないけどね」
「その方が良い。宗教ってのは、実に厄介なものだからな。あんなもの、麻薬と何ら変わらん」
サウサンに取って、宗教は好ましいものでは無い様子。まぁ、それには同意するがね。別に信仰は自由だぜ? 何を信じようと、誰を信じようと、それは人様の自由だ。他の誰それが、何だかんだと言う権利なんぞ無い。ただ、敢えて一言だけ言わせて貰うならば、手前らの世界に一生引き籠ってろ。って、話がズレたな。
「他の勢力の動向は?」
「先ず、共和国だが例のサルがだいぶ荒れている様だ。対外戦争は劣勢のまま、栄光の共和国軍は何処にと言う有り様だ。その結果、支持率も徐々にだが低下し始めている。ヤツに取っては、就任以来初めての事だろうな。お陰で、酒と薬の量が増加気味だとか。もしかすると、本当に自滅するやもしれんぞ?」
「まぁ、彼が倒れて共和国が良い方向に向かうなら歓迎だけどね? 下手に派閥争いが激化して内戦にでも発展したら、厄介だな。帝国と連邦が好機と見て、火事場泥棒よろしくしゃしゃり出てくるだろうし」
「大いにあり得るな。むしろ、それだけの好機を逃すとは思えん」
「だろ? 万が一、ヤツが倒れ共和国の現体制が崩壊するにせよ、その受け皿が整ってからじゃないとな……」
現在の共和国は、一見すると安定した政治基盤を持つローズベルト大統領のお陰で安定している様に見えて、その実、非常に微妙なバランスの上で成り立っているに過ぎない。奴の恐怖政治に対する反発は政界のみならず各界にも根強く、そして根深い。民衆の圧倒的な支持が無ければ、とっくの昔に瓦解していたのは間違い無いだろう。
サウサンが色々と裏で動いてくれたお陰で、見えてきた共和国の闇とでも言えば良いのだろうか? 剥き出しになった火薬類の上を、火の付いた線香花火を持たされて歩いている様な気分にすらなる。人の業とでも言えば良いのか。或いは、果てなき欲求か。何れにせよ、上手く受け皿を拵えないと、後始末に手間取るのだけは確実だ。先に手を出したのはお前だって? はい、すみません。
「次は、連邦だな。此方は安定している。まぁ、裏では色々と血生臭い事も多い様だがな」
「連邦って、確か純血主義だったっけ?」
「そうだ。遠い母なる祖国から、綿々と連なる血筋こそが全て。そう本気で思い込んでいる、狂信者共の巣窟だ。だが、あの手の集団ってのは意外と団結すると手強いぞ? まぁ、徹底的に異物を排除した結果ゆえとも言えるがな」
「あっちもこっちも、嫌な世の中だ」
共和国は剥き出しの火薬庫で、連邦はイカレタ純血主義者の巣窟。帝国は、貴族主義だったか? どれも、まともなのが無いってどうなのよ? まぁ、資本主義やら民主主義も問題はあるけどな。
「で、件の連邦軍だが。帝国軍に触発されたのか、共和国の防衛ライン突破に向けて、日々艦隊強化に勤しんでいる様だ。とは言え、新造の艦に訓練を終えたばかりの新兵では、弾除け程度で碌な戦果は期待できんだろうがな」
「それでも、数が揃えば一定の脅威にはなるさ。現に、共和国の防衛ラインを1本は抜けそうなんだろ?」
「まぁ、それも共和国側の指揮官が如何せん無能なのが大きな要因ではあるがな?」
「何時の時代も、無能な指揮官ってのは敵以上に味方に取って脅威って訳だ」
別に共和国軍が人材不足って事は無いのだろうが、要所に配属される指揮官が無能ってのは笑えないよな。そこで命掛けて戦う軍人達からしたら、敵よりも先に無能な味方指揮官を撃ちたくもなるんじゃなかかろうか。
「暫く停滞気味だった共和国戦線が動いた事で、連邦軍全体の士気も上がっている。一方、帝国戦線は完全に沈黙しているがな」
「以前の時みたいに、裏で手を組んでいると?」
「その辺りの裏を、現地で取らせている。ただ、如何せんお国柄か懐に入り込むのが難しくてな。とは言え、対共和国で両陣営が共同歩調を取ったと見て間違いは無いとは思うぞ? 敵の敵は、味方ならずとも少しの間だけ手を繋ぐ位ならば、両陣営とも妥協するだろうさ」
先の、共和国が8個機動艦隊だかを壊滅させられた会戦。あの時も帝国は連邦と裏で手を組んだ。1度やった事ならば、次からはより抵抗感も薄れるだろう。結果として得られる物が大きければ大きい程にな。
「先ずは、1つ陣営を脱落させる心算か……」
「純粋な国力から見ても、共和国は両陣営から1歩劣るからな。帝国が共和国・連邦双方に手を出し三つ巴の戦いにしたからこそ、此処まで生き延びられたとも言える。だが、其処に我々が現れた」
「止まりかけていた盤上を動かす、悪戯好きなジョーカーの登場か……」
「共和国に取っての悪夢は、帝国・連邦双方に取っての吉兆となった」
「……」
とは言え、あのバカのオーダーを達成するには動くしか道は無かった。まぁ、引き籠って外部との接続を断ち、何れかの勢力が星系統一を成し遂げるのをじっくり待つという手はあったがな。でも、それは悪手だろう。そんな選択をあのバカが許すとは思えない。どうやってでも、介入せざるを得ない状況に放り込むだろう。だから、少なくとも自分達の意思で動ける今の道は、多分だけど悪い道では無い。
お読みいただきありがとうございました
次回もお楽しみに!