4-20:導火線
少しばかり時間は進みます。そして、雲行きが……。
スキンヘッド紳士こと、コルネス・ディア・サンテスを葬ってから3ヶ月弱の月日が経った。皆様、如何お過ごしでしょうか? オッサンは、増加傾向にある宙賊狩りの真っ最中です。この宙域を含め、共和国の手の者と思しき連中によって、ガルメデア、コンラッド、そしてフォラフ自治国家周辺は少しずつだが治安悪化が目立つ様になっていた。
今も、明らかに共和国軍艦と思しき駆逐艦を母艦とする宙賊連中を追撃している所だ。別に、直接的な統治を行っている訳では無いとは言え、庭的な場所でウロチョロとされるのは鬱陶しいものがある。サウサンが色々と対策と嫌がらせに奔放しているが、流石は大国。中々、息切れはしてくれない。
「第1・2小隊は俺に続け。第3・4小隊は、敵艦背後へ迂回。第5小隊は、現宙域で監視を続行」
既存機を改良した、指揮官仕様の『ミディール改』を駆って宙を進む。後方には、2個小隊8機の『ミディール改』が各種兵装を装備し追従している。
この機体は、先のミディール(量産型)に比べ、機関出力向上による機動性の改善と装甲材の見直しによる耐久力の向上した、純然たる後継機となる。デザインに関してはほぼ変化無いが。また、ミディール同様に、各種派生装備によって、宙、空中、地上、海(水)中とオールラウンドに活躍出来る様にもなっている。ミディール用の各種派生型をアンロックしてあると、ミディール改における同系統の後継派生型が自動的にアンロック扱いとなるのも地味にありがたかった。
現在の要塞では、オッサンの搭乗している指揮官機仕様の他に、先のミディール同様に砲戦・偵察・狙撃・拠点防衛・電子戦・早期警戒の各仕様機が既存機を改良して配備されている。勿論、既存機体の改良だけでなく、新規での生産もされているけどね。今回、護衛を兼ねて宙賊狩りに連れて来ているのは、全部で5個小隊20機。4個小隊が、通常仕様3機に砲戦仕様1機の構成。第2小隊のみ、通常仕様2機に加え、電子戦1機、早期警戒機1機となっている。
「……敵艦捕捉。各機、兵装使用自由。迅速に沈めろ」
何れの機体も無人機ゆえに返答は無い。まぁ、その手の機能を持たせる事も可能ではあるが、必要ないだろう。重要なのは、雰囲気ではなく結果を出す事だからな。敵艦から放たれる対空砲火が、一筋の光の様に右から左へと此方を薙ぎ払いに掛かるが、その程度の攻撃に中る機体など存在しない。
敵艦の周囲を飛び交う武装小型艇を1隻ずつ確実に仕留め、最後に随伴する2個小隊と共に最大火力を彼の艦に叩き込んでやれば、呆気無く爆沈した。果たして、これで何隻目の宙賊艦なのやら? ここ3ヶ月、感覚的には週1位のペースで彼らの様な宙賊を相手に小競り合いが続いている。毎回、敵は少数なれど、こうも繰り返しだとな……。
『一馬様。お疲れ様ですの。該当宙域に、他の敵艦は確認されず、ですわ』
「了解。全小隊、帰投するぞ」
母艦であるフォックスフォード級空母へと機体の針路を変更し、機関出力を上げる。爆散し、物言わぬ鉄屑と化した敵艦。本来ならば共和国軍の駆逐艦として艦隊の一翼を担っていたであろう艦が、本来の戦場からは遠くかけ離れたこの宙で、偽装とは言え宙賊艦として最後を迎えるとはね。
「恨むならば、愚かな指導者を恨め」
偽ランドロッサ要塞陥落が大々的に報じられてから、早3ヶ月もの月日が経過した。その間、共和国は帝国・連邦双方との戦線において苦戦続きにある。既に、帝国側の前線は3本ある防衛ラインの内1本を抜かれ、旗色はかなり悪くなっていた。連邦側の前線も、サウサンの分析では間も無く抜かれるとの事だ。勢いが1度でも付いてしまえば、それを押し止めるのは中々に厄介な仕事となるだろう。
相変わらずローズベルト大統領に対する民衆からの支持は高いらしいが、それにも少しずつだが陰りが見え始めてきている。サウサンに行わせている、反大統領派への色々な贈り物が、存外役に立っている様だ。元々、彼に対し不平不満を持つ連中はそれなりの数がいた。ただ、彼が用いる単純明確な恐怖政治に対し、何かを起こす程の覚悟も行動力も無かっただけ。
そんな連中が、サウサンによって焚き付けられ共和国の各地で動きを見せ始めた。当然、大統領や彼に靡く連中もそれに気が付き手を打つ。警察や軍の憲兵隊、果ては諜報機関までもが動き、民衆からは見えないところで粛清の嵐が吹き荒む事に。現地からの情報だと、既に万単位の行方不明者が出ているとか。
「……」
帝国・連邦双方の前線の状況に加え、共和国内の状況。ローズベルト大統領の足元はだいぶグラついて来ていると言って良いだろう。このまま時間の経過で、彼が勝手に自滅するのを待つのも手ではある。現地工作に掛かる費用は大した額では無いし、現地工作員は何れも共和国の人間だ。此方に繋がる情報など与えていない。最悪、全員が捕縛され行方不明になろうと、要塞として直接的に人的損害を受ける事にはならない。
「流れに任せるか、或いは動くか……」
傍観者となるか当事者となるかの選択だな。どちらにも、メリットがありデメリットがある。問題があるとすれば、帝国と連邦が此方に対してどう動くかが読めない点だろう。前回、コンラッドでシャンインが両勢力の御用商会と接触ないし接触を図った以降、特に動きは無い。こちら側から何か働きかける事はしていないし、向こうからも同様だ。一応、管理AIとサウサンに両勢力の情報収集を行わせているが、そちらでも特に目立った動きは見られない。
動くべきか、動かざるべきか。母艦たる空母へと着艦し、格納庫へと愛機を預け艦橋へと向かう最中も、頭の中では幾つものシナリオがグルグルと取り留め無く展開されては消えていく。要は、考えが纏まらない状態って事だな。いやはや、こうなった時は一先ず先送りにするが吉かな?
「お疲れ、シャンイン」
「お疲れ様ですわ、一馬様」
艦橋へと到着し、笑顔で迎えてくれるシャンインと言葉を交わす。ちなみに、宙賊狩りに同行するメンバーの顔ぶれは毎回変わる。前回は、ソフィーで、その前はドクターだった。主に、彼女達には艦橋で戦況を分析して貰い、オッサンが護衛部隊と共に実働部隊として動くのが基本だ。
えっ? 何時から、1人で搭乗出来る様になったのかって? あぁ、例の規制ならば、前回のスキンヘッド紳士達を排除した時に発生した精神的な攻撃に対する補填って事で、小規模な戦闘に限り単独搭乗が許される様になったのだよ。で、それを利用して日々宙賊狩りに邁進していると言う訳だ。
「さて、この宙域も片付いたし、一先ず要塞に帰ろうか?」
「了解ですの。ただ、その前にお伝えしたい事がありますわ」
「何かあった?」
「パルメニア聖戦師団の一部が、共和国からの星女奪還を叫び、パルメニア教指導部に対し武装蜂起したとの情報がサウサンから入りましたわ。既に、第10コロニー『シャングリラ』では、聖戦師団に所属する者同士で小競り合いが発生している様ですの」
「……やれやれ。事態は勝手に動くってか?」
ガルメデアコロニー、宙賊と来て、次はパルメニア教かよ。これは、完全に厄介な導火線に火が付いたな。いや、オッサン達の行動がそれを誘発したと見るべきか。何れにせよ、これは動くしか無くなった様だ。流石に、このまま傍観者って訳にはいかないだろうからな。
「一先ず、要塞へ帰投する。戻り次第、対応を協議しよう」
「了解ですの」
さて、どうすべきか? 無い頭を捏ね繰り回すとしましょうか。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!