4-18:首狩り作戦③
も、もう1話。
「第1、第2中隊、突入を開始。第3、第4中隊、周辺確保を開始ですの」
「了解。支援兵器が入れないから、慎重にね?」
「勿論ですの」
いよいよ、陸戦隊がスキンヘッド紳士達が陣取るオフィスビルへと突入していく。まぁ、オフィスビルとは言っても、元いた世界の様に洗練された建物ではなく、原形を残さぬ程の増築を重ねられた代物だが。それでも、そこは敵の根城と言って良い場所。宇宙港出入口以外で、最も抵抗が予想される地点であった。
「ミディール隊。主要幹線道路の閉鎖を完了。2個小隊が、其方の援護に入りました」
「了解。外周部を固めよう。他に敵に動きは?」
「市内は静かなものですな。事態が楽に進むのは良いですが、些か上手く行き過ぎている気もしますな?」
「何らかの罠だと?」
「あくまで、可能性ではありますが」
ドクターの言う様に、此処まで順調過ぎる程に順調にきている。激しい抵抗も、連絡通路出入口で待ち伏せを受けて以降、目立った抵抗は無い。オフィスビルに到達する迄の道中、散発的な発砲が数回ある程度だった。事前情報から鑑みる限り、敵の戦力はまだ残っている筈だが?
「シャンイン。突入部隊の警戒レベルを上げてくれ。罠の可能性が高い」
「了解ですの」
「ドクター。ミディールのセンサーで何か捉えられるか?」
「……そうですな。特に目立った動きや通信などはありません。サーモグラフィで周辺の建物含め内部を確認させておりますが、該当建屋の最上階に複数人が固まっている以外、特段気になる点も無いですな。爆発物等の設置も見受けられませんぞ」
「抵抗を諦めたのか?」
スキンヘッド紳士達との付き合いは半年と言ったところだ。正直、それほど親しいと言う訳では無い。もっぱら、やり取りはシャンインが担当していたからな。少ない記憶を遡って考えてみるが、どうにも行動が読めないな。諦めて、最後の時を楽しんでいるとか? 或いは、既に死んでいるとかか?
「まぁ、最上階に辿り着けば分かるか……」
犠牲が出る可能性はあるが、確認するしかないだろう。向こうが最後の大芝居とばかりに、此方もろとも自爆する様な強硬策に出ないとも言えないしな。何れにせよ、答えは直ぐに出る。
「1階層、オールクリア。突入部隊、2階に上がりますの」
「1階層での抵抗は皆無か……」
1階での抵抗は僅か数人程度。最早、たまたま居合わせた連中が武器を手に向かって来たってレベルだよな。何て言うか、既に組織的な抵抗が出来なくなっているのか? でも、何故?
「ドクター。2階の状況は?」
「熱画像によると、数名はいる様ですな。何れも、北東の部屋内に固まっております」
「了解。シャンイン、北東の部屋を確認させてくれ」
「了解ですの」
ミディールから送られて来る外部映像と、サーモグラフィによる映像。確かに見る限りだと、北東の部屋に数人いるだけで、この階にも特段気になる箇所は無い。罠か、抵抗を諦めたか。或いは……?
「一馬様。北東の部屋ですが、全部で5名が武装しておりましたが、何れも投降の意思を示してますわ?」
「投降? 戦わずに? まぁ、戦力差から考えれば妥当って言えば、妥当だけど……」
「……えっ? あぁ、なるほどですの!」
「ん、どうしたの?」
「この者達、此方に靡く姿勢を見せていたグラハム・バッガスの手の者ですわ」
「……そう言えば、そんな事を言ってたね。それで投降の意思を示したって訳か」
「その様ですわ。どうも、いざと言う時は抵抗せず投降する様に指示を受けていた様ですの」
突入部隊の戦闘アンドロイド達とシャンインは、インカムを通して直接やり取りをしている。艦橋内には現場音声を流してないのかって? 銃声だの、怒号だの、悲鳴だのが響き渡る艦橋とかって、居心地悪いでしょ? だから、現地部隊との通信音声をシャンインが聴いている以外は、映像だけなんだよ。今は、何事もサイレントの時代ですよ?
「これは、御膳立てが済んでいるって事なのかな? だとしたら、此方としてはありがたいけれども、恩を押し売りされるのもね……」
「余計な取引が発生すると厄介ですな?」
「う~ん、あくまで自分の有用性を示す為だけって言うならば、プラス評価だけど。欲を出してって言うのならば、マイナス評価だな。判断に悩むところだわ」
「一馬様。あの男は特段、有用な人材ではありませんの。もし、欲を出したというのならば、序に片付けますわ?」
「取り合えず、最上階で真意を確認してからにしようか? 早合点しては、ダメ絶対だから」
「了解ですの」
無事に2階も制圧した突入部隊は、2ヶ所ある階段を上り最上階となる3階へと到達した。此処に、スキンヘッド紳士の執務室があり、映像で見る限りは彼らが集結していると考えられる。はてさて、罠かそれ以外か。鬼が出るか蛇が出るかだな。他人事過ぎるって? 流石にね。所詮、彼らは町のチンピラだから。正規軍を相手にするのとは訳が違うよ。
「最上階へ到達。突入部隊、執務室前にて待機。何時でも行けますわ?」
「映像で見る限り、突入して問題は無いかな? ドクター、通信関係は?」
「特に不審な電波の発信等は確認出来ませんな。宜しいかと?」
「了解。シャンイン、突入させて」
「了解ですの。……突入!」
戦闘アンドロイドの見ている光景が、戦術モニターへと映し出される。木製の、それなりに厚みのありそうなドアの、直ぐ横の壁が2名の戦闘アンドロイドによる体当たりでぶち抜かれ、突入が開始された。
普通、犯人が立て籠もる室内への突入時は、殺害が主で無い場合は非致死性の閃光弾などが投じられるのが主だ。しかし、今回は内部に協力者もいる関係上、それらは用いずに素早く制圧する為に、敢えて壁を力尽くでぶち破ると言う相手の意表を突く手段を講じた。
「……結果は上々かな?」
壁を強引に破った衝撃で、立っていた者達は大きくバランスを崩す事となった。結果、突入した戦闘アンドロイド達に銃口を突きつけられ、大人しく手を上げる以外の選択肢は無かった。
「コルネス・ディア・サンテス、ディアナ・グ・ティグアン、グラハム・バッガス、シャラナ・アートマンの4名を確認しましたわ。……この場に居ないのは、資源担当のマルコ・シザーズですわ」
「シザーズって言うと、あの学者っぽい人か。察知して逃げたか、彼らが逃がしたか……」
「必ず、見つけ出しますわ? 余計な膿は出し切るに限りますもの」
シャンインの言う通りだな。権力構造を書き換える以上、余計な膿はこの機に出し切るが吉だ。資源担当って事だし、他のコロニーなり勢力とも繋がりがあるだろうからな。下手に逃げられると、後々で面倒な事態を引き起こす可能性が高い。そうならない様に、早めに手を打っておくしかない。
「シャンイン。一先ず、彼らを別々の部屋に隔離してくれ。先に協力者達からの情報が欲しい」
「了解ですわ」
時間は有限。さっさと、彼らを分断して必要な情報の収集といこう。此方の包囲網が完成する前に離脱していない限り、必ず見つけ出すさ。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!