4-15:首狩り作戦①
そろそろ、彼が退場に。
「ドクター。ミディールは同時に何機まで内部へ送り込める?」
「元の設計図と、現地の映像を照らし合わせる限りですと、1ヶ所あたり最大で6機程度までかと?」
「なら、余裕を見て1個小隊4機ずつ送り込もう。リスクは出来るだけ減らしておきたい。後でどうこう言われるのは勘弁だからね」
「畏まりました。では、その様に手配を致しますぞ」
工事用シャフトを利用してコロニー内部への潜入を進めるミディール隊だが、潜入に際し問題が無い訳ではない。コロニーは、様々な要因から複層構造となっている。で、一番内側の層内に都市部が形成されている一方で、一番外側の層は真空となっている。各層を貫く形で繋ぐ通路には、内部の大気が外部へと漏れ出さない様、各所にエアロックが設けられている。
建設時に設けられた工事用シャフトも同様にエアロックが設けられているが、内部で使用する工事資材用の物なのでサイズがそこまで大きく無い。結果として、艦艇に比べて遥かに小型のミディールとは言え、同時に数機が入れば一杯になってしまう程だ。しかも、層の数だけエアロックもある訳で。つまり、内部に入るまでには時間が掛かるって事。無論、それを少しでもカバーする為に、複数個所から同時に潜入は進めるがね。
「一馬様。陸戦隊、上陸を開始ですわ! 宇宙港での抵抗は皆無との事ですの」
「了解。多分、その先のエアロックなり、通路なりで待ち構えているんだろう。支援兵器を前に出して、進軍。敵対者は容赦なく排除しろ」
「了解ですの。各ミディール小隊も順次エアロックへ突入ですわ」
「了解。先は、長いかもしれない。ノンビリといこう」
別に、今回の首狩り戦は1分1秒を争う訳では無い。まぁ、余りにもチンタラやっていると、共和国辺りが多少騒ぎだすかもしれないが、それでもそうなるまでには相当掛かるだろうな。何て言っても、正義の鉄槌を振るうべく派遣された、3個機動艦隊が消息不明なのだから。お陰で、共和国内部は絶賛大荒れ中。
そして、その隙を突くかのように、帝国軍が共和国の防衛ラインに圧力を掛け始めている。恐らく、3個機動艦隊が動いた辺りから、勘づかれない様に準備をしていたのだろうね。それに、サウサンの情報では連邦軍にも動く気配があるそうだ。2方面から連続して圧力を掛けられた場合、既に劣勢になりつつある今の共和国では、これ以上の戦力を割いてまで此方に手を出し続けるのは困難だと彼女は見ている。
「まぁ、時間は有限だけど、焦る必要は無いって事だ。スキンヘッド紳士の手腕、とくと拝見しようじゃないの」
「楽しみですな? ミディールの1個小隊でもやられれば、実に面白いのですが……」
「流石に、それは高望みし過ぎですわ? サウサンが調べた限り、彼らの戦力の大半は、携帯式の小火器ばかりですもの。後は精々が車載式の機関砲くらいですわ」
「どうせなら、手ごろな武器や兵器類を予め流しておけば良かったかな? そうすれば、馬鹿が更に釣り上げられたかもしれないね」
人は誰しも力を得ると、自分自身が強くなった様に過信しがちだ。まぁ、それはオッサンにも言える事だけどね。今回、ガルメデアの頭を挿げ替えるに辺り、事前に武器類を流しておけば、そんな勘違い野郎を増やせたかもしれなかった。将来への潜在的な脅威を排除出来る機会を、無駄にしてしまったかもしれんな。失敗は次に活かさんと……。
「宇宙港から先の通路で、散発的な発砲ありですわ。映像で見る限り、時間稼ぎって感じですの」
「向こうだって、下手な場所で戦闘して内部構造へダメージ与える訳にはいかないだろうからね。何処か、広さを確保出来る地点で待ち伏せしているってところじゃない?」
「同感ですな。仕掛けてくるとすれば、地表出口付近かその手前の地下層ですかな?」
「その辺りだろうね。多分、地表面じゃないかな?」
宇宙港から連絡通路を通り地表面へと出ると、そこは大きめの広場となっている。まぁ、流刑地だった事もあって、広場に各種交通機関が乗り入れているって事は無いが。精々、商魂逞しい者達が個人で屋台を出している程度だ。通路への出入口を、半円形の形で包囲する事が出来る点は大きい。
一方の地下層は、各種ライフラインとメンテナンス用の通路が設けられており、普段は人気の無い場所となっている。派手にドンパチやっても住民を巻き込む事は無いが、気を付けないとライフラインにダメージが入る点は見過ごせない。それに、地下層に此方を引き込む手間も必要となる。
「陸戦隊、ミディール隊。此処までは、何れも順調ですわ。敵の抵抗も低調ですし、正直つまらないですの……」
「いやいや、戦力的に最初から分かってた事でしょ? 所詮、これはコロニー住民に対するデモンストレーションなんだから。彼らは、その為に尊い犠牲になったんだよ」
「まだ、終わっておりませんぞ? 油断、慢心は感心しませんな?」
「それを言ってるドクターも、さっきからミディールのデータしか見てないでしょ?」
「ハハハッ。まぁ、何事も程々が1番ですな!」
和気藹々としている、スレイプニル艦橋。今頃、スキンヘッド紳士達は何をしているだろうか? 支配階層者らしく、ワインやらブランデーやらが注がれたグラス片手に、優雅なひと時を過ごしていたりするのだろうか?
「陸戦隊が地下層に到達ですわ。敵の姿は……、今の所は確認出来ないですの。それから、ミディール隊もエアロックが残り後2ヶ所ずつですわ」
「順調でなにより。どうせなら、最初から抵抗する事なく首を差し出してくれれば楽だったんだけどね」
「彼らにも、彼らなりの意地があるのでしょう。であるならば、我々がするべき事は、真っ向から叩き潰すことですな」
「まぁ、陸戦隊に経験積ませる良い機会だし。プラス面に目を向けよう」
何事も経験ですよ、経験。決して、暇だとか、つまらないとか言ってはならない。彼らの尊い犠牲は、フォルトリア星系の輝かしい未来の礎となるのだ(完)
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