1-16:打ち合わせ
少しずつ、PVもブックマークも伸びていて、大喜びの作者です。
それでは、本編をどうぞ。
軽食と軽い休憩を済ませて司令室へ戻ると、戦闘アンドロイドに左右から挟まれ居心地悪そうに佇むアイザフ大佐の姿が目に入った。そして、その直ぐ傍ではソフィーでは無く再び姿を変えたシャンインの姿が。取り合えず、机と椅子に飲み物位は必要そうだな。
「戻ったよ、シャンイン。アイザフ大佐もようこそ、司令室へ」
「お帰りなさいませ、香月司令官様。ゆっくりお休みに慣れましたか?」
「何やら話が有ると聞いて来たのだが?」
「ありがとう、シャンイン。取り合えず、此処って机とか椅子は有る?」
「お待ちください」
シャンインが手元の端末を操作すると、床の一部が開き机と椅子がせり出してきた。俺の私室と似たような仕組みがやはり有ったらしい。丸い机に、椅子が4つ。俺が一番手前に腰掛けると、シャンインが右隣りの椅子へ、アイザフ大佐が此方を伺いつつ左隣りの椅子へと各々着席した。
「ついでに、飲み物とかも頼めるかな?」
「コーヒーで宜しいでしょうか?」
「良いよ。大佐も同じ物で?」
「お任せする」
「じゃ、頼むね」
「了解ですわ~」
シャンインって、ソフィーとは違ってちょいちょい俺に対する言葉遣いがフランクになるよな。これも人格毎の個性って事なのだろう。さて、アイザフ大佐も来たことだし、改めて此方側のプランを伝えるとしよう。
「さてと、アイザフ大佐。貴方の任務はナターシャ嬢及び護衛達を第16コロニーへ送り届ける事ですよね?」
「そうだ。正確には、第16コロニーにいる協力者達の元へだがな」
「結構。先ほどは聞きそびれたのですが、その後の行動について本国から何か指示は?」
「追って指示を出すとだけ聞いている。ボルジア側の追跡部隊の動きもあるから、具体的な行動指示は出ていない。暫くは彼女達と同様にコロニーで潜伏するする手筈だった」
「なるほど。ちなみに、後12時間程でボルジア共和国側の追跡艦隊が出撃する様ですよ?」
「……その情報の出所は?」
「軍事機密ですね」
流石に、そこまでは教えられない。精々彼らとは一時的な共闘関係になる程度だ。必要以上の情報提供は、此方の首を絞める結果にしかならないからな。あくまで、此方の判断でオープン出来る情報を流すだけだ。
「現状、判明しているだけでも3個艦隊21隻が出撃準備を進めてます。偽装経路を航行してきたとは言え、稼げる時間はそう長くは無いでしょう。そう遠く無い将来、この宙域に彼らの狙いは絞られる」
「我々の行動が全て無駄だったと言いたいのか?」
「正直、今のままじゃ最悪の結果にしかならないでしょうね」
遅かれ早かれ、ナターシャ嬢は共和国に捕まるだろう。その後の彼女にどんな運命が待ち受けているかは不明だが、恐らく見せしめとして首相共々公開処刑辺りだと予想している。共和国に逆らった愚かな者達の末路として……。
「ならば、何か策が有るとでも?」
「策と言うか、此方に来るであろう共和国艦隊を撃ち破るしか無いでしょうね」
「貴官は、本気で言っているのか? 21隻もの共和国艦隊を相手に勝てると?」
「別に正面から共和国艦隊とガッツリ組み合って戦う心算なんて有りませよ?」
「では、どうする? このデブリ帯に共和国艦隊を誘導でもするか?」
「それも考えましたけどね。それだけじゃ面白くないでしょ」
「はっ?」
あははっ。ポカーンとしたアイザフ大佐、意外とカワイイじゃん! でも、オッサンが軍人のオッサンに萌えるとか無いわ……。って、真面目な話に戻さないとな。
「まぁ、確かにこのデブリ帯は引き込んで戦うには良い場所ですよ? 追跡艦隊が各艦隊毎にこの宙域に入ってきたらそれも有りかなとは考えてます。でも、3個艦隊が一斉に来た場合、誘導するのは難しいでしょうね」
「そうだな。相手も馬鹿ではあるまい。別の艦隊に先回りさるのが関の山だ」
「なので、デブリ帯での戦闘は一部分だけ採用ですね。メインは、コロニーを利用しての機動戦ですよ」
「ふむ……」
取り敢えず、此方の話しに興味は持って貰えた様だ。まぁ、向こうは長い軍歴を持った軍人で、こっちは着任3日目のペーペー。無理せずに気楽に行こう。
「アイザフ大佐には、当初の予定通りコロニーにディーシー号で向かって貰います。そして、その情報は時を置かずに共和国艦隊側にも伝わるでしょう。そうなれば、彼らは一目散にコロニーを目指すでしょうね」
「それで?」
「アイザフ大佐には、ナターシャ嬢と護衛をコロニー内へ送り届けたら、追跡艦隊到着の寸前にディーシー号で脱出して貰います。共和国側は、ディーシー号の存在も当然ながら掴んでいるでしょうから、本命がコロニー内だとしても念の為に数隻で追跡して来ると思います」
「相手戦力の分散が狙いか」
「えぇ。出来るだけ分散させて各個撃破に持ち込みます」
1隻の貨客船追跡に回される艦艇の数は、多くて1個艦隊―巡洋艦1隻と駆逐艦4隻―だと踏んでいる。ソフィーの話では、コロニー内を捜索する為の陸戦隊が補給艦に乗艦している可能性が高いそうだ。そうなると、当然だが補給艦は彼らを上陸させる為にコロニーの宇宙港へと入港する。上陸中は無防備に近くなるので護衛として最低限の艦艇が宇宙港付近に留まる事になるだろう。此方も恐らく1個艦隊程度だと想定している。なので、補給艦を除いた残りの1個艦隊相当はコロニー周辺の警戒に動くと見ている。
「ディーシー号を追跡してくる敵艦隊は、可能な限り要塞に近い場所で巡洋艦1隻と機動砲にて応戦。上陸の為に脚の止まった補給艦と護衛の艦隊を駆逐艦2隻で攻撃。もう1つの艦隊にも同じく駆逐艦2隻からなる艦隊で攻撃。此方はコロニーの壁を盾にして徹底した機動戦に持ち込みます。現状では此方の方が速度が上ですからね。速度を最大限に利用します。それに相手は味方戦力が上陸中のコロニーへ攻撃出来ないでしょうし」
「上陸中の最も無防備に近いタイミングでの奇襲か」
「まぁ、実際に狙うのは護衛に残る艦艇の方ですけどね」
「補給艦は狙わないと?」
「軽武装の艦より、まずは戦力を1隻でも削っておきたいですから」
補給艦が軽武装だからってのも有るが、至近距離でドンパチやって多大な迷惑を掛けるであろうコロニー側に、現物として後々提供しようって狙いも有る。ちなみに、それ以外の艦艇は資材として再利用出来るそうなので、撃破後に出来るだけ回収するつもりだ。共和国艦隊が、要塞の艦隊として生まれ変わるのが実に楽しみ。
「運良く、奇襲が成功したとして、何隻落とせると踏んでいる?」
「コロニーでの戦闘は、初撃で巡洋艦1隻を喰えれば御の字だと思ってますよ?」
「ほぉ……。香月司令官は、随分と控えめなのだな」
「それが、香月司令官様の良い所ですわ!」
「シャンイン。それは誉め言葉になって無くないか!?」
行き成り会話に入って来ないでくれシャンイン。オッサンの心臓に悪すぎる。しかも、中々に酷い言い草だしな。本当なら、全艦沈めます位は言いたいけどさ、こちとら堅実な目標立てを信条としているんだよ。
「凡そのプランは理解した。……それで、全体として成功する確率はどの程度だと踏んでいる?」
「アイザフ大佐のディーシー号がしくじらなければ、100%ですかね?」
「臆病なのか大胆なのか、分からない人物だな、君は」
「それ位じゃないと、要塞の司令官なんて務まらないですよ?」
「ふっ……言うじゃないか。新米司令官殿にしては」
「あっ、バレてました?」
「当たり前だ」
流石はアイザフ大佐。大方、俺の言動なりから推測していたのだろうね。まぁ、それでいて俺を下に見てくる様な態度を見せてこないのは流石と言うべきだろうな。
「もう1つ聞きたい。今回の追跡艦隊を撃ち果たせたとしても、恐らく次が来るぞ。次も勝てるか?」
「勝ちますよ? 此方は要塞以外に拠点の無い状態。つまり最初から背水の陣ですから。負けられる余裕が有りませんよ」
「そうか……」
腕を組み、何やら考え込むアイザフ大佐。取り合えず、同意は取り付けられたと思って良いのだろうか? ぶっちゃけ、今回のプランは穴だらけと言って過言では無い。想定通りに事態が進んだ場合ですら、かなり危ない橋を渡る事になる。実際のところ、今の状態だと要塞の守備戦力が思考爆雷しかないからな。
さて、アイザフ大佐が思考の海に潜っている間に、やる事をやっておかないと。オッサン命名、司令官の席に腰掛け、システム管理端末を起動する。予想通り、既に改アスローン級駆逐艦2隻の建造が完了しているな。これらの艦艇を軍港に移し、空いた建造ドックにアスローン級駆逐艦2隻を入れ改良を行う。その際に金属が40t消費されるが、必要経費として割り切れる量だ。改良に掛かる時間は2時間。これで改アスローン級駆逐艦4隻が揃う事になる。そして、推進剤が溜まる明日以降でカンターク級巡洋艦の建造に取り掛かる。いやはや、追跡艦隊が来るまでに時間が有って本当に助かった。
「おっ!」
「どうかされましたか?、香月司令官様?」
「あぁ。任務が達成出来てたよ」
「そうでしたか。おめでとうございます」
満面の笑みでそう言ってくれるシャンイン。アイザフ大佐とのやり取りからは想定出来ない、とても柔らかい笑顔が素敵です。一応、アイザフ大佐に気を付けて小声になっている所もまたナイス。
「何々……」
達成出来たのは、≪駆逐艦同時建造≫、≪初戦闘≫、≪初勝利≫、≪初捕虜≫の4つか。何て言うか、初捕虜とかどうなんだろうな? 捕虜のつもりは無かったけど、システムとしては捕虜として認識しているって事か。まぁ、貴重なポイントが4つ手に入ったのは喜ぶべきだろう。兵器の開発ツリーを進めて何か要塞守備隊向けの兵器とか生産可能にならないだろうか。戦闘機とか生産出来れば、デブリ帯での戦闘で活躍出来そうだな。後でシャンインかソフィーに相談してみよう。
何時の日か、無双して俺ツエー!!をしてみたいと思った今日この頃のオッサンでした。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。