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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第4章:マーク・トゥウェイン要塞攻略戦
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4-4:絶望との戦い④

最後のは、ど定番ネタを放り込みました。

 支援艦隊がランドロッサ要塞陣営に襲撃されているのと時を同じくして、偽ランドロッサ要塞宙域においても両軍の戦端が開かれんとしていた。此処まで一方的な長距離砲撃によって多数の艦を失いながらも辿り着いた共和国艦隊を迎え撃つのは、旧式艦とダミーバルーンで構成された防衛艦隊である。


 「アレが、正体不明の攻撃の原因とはな……」


 モーニングコールの1射目で総旗艦を失い、合わせて多数の上級指揮官達が戦死した結果、本来の手続きなどを全て省略し現場判断で指揮官代行に就任したのが、リチャード・メイガン少将であった。彼は元をただせばSTF-05を構成する3個機動艦隊内の1つ、第13機動艦隊旗下の1個任務部隊(定数500隻)を預かるだけの人物であった。それが気が付いたら、3個機動艦隊からなる特別任務部隊を率いる事になっているのだから、当人からすれば溜まったものでは無い。


 ハッキリ言って、彼は機動艦隊を率いる事の出来る様な人物ではなかった。元々、軍に入隊したのは経歴に箔をつけ、現大統領の様に政界へと転身する為のもの。各方面にそれなりの影響力を持つ父親のコネで地方の危険度の低い部隊を転々としながら、あの手この手で少将まで昇進を勝ち取ってきたのだ。本来ならば、既に退役し政界転進の為の支持者固めにはしる筈が、運命の悪戯によってこの様な辺境の地へと来る事になってしまったのであった。


 とは言え、此処で軍人上がりの大統領に戦勝と言う名の吉報を届ける事が出来れば、政界転進は間違い無いと彼は確信を持っていた。此処に到達するまでに、支援艦隊の護衛として置いてきた500隻余りの艦に加え、正体不明の攻撃によって1,000近い戦闘艦が既に沈んだが、それでもまだ4,000隻程は彼の手元に残っていたのだ。そして、今彼らの前にはその攻撃の正体が姿を現していた。試製500㎜対艦砲と、試製750㎜対艦砲である。何れも全ての砲弾を撃ち尽くし、沈黙していた。


 「何ともコレは、形容しがたい化け物ですな?」

 「あぁ、全くだ。辺境の蛮族のクセに、厄介な物を……。とは言え、戦勝に加えアレを我らが物に出来れば、閣下もお喜びになるやもしれん。帝国や連邦もあれほどの物は持っていないであろうからな」

 「確かに。良き土産となるでしょう。見るに、残弾は既に無い様子。一先ずは、要塞攻略から先で宜しいのでは?」

 「貴様に言われんでも分かっている! 総員、戦闘配置! 此処までの恨み、奴らに叩きつけてやれ!」


 メイガン少将の腰巾着と言われる、副官のボックス大佐。実は彼は、ガルメデアコロニー攻防戦において捕虜となった、第10海兵師団701大隊大隊長代理であるギル・ボックス少佐の実兄である。ただ弟とは異なり、軍人として優秀とは決して言えない人物ではあるが。メイガン少将とボックス大佐。どちらも似たもの同士であった。


 「先ずは、艦載機隊で徹底的に奴らをかき回してやれ! その後で戦艦隊による長距離射撃から入るぞ!」


 当人の実力以外の部分で大半の昇進を勝ち取ってきたとは言え、彼も指揮官として最低限の実戦指揮経験はある。その指揮は特に面白みの無い無難なものではあったが、逆に言えば堅実かつ確実な手でもあった。




 一切の艦載機を持たず旧式艦による迎撃がメインとなる要塞側に対し、道中で多少失ったとは言え多数の艦載機隊による制宙権を確保した共和国軍との戦闘は少しずつだが、確実に共和国軍側に傾いていく。とは言え、その状況を手放しで喜べる共和国側では無かった。


 「まだ、連絡は付かないのか?」

 「はっ。残念ながら、未だにどの部隊からも返答はありません。此方からの通信が届いていないとは、思えないのですが……」

 「確か、これまでの報告で、蛮族共が電波妨害らしきものを行っているとあったな?」

 「はい。……まさか、別働隊が?」


 本隊で敵を引き付けつつ、別働隊が後方に回り込むと言うのは良くある手だ。今回で言えば、大胆に根拠地たる要塞を囮に、後方の支援艦隊を襲っていると見るのが正解だろうと、メイガンは当たりを付ける。


 「しかし、それならば要塞の守備戦力が少なすぎる。報告では多数のダミーが紛れ込んでいる様だしな。これでは、まともに戦闘出来るのは5~600隻と言った所ではないか?」

 「確かに、それでいて、別働隊で後方を襲わせると言うのは腑に落ちませんな。幾ら戦力を持とうと、根拠地たる要塞を失えば、奴らは住処を失ったも同然」

 「そうだ。余りにも敵の狙いが不明瞭だ。レーダーも問題無いのだろう?」

 「はい。これまでの報告にあった電波妨害もこの宙域では確認されておりません。ただ、正面から撃ち合っているだけです」


 後方に残した支援艦隊との通信途絶に加え、これまでとは戦闘スタイルがまるで違う要塞側に対し、共和国軍側は困惑していた。勿論、その間も双方の間で攻撃は行われているし、多数の艦がその結果として沈んでいく。


 「なんだ、この違和感は……。何かが違う……」


何か、致命的な思い違い、或いは見過ごしがあるのではないか。そうメイガンが思い至った時、彼に決定打を与える報告が艦橋へと上がってきたのであった。


 「敵要塞に到達した艦載機隊より入電! 『要塞そのものが、巨大なハリボテの可能性あり』との事!」

 「要塞が、ハリボテ……?」


 敵の防衛艦隊には多数のダミー艦―要塞側で言うダミーバルーン艦のこと―が混じっていたのは確認されている。負け犬の第6機動艦隊からの報告にもその様な記述があった事はメイガンも知っていた。まぁ、所詮は負け犬の惨めな戯言だと読み流していたのだが。もし、それが要塞そのものすら生みだせる代物だとしたら? あるいは、そこまで技術的な進化をしていたら?


 「……我々は、偽物の要塞に誘き出されたと言うのか!?」




 「敵艦隊、全艦が範囲内へと入りました」

 「エサが上等ですもの、見事に釣り上げ成功ですの!」

 「どうやら、敵もアレがハリボテだと気が付いた様子。ですが、一足遅かったですな?」

 「一網打尽と言うヤツだな。一馬、奴らが余りに哀れだから、さっさと終わらせてやったらどうだ?」

 「言われなくても、ちゃっちゃとやるよ。下手に仕掛けに手を出されると厄介だしね。ドクター?」

 「準備は出来ております。お好きなタイミングでレバーを下げてくだされ」

 「了解」


 司令官用のコンソール類に、今回の為だけに追加で取り付けられたカバー付きのレバー。危険を示す黄色と黒の縞々模様で周囲を覆われた透明なカバーが開き、1つのレバーが外気へと晒された。一馬はそのレバーを握り、一思いに手前へと引く。


 「フォルトリア星系の平和の為に……何てね?」


 レバーが最後まで引かれた瞬間、ランドロッサ要塞から偽のランドロッサ要塞へと命令文がとび、最深部に設置されていた装置が起動した。




 「しょ、少将!?」

 「何だ、突然奇声を!? 何が……アレは、何だ……?」


 巨大なハリボテであると判明した、敵の要塞。その内部から眩しい程の光の帯が次々と漏れ出していく。その幻想的とも言える光景に、誰もが一瞬だが意識を奪われた直後、世界の全てが白く染まったのであった。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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[一言] 自爆!! ロマンだ〜
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