4-3:絶望との戦い③
最近、調子が上がらず執筆スピードが落ちる一方。
更新が落ちたら察して下さい。でも、エタるのだけは阻止する。
共和国軍特別任務部隊『STF-05』本隊から分離した揚陸艦や補給艦等からなる支援艦隊は、幾つかのデブリ帯に少数ずつに分かれた上で艦を潜ませ、合流の指示を待っていた。敵要塞周辺宙域の艦隊を殲滅した後、彼らの護衛の元で要塞へと陸戦部隊を送り込む。要塞攻略における基本的な戦術が今回も採用された。無論、既に一方的な攻撃を受ける等、予定が大幅に狂っている事は否めない。しかし、他に選択肢も無かったのだ。
「ん? ったく、こんな時に故障かよ?」
「どうした?」
「いや、レーダーがおかしくてさ? さっきから、磁気嵐にやられた時みたいになってやがる」
「あー、マジじゃん。てか、磁気嵐の予報なんかあったか?」
「俺に聞くなよ。宙域予報の管理はそっちだろ?」
「あんなもん、真面目に聞いてるヤツの方が少ないだろ」
通信やレーダーを担う、艦橋内管制担当下士官達の何気ないやり取り。普段ならば、それを耳にした直属の上官から小言と共に拳骨の1つでもくらうか、何らかの罰を受けるのは定常だった。それを軍紀の緩みと捉えるかは別として、どこの艦でも割と見られる光景の筈だった。だから、ふざけて笑い合っている下士官達も、そろそろ上官の怒声が艦橋に響く頃かなと内心期待しつつ上官の顔色を窺ったのだった。
だが、彼らの期待する表情を上官は浮かべていなかった。むしろ、何処か焦った表情を浮かべながら、祈る様に耳から口元へと伸びる通信装置へと必死に呼びかけていたのである。その異常さに気が付いたのは下士官達だけでは無かった。艦橋にいる他の乗組員達や艦長もまた、彼の様子に気が付いた。その彼に、最初に声を掛けたのは艦長であった。上官として部下を気に掛けるという、ごく当たり前の行動からであった。
「どうした、ラスティン中尉?」
「……此方、強襲揚陸艦『エルドン』号。誰でも良い、応答してくれ。頼む、誰でも良い!」
「ラスティン中尉?」
「頼む、誰か応答してくれ! 此方は『エルドン号』!」
「ラスティン中尉!!」
滅多に大声を上げない艦長の鋭い声に、漸く管制士官のラスティン中尉は我に返った。
「一体、どうしたというのだ? 君らしくないぞ?」
「それが……」
厳しく問い詰めるのではなく、意識して穏やかな口調で状況把握に努める艦長。若手からベテランまで揃う艦をまとめ上げる艦長として、状況に応じた感情の使い分けもまた必須であった。
「……彼らの言っていた、レーダーの不調。それだけでなく、通信も不具合を起こしています。片方ならば機器の故障でもおかしくはありません。ですが、両方が揃ったと言うならば……」
そこまで言われれば艦長も合点がいく。片方だけならば、機器の故障もあり得る。しかし、両方が同時にとなれば、それは話が違ってくる。勿論、同時に故障する可能性が無い訳ではない。だが、重要なシステムや機器類は必ず2重構造になっており、万が一故障が発生しても損傷個所を迂回して機能出来る様になっている。それが機能せず、重要な機器類である通信とレーダーの両方ともなれば、それは言わずもがな。
「……何らかの妨害か?」
「恐らくは……!」
少数の護衛艦と共に本隊から離れ各隊が散開している状況下で受ける、突然の電波妨害。それが意味するところはただ1つ。敵艦隊からの攻撃が直ぐそこまで迫っていると言う事に他ならない。
「機関始動! 総員戦闘配置! 僚艦にも発光信号送れ! 『敵、来襲ス』だ!」
「りょ、了解!」
「此方、艦橋。総員、戦闘配置! 繰り返す、総員戦闘配置! 急げ!」
静寂を切り裂く警報音が艦内に響き渡り、各所に設置された艦内スピーカーからは明らかに異常を知らせる総員戦闘配置の号令。誰しもが疑問を感じる間も無く、身体が自然と動いていた。それまでの静けさが嘘だったかのように活気づく艦内。強襲揚陸艦ゆえに、敵戦闘艦に対しては極めて不利ではある。だが、ただ一方的に的にされるつもりなど、誰にも無かった。
「機関始動後、直ちにデブリ帯を盾に回避行動へ入る! 各対空銃座は、各員の判断で撃って構わん! 」
「どんな小さな事でも構わん、各部報告を怠らせるな!」
「了解!」
『エルドン』号が異変に気が付いた様に、同様の異変を察知し行動を開始した艦は多数あった。だが、残念ながらその行動は彼らの寿命を、ほんの少しばかり伸ばす事にしかならなかったのである。
「ケチるな護衛、ですの!」
「……いや、ウチも他人の事は言えないからね?」
一方、ランドロッサ要塞では戦況の推移を戦術モニターで眺めながら、何処かノンビリとした雰囲気すら流れていた。敢えて言うが、別に油断している訳でも手を抜いている訳でも無い。ただ、粛々と事前の戦術プランに基づいて艦隊を動かしているだけだ。
「しかし、これでは戦闘演習にすらなりませんね」
「左様。もう少し、手ごたえがあると見込んだのですがな? 事前の戦力評価を高く見積もり過ぎましたかな?」
「ふん。元々、同胞を撃つような連中だ。全てとは言わんが、練度も士気もその程度の部隊と言う事だろう」
「それにしても、弱すぎますわ?」
「いや、君達ね、好き勝手に言い過ぎだよ。あくまで、此方のホームグランドに招き入れての戦闘だからね? 戦力比も無いとなれば、結果は見えてたでしょ?」
要塞司令官の香月一馬。内務担当のソフィー。外務担当のシャンイン。研究・開発担当のドクター。諜報担当のサウサン。皆が皆、好き勝手に言い合う和気あいあいとした職場の光景である。尚、求人は特に出ていない。
「……『オグマ改Ⅱ型』を既に数機もバラした一馬様には、言われたなく無いですの」
「空中分解して敵艦に突っ込んだ3機目など、最終的には想定許容量の10倍の負荷が機体に掛かりましたからな? あれでは到底、機体が持ちますまい」
「……」
「一馬は一体、何処までいくのだ?」
「行き付くところまで……、じゃないかしら?」
「それも、そうか」
開発が難航している次世代専用機までの繋ぎとして実戦投入された『オグマ改Ⅱ型』であったが、既に今回の初戦において数機が一馬の挙動において空中分解していた。唯一、分解を免れたのは試製機動砲10門と戦術リンクを行っている機体のみである。
「いや、それにしてもドクター謹製のコレ、凄いね」
何だかんだと批難の矛先が自分の方へと向いた事を察知した一馬は、露骨に話題を逸らしに掛かる。そして、それは自身が軍帽の代わりに頭部へと装着している機器についてだった。
「まだ試作品ですがな。理論上では、専用の機体さえ完成すれば、何時でも何処でも暴れられますぞ?」
「楽しみにしてるよ。此処に居れば、ソフィー達にも文句言われないだろうし……」
「ギリギリセーフのラインですわ?」
「そうですね。一応、司令室にはいる訳ですし……」
「まぁ、本来ならばトップが自ら戦闘など有り得ん話なんだがな。一馬なら仕方があるまい」
散々の言われ様であるが、全ては彼の行動から出たものであり自業自得である。身から出た錆とでも言おうか。今回、彼はドクター謹製の思考制御装置を頭部に装着し、司令室にて指揮を執りながら、複数の『オグマ改Ⅱ型』を操作すると言う、離れ業ならぬ意味不明な所業を行っていた。
開発者のドクターとしては、思考を分散させる事で一馬が操縦する各機の機体負荷が軽減され、最悪の事態(空中分解)を防げると思案したのだった。しかし、結果はものの見事に大外れとなる。
「思考を分割してなお、機体を分解させる程の操縦をされるとは、流石に予想外でしたぞ?」
「んー、それぞれの機体って言うよりか、全体をぼやけた感じで把握しているだけなんだけどね?」
「……それは最早、人の身で見てよいレベルの視点では無い気がしますな」
「本当に、一馬様には驚かされますわ」
「そうね。あのバカが一馬さんを選んだのも納得出来る気がするわ」
「つまり、一馬もあのバカと同レベルのバカと言う事だな!」
絶望に必死に抗う共和国側とうって変わり、ランドロッサ要塞側は笑顔溢れる和気あいあいとした雰囲気であった。両者の差は何処で生まれてしまったのか。それを知る者は、この宙にはいないのだろう。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!