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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第4章:マーク・トゥウェイン要塞攻略戦
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4-2:絶望との戦い②

狩りじゃー!

 突然の開戦―共和国側からしたら開戦した認識すら無いが―によって、指揮命令系統のトップを根こそぎ失った共和国軍特別任務部隊『STF-05』。容赦の無いモーニングコールの2波、3波が次々と到来し、更なる混乱が襲う中、各艦隊の指揮系統次席ないしその代理に指名されていた者達は、必死に情勢の把握と立て直しに奮闘していた。


 「各艦艦長の判断で、回避行動を取らせろ! 僚艦同士の衝突にだけは注意させろよ!」

 「そこら中にあるデブリを盾として利用しろ! 現状で鑑みるに、誘導性能は無いはずだ!」

 「支援艦隊は護衛艦と共に転進! 戦闘艦のみでも……」


 レーダー圏外からの何らかの攻撃と判断し、即座に各艦へと指揮をとばす指揮官代行と務める者達。本来、艦隊全体の指揮を執るべき大将や中将クラスが艦ごと戦死した以上、その下の少将や准将、果ては大佐や中佐、場合によっては少佐クラスが指揮を取らざるを得ない状況に陥っていた。そして、そんな彼らもまた長距離砲撃によって艦と運命を共にしていくのであった。


 最も、脚の遅い艦でも30分と掛からない距離に、攻撃ならびに攻略目標となるランドロッサ要塞は存在している。しかし、その僅かな距離を詰める為に払う犠牲が多すぎた。戦艦が、巡洋艦が、駆逐艦が、艦載機母艦が次から次へと爆散し物言わぬデブリの仲間入りをしていく様子を、まざまざと見せつけられる将兵達の士気は下がる一方であった。次は自分の番だと誰もが覚悟を決めさせられていた。


 それは戦闘に非ず。一方的な狩り、いや虐殺と言っても良い所業であった。


 だが、それを非難する権利を彼らは持ち合わせていない。何故か? 彼らもまた、同胞を撃ったのだ。無慈悲に、負傷し動けぬ兵を、戦う術を待たぬ艦を、撃ったのだ。因果応報とは正にこの事だろう。自身の行いが自身へと返ってきたに過ぎない。


 直撃を受け、一撃で爆散出来る艦は幸いだろう。一方で、巨大な砲弾が掠めた艦の末路は悲惨だ。艦内の状況を知らせるモニター上で、各ブロックが次々と赤く染まっていく。艦首側との通信が途絶え、機関部との通信が途絶え、彼方此方で発生した小規模な爆発による衝撃が艦内へと伝わり、目の前の主砲が吹き飛ぶ。そして、一瞬の静寂後に、内側から火球になって散っていくのだ。慌てて小型艇で脱出を試みた者達もその業火に巻き込まれ、全身を焼かれ息絶えるのだった。


 「まだ、レーダーに反応は無いのか!?」

 「依然、何もありません!」

 「とにかく、不規則機動で回避を続けろ! 我々はこの様なところで……」


 共和国軍側が運用するレーダーの感知外から行われる攻撃。少なくとも、これを何らかの事故だなどと平和ボケした考えを持つ者などいない。明らかに明確な意思を持った者達からの攻撃である事に間違いは無かった。ただ、その手段が良く分かっていない事と、確実な回避手段が見つけられてない事が、共和国側の被害を未だ大きく減らせない事由となっていた。


 「各艦の距離を更に拡げろ! 火力の低下は止むを得ん! 討つべき敵すら見つからんのだからな……」

 「戦艦『セントルイス』巡洋艦『ラドニア』爆沈! 戦艦『ノエル』総員退艦……いえ、爆沈しました」

 「クソがっ!」


 僚艦が次々と散って行く惨状に、思わずコンソールを叩き付ける艦長。その姿を、何とも言えない表情で見つめる艦橋要員達。祖国から遠く離れた地で、戦いとすら呼べぬ一方的な暴力に晒される彼ら。救いなど何処にも無かった。


 「艦長。此処は撤退すべきです。このままでは、向こうに着く前に我々は……!」

 「副長。何処へ退くと言うのだ? 輩を撃ってしまったのだ、次は間違い無く我々が撃たれるぞ」

 「それは……」

 「それとも、軍旗を降ろし宙賊にでも身を落とすか? 共和国軍人としての誇りを、全て捨てて……」

 「……」


 そう言われ、返す言葉を失う副長。彼とて、艦長の思いを理解していた。自分達には最初から選択肢など与えられていなかったのだ。辺境の蛮族を討伐し、戦勝を引っ提げて本国へと凱旋する以外、生き残る道など無い事を。この攻撃が例の蛮族の仕業なのだとしたら、降伏する手もあるだろう。だが、それは自らが手を降した第6機動艦隊の後を追う事に他ならない。


 「進むしかないのだ……我々には……!」

 「これが……戦だと言うのですか……」

 「罰なのだろう。我々が同胞の血で手を汚した事へのな……」


 軍帽を被り直し、前を向く艦長。その姿を見た副長もまた襟を正し、彼の傍へ立つ。進むしかないのだ。正体不明の攻撃を潜り抜け、敵要塞を堕とすしかない。それ以外に、自分達の進むべき道は無い。艦長以下、艦橋クルー全員の気持ちが1つになった巡洋艦『ラナガン』であった。が、現実は何処までも虚しく、残酷であった。皆が覚悟を決めた僅か数十秒後、巡洋艦『ラナガン』は別方向(・・・)からの長距離砲撃によって、轟沈したのである。艦長以下、乗組員全員が艦と運命を共にし戦死したのであった。




 「……別に砲撃が前からだけな訳ないだろ?」

 「全くですわ」


 ランドロッサ要塞の司令室で、主たる香月一馬はそう呟いた。生産した試製対艦砲の殆どは偽のランドロッサ要塞と共に元の宙域へと配置してきた。だが、500㎜を10門だけ手元に残してあったのだ。敢えて、事由を言うならば、それは生産の関係上、現地に配備出来なかっただけの事なのだが。結果として、共和国艦隊を、無警戒の別方向から撃つ事が出来たので結果オーライとも言えるだろう。


 敢えて、偽ランドロッサ要塞側に配備された試製機動砲と異なる点を述べるならば、此方側の機動砲は急ごしらえで改良された『オグマ改Ⅱ型』と戦術リンクが行われている事だろう。全ての機動砲が『オグマ改Ⅱ型』の火器管制システムの管理下にあり、一馬による直接照準によって砲撃を行っている。当たり前の事を言う様だが、幾らシステムの補助を受けているとは言え、常人が狙って中てられる距離ではない。それを当然の様に中てている時点で、この男は色々とおかしいのである。


 「敵艦隊、どうやら支援艦を切り離すようですね」

 「……今更過ぎるけどな。切り離したところで、そもそも艦速変わらないしな」


 当たり前の話だが、戦艦、巡洋艦、駆逐艦などの戦闘艦と、補給艦などの支援艦ではそれぞれ艦速が異なる。なので、これらの艦が艦隊行動を取る際には最も艦速が遅い艦に合わせるのが基本となる。故に、艦隊速度を上げる最も簡単な方法は脚の遅い艦を切り離す事、或いは置いていく事になる。今回、共和国艦隊は、艦隊速度を上げる為に少数の護衛艦を残し補給艦などの支援艦隊を近隣のデブリ帯へと残す事を選んだ。全ては、是が非でもランドロッサ要塞を攻略する為の苦肉の策であった。


 だが、彼らはそれを待っていた。頭を撃ち、糧を撃ち、次に狙うは休むべき場所である。


 「さて、始めようか?」

 「全艦隊、出撃準備完了ですわ?」

 「了解。では、予定通り『ラーズグリーズ』と、第2~6艦隊は敵支援艦隊の殲滅戦へ。第7~11艦隊は引き続き要塞の護衛を継続。戦況に応じて投入する。それから、『ランドグリーズ』にも出撃準備させておいてくれ」

 「了解」


 フォラフ自治国家宙域から直掩戦力と共に帰還していた、要塞陣営の総旗艦である『スレイプニル』率いるフォラフ派遣艦隊改め『ラーズグリーズ』(第1艦隊)。新鋭のサムズ・クロス級駆逐艦と、セブン・ヘッズ級巡洋艦で直掩艦を固めた最精鋭艦隊である。この『ラーズグリーズ』を先頭に、合計6個艦隊3,690隻もの艦艇が共和国軍『STF-05』の支援艦へと襲い掛かるのであった。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] タイトルが絶倫になってる。
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