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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3.5章:宙は燃えているか
148/336

3.5-19:カワル宙⑲

間章は、次で終わり。

彼女は、また登場します。

 それから幾つかの質問をぶつけてみたが、中々本心は見せない。まぁ、そんな簡単に行くとは思ってはいないので気にはしていない。とは言え、時間は有限である以上は、そろそろ核心を付いていきたいところね。


 「では、次の質問です」

 「本当に、仕事熱心ですのね?」

 「これでも記者の端くれですから。で、質問ですが……。貴女方の目的は何でしょうか?」

 「世界平和ですわ?」

 「……世界、平和ですか?」

 「そうですわ? 初志貫徹、それだけですの」


 ……世界平和ね。少なくとも、彼女の表情を見る限り嘘を言っている様には見えない。ただ、完全に本心かと言われれば、それもまた悩ましいところではあるけど。表情豊かに見えて、本心の部分はしっかりと隠しているのよね。


 「具体的にお伺いしても? 貴女方の考える世界平和とは、いったい何でしょうか?」

 「可愛い顔して、随分と嫌らしい質問をしますわね?」

 「一番大事なところですので。それで如何ですか?」

 「そうですわね……」


 顎の先に指先を当て、首を傾げながら虚空を眺める彼女。その姿がまた、一枚の絵の様になっていることに同じ女として軽く嫉妬を覚える。って、いけないいけない。今は取材に集中しないと。幾ら録音しているとは言え、答えを聞き逃すなどあってはならない。


 「あの方が望むのは……、誰もが前を向き笑顔で明日を迎えられる世界ですわ。理想論と笑いたければ、好きなだけ笑えば良いですの」

 「笑顔で明日を迎える……」

 「無論、簡単な事では無いですの。その道は、きっと血塗られた修羅の道ですわ」

 「血塗られた道の先に、誰もが望む平和な世界があると?」

 「一滴の血も流れない平和など、幻想ですわ?」


 そうだろうか? 確かに軍需産業などからすれば、平和は望まぬものかもしれない。でも、多くの人々が平和を望んでいるのは間違いない。そして、流れる血が少ない方が絶対に良いと私は思う。


 「互いに言葉を交わす事で変えられるのでは?」

 「……少なくとも、話し合いで解決なんていう思考停止した馬鹿では、この星系に平和を齎すことなど不可能ですわ」

 「何故でしょうか?」

 「話し合いを相手が望まなければ? 拒絶したら? 聞く耳を持たぬ相手に、どれだけ高尚な言葉をぶつけても無意味ですわ。そして、残念ながらお目出度い知能を持った方々は、それ以外に何も出来ないですもの。凝り固まった理想は、平和に対して最大の害悪ですの」

 「……」


 血を流さないと言う理想が、平和への害悪。彼女の言わんとしている事も、朧気ながら理解は出来る。しかし、私にはそれがとても悲しい考えだと思えてならない。自分達が目指す道を理想論だと自嘲しなががら、一方で言葉で道を開くやり方を理想論と切り捨てる矛盾。


 「力を持って、世界を変えると? そして、貴女方が世界を支配すると?」

 「世界を変えることはまだしも、支配することにあの方は興味無いですわ?」

 「?」

 「別に、帝国でも連邦でも、覇権国家が何処になろうと一向に構わないですわ」

 「帝国は貴族主義、連邦は純血主義。何れにせよ、涙を流す人々が大勢いると思いますが?」


 ますます、彼女とその上にいる者の考えが理解出来ないわね。誰もが笑顔で明日を迎えられる世界と言いながら、自らは支配者にはならないと言う。帝国にしろ、連邦にしろ、多くの問題を掛かているのは周知の事実なのだから。何れの国家が星系に覇を唱えたとしたら、涙を流す人々が大勢出るのは間違いない。もし、本気で理想の世界を目指すと言うならば、自らが覇を唱えるべきよ。


 「理想を掲げながら、何れかの国家の影で満足だと?」

 「誰しも相応の分と言うものがありますもの。傲慢な理想は、自らを滅ぼしますわ?」

 「でしたら、最初から出て来なければ良いのでは? 静かに、辺境の地で自分達だけで理想的な暮らしをしていれば、無駄に人々に希望を見せる事も無いですよね?」

 「私達に希望の光を見るのは、その方たちの勝手ですわ? 私達が誰かに縛られる理由なんてありませんもの。私達は、ただ進むべき道を進み、望むべき結果を手にする。それだけですわ」

 「そうですか……」


 これが全てかと言われると判断に悩む所だけれども、現状では底が見えたと言うべきか。少なくとも、これ以上なにかを此処で聞く必要は無い。いや、聞きたいとも思わないのが本心ね。多分、彼ら彼女らはこの星系に一時の嵐を起こすかもしれないけれど、それで終わりなんだと思う。何れ、歴史の中に埋もれ二度と浮かび上がることは無いだろう。もしかしたら、あの映像を世に広めた事が最大の功績になるのかしら?


 「他に質問は?」

 「いえ、もう十分です」

 「そうですの。では、御機嫌ようですの」

 「本日は、ありがとうございました」


 取材道具をカバンにしまい、礼を述べて店を後にする。それなりに時間が経っていたのか、コロニー内の光量が昼間に比べ抑えられ始めている。間も無く、夜を迎えるのだろう。一度だけ店を振り返る。良く分からない状況に困惑しつつも、此処に来るまでは何処か期待に胸を膨らませていた。でも、今のこの感情は何だろうか? あの映像に突き動かされていた自分の、体験したことも無かったエネルギーが全部どこかへと消えてしまった様な感じ。


 「そもそも、何故ここまで突き動かされたのかしら?」


 上司に直談判までしてこのコロニーまでやってきた。此処に来れば、何かが得られると確信があった訳では無い。むしろ、下手なギャンブルより割に合わない行動だったと思う。でも、何かに突き動かされたの間違いない。そして、それが今の私の内にはもう無い。


 「……」


 人工の光によって、浮かび上がるコロニーの内部都市の様相。『オールドレディ』とは一味違う、特色あるその在り方に、普段の私ならば何か感じるものがあっただろう。でも、今の私には何も無かった。




 「シャンイン様。アレで、良かった?」

 「勿論ですの。そもそも、身勝手に何かを期待されるだけでも不愉快ですもの。適当に考えた嘘八百を並べ立てて失望させれば、もう近付いてこないですわ」

 「でも、勝手に失望するの不愉快」

 「バイスァ。そんな事を気にする必要は無いですわ。一馬様の理想は、私達が知っていれば十分ですもの」


 一馬様の理想は、私やソフィー、ドクターやサウサン。後はヘイスァやバイスァが理解していれば十分ですの。余計な賛同者が増えると、彼の足を引っ張る馬鹿が増えるだけですわ。誰であろうと、あの方の邪魔は許さない……。


 「かず」

 「まー」

 「一馬様ですわ? いい加減に、覚えなさいですの!」

 「かず」

 「まー」

 「か・ず・ま・様ですの!」


 一先ず、この子達の教育からですわ!

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] 理念がレジオネール戦記を感じさせます笑
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