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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3.5章:宙は燃えているか
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3.5-18:カワル宙⑱

ハハハ。間章が今月中に終わらない。

 「うっ……。っ痛たぁっ!?」

 「あら、漸く気が付きましたの? 全く、お寝坊さんですわ」

 「えっ? 誰……?」

 「貴女を此処に呼んだ者ですわ?」


 そこまで言われて、一気に此処までの記憶が脳裏に蘇って来た。そうだ、此処コンラッドコロニーに、取材で訪れていたのだ。そして、とある雑貨店を出た所で声を掛けられて……。


 「その顔、漸く思い出したって感じですわ」

 「確か、壁に見せかけた扉を潜ろうとしたら、頭に衝撃が……」

 「あぁ……。貴女、扉の上枠に勢い良く頭をぶつけられてましたの」

 「上枠に頭を……?」

 「良い音でしたわ?」


 どうやら、あの少女の後を追って壁を潜ろうとしたところで、頭を強打した様だ。それで、一時的に意識を失っていたと言う事だろうか。今は、室内にいる事を鑑みるに、どうやら倒れた私を運び入れてくれた様だ。


 「運んで頂いたようですね、ありがとうございました」

 「呼んだのは此方ですわ。ですから、流石に廊下に倒れた貴女を放置する訳にはいかないですの」

 「呼んだ……。そう言えば、あの子は?」

 「あの子……。あぁ、ヘイスァでしたら、彼方に居ますわ」


 ヘイスァと呼ばれた少女。肌の色以外、全身黒一色の不思議な少女は少し離れた所で此方を見つめている。そして、彼女の隣には真逆と言って良い白一色の少女が立っていた。顔立ちがとても良く似ているから、双子だろうか?


 「彼女と一緒にいるのは、バイスァですわ。2人とも幼い見た目ですけど、私の補佐を務める優秀な子達ですの」

 「補佐ですか?」

 「そうですの。……あぁ、そう言えば、自己紹介がまだでしたわ。ランドロッサ要塞、外務担当のシャンインですの」

 「外務、担当ですか?」


 外務の意味が言葉通りだとするならば、彼女は例の組織改めランドロッサ要塞において外部と折衝を担う役職と言う事なのだろう。取材を申し込む上で、この上ない相手では無いだろうか?


 「それで、貴女はホルツ社社会部のミリィ・サーフィスさんで間違いないですの?」

 「えっ!?」

 「接触する前に情報収集をすることくらい、当然の事ですわ」

 「そう、ですか。……それで、私を此処に呼んだ理由を聞いても?」


 此方としては、取材を申し込む絶好のチャンスではある。だが、向こうから呼ばれた事を考えると、何か意図があるのは明白。それに、此方の素性をしっかりと調べられているみたいだしね。此処は下手に出て、相手の出方を伺うべきだわ。


 「興味がわいたからですわ?」

 「興味ですか……?」

 「アナタ方が追い易いように、わざわざ人目を惹く様にコロニー内を彼方此方と歩きましたの。でも、私が足を運んだ中で、あの雑貨店で話まで聞いたのは貴女だけでしたわ? だから、他の方々より少しだけ興味が出ましたの」


 偶然の産物と言うべきかしら。あの雑貨店を他の同業者達の様にスルーしていたら、こうして話をする機会も得られなかったと言う事よね。


 「……それは、最初から私達の様な報道に携わる者と接触するつもりだったと?」

 「正直に言えば、粗方の反応は此方でも把握出来ていますわ。様々な媒体で、皆さん好き勝手に発信してますもの。それらを集めれば、反応の方向性は掴めますの」

 「なら、何故この様な事をしてまで接触を?」


 あの映像の反応を知りたいのならば、彼女が言う様に様々な媒体から幾らでも集められた筈だ。それにも関わらず、この様な形で接触をしてきた事には何か理由があるわ。


 「……暇つぶしですわ?」

 「えっ?」

 「ですから、暇つぶしですの。夕刻には、ノコノコと共和国艦隊がこの宙域に到着しますわ。それまでの、暇つぶしですの」

 「……」


 暇つぶしで呼び出しを喰らった挙句、頭部を強打した私っていったい……。


 「暇つぶしと言うのは、流石に冗談ですわ。そもそも、貴女を呼ばなくても時間を潰す方法はありますもの」

 「……それを、信じろと?」

 「別にお好きな様にですわ? 此処で貴女が怒って帰ったとしても、私達に失うものは無いですもの」

 「……」


 此処まで案内してくれた少女もそうだけど、目の前のシャンインと名乗った女性も考えが読み難いわね。まぁ、本当かどうかは別として外務担当と名乗る以上、その程度の腹芸は熟すって事でしょうね。さて、記者として向こうから来たチャンスは物にしましょう。もし、彼女が語るだけの偽物ならば、質問を続ける中で絶対に足を出すわ。


 「では、貴女が外務担当だと言うならば、幾つか質問をしても?」

 「どうぞ? 答えつつ、私からも貴女にしますわ」

 「では、失礼して。準備させて下さい」


 唯一、ホテルから手に持って出たポーチから、取材道具を近くのテーブルへと広げていく。新聞社に内定を貰った時に、父からプレゼントされた万年筆。母は今の時代に無用よ、なんて言っていたっけ。でも、父は良い記事を書くには良い道具だって譲らなかった。思い出深い万年筆と使い込んだメモ帳、そしてレコーダーを手元に用意して臨む。


 「……写真を撮っても?」

 「機密事項ですわ」

 「大手を振って外を歩かれてましたよね?」

 「変なファンとか、心底困りますの。ですから、ノーですわ」

 「……分かりました」


 街中の監視カメラなりに大量に映っていそうだが、相手が駄目と言うならば此処は敢えて大人しく引き下がるとしよう。何事もバランス良く。常にイケイケでは、相手が委縮したり気分を害したりして、得られるものも得られなくなるわ。


 「フォルトリア星系歴524年11月16日。取材対象は、ランドロッサ要塞外務担当を名乗る女性。彼女の名はシャンイン。……名前は問題無いですよね?」

 「勿論ですわ。名無しの美女では、流石にカッコがつかないですもの」

 「……で、では早速1つ目の質問を」

 「スルーですの?」

 「……あの映像は本物なのでしょうか?」


 物凄く、良い笑顔でツッコミ待ちをしている彼女。でも、今は貴重な時間をツッコミに使っている暇は無い。矢継ぎ早に質問を重ねたくなる気持ちを抑え、1つ1つ丁寧に質問をぶつけ相手の本音を聞き出すのよ、私!


 「はぁ……。質問の答えはイエスですわ。共和国のバカが喚いているみたいですけど、紛れもない本物の映像ですわ」

 「本物だとしたら、共和国は何故あの様な味方を撃つ行為をしたのでしょうか?」

 「ちっぽけなプライドを守るためですの」

 「プライド、ですか?」

 「辺境の惑星と見くびった結果、彼らは無様な敗北を晒しましたわ。何の役にも立たないちっぽけなプライドしか取り柄の無いお山の大将(ローズベルト)からしたら、その様な無様な敗北なんて決して許せなかったんですわ。だから、彼らを名誉ある戦死とする事で国民向けの体裁を取り繕うと同時に、自身の怒りのはけ口にしたんですの。本当に大人げないお猿さんですわ?」


 仮にも三大勢力に属する一国の大統領を、猿と呼ぶ彼女。そう言ってのけた彼女は、蔑んだような目をしていた。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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