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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3.5章:宙は燃えているか
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3.5-15:カワル宙⑮

シャンイン初めて(?)のおつかい編Ⅱ

 伝言と言う名の最後通牒をガルメデアコロニーの元締めたるスキンヘッド紳士こと、コルネス・ディア・サンテスへと突き付けたシャンインは、自身の艦隊を率いコンラッドコロニーを訪れていた。目的は、帝国および連邦との接触にある。一応、ガルメデアでもサントス達に依頼はしたが、あれが上手くいくとは最初から考えておらず、むしろ共和国へと情報が洩れる事で3大勢力の対立を煽れれば儲けものといった程度の話であった。

 なので本命は、此方での接触となる。コンラッドコロニーは、何れの勢力からも距離を置くパルメニア教の拠点の1つだ。だが、その一方でパルメニア教の総本山とも言える第10コロニー『シャングリラ』とは異なり、各勢力の直接的な影響下にある商会が進出していたのである。表向きは、コロニー内で必要となる各種物資の仲介業だが、一方で各勢力圏から来訪した信者達に対する祖国との取次役を担っていた。言うならば、民間が運営する大使館擬きとでも言えば良いのだろうか。


 「ようこそ、アーベントロート商会へ! ご用件をお伺い致します」


 帝国側の御用商会となる、アーベントロート商会。中央広場直ぐ近くに拠点となる建物を保有している。建物を入って正面、カウンター内にいた受付係の女性がシャンインへと笑顔で声を掛ける。背後の屈強な護衛に若干ビビり気味だが、それでも職務をキッチリと遂行している辺り、優秀な様だ。


 「ランドロッサ要塞、外務担当のシャンインですわ。帝国本国とコンタクトを取りたいんですの。取り次ぎをお願いしますわ」

 「えっ……?」

 「もし、貴女で判断が付かないなら、上の方にお伺いしてからでも結構ですわ?」

 「しょ、少々お待ち頂けますでしょうか……?」

 「勿論ですの。そこで座って待ってますわ」


 事態が良く呑み込めていない受付嬢を後目に、シャンインは近くのソファへと腰掛けると、脚を組み孔雀扇を優雅に仰ぎだした。なお、事前のアポイントメントなど一切合切無視しての突撃訪問である。残念ながら、これがシャンインクオリティなのであった。


 一方、漸く現実に戻った受付嬢も次の行動へと動く。彼女は商会の受付嬢と言う立場と共に、帝国の現地情報収集員としての任も帯びている。無論、その仕事は敵地に乗り込んでドンパチする様なものでは無い。あくまで、受付嬢として勤務しながらコロニー内で見聞きした内容を、定期的に書類に起こして報告しているだけだ。実際、他の商会職員も同様の報告を上げている。

 さて、冷静さを取り戻した彼女は受付を同僚に任せ、廊下の突き当りの階段で3階まで上り向かって左側の部屋の扉をノックする。


 『入りたまえ』

 「失礼します」


 その部屋は、アーベントロート商会コンラッド支店を預かる人物の執務室であった。彼は、此処で商会の支店長として表立った活動をしつつ、受付嬢を始めとした現地情報収集員達から上がって来る情報を取り纏め本国へと送る役割を担っていた。


 「……君か。何かあったかね?」

 「実は、下の受付に例の要塞の関係者、正確には外務担当と名乗る女性が来ておりまして」

 「ほぉ? 用件は?」

 「本国とコンタクトが取りたいと」

 「ふむ……」


 支店長は、手元にあった執務机の天板裏に設置されたスイッチを操作する。彼から見て右側の天井からモニターが降りてくる。そこに映し出されているのは、商会内の各所を映す監視カメラの映像である。


 「……彼女か?」

 「はい。確か、シャンインと名乗っていました」

 「シャンイン……。確か、ガルメデアからの報告でも何度かその名前が上がってはいたな」


 支店長はガルメデアコロニーへも多少の繋がりを持っており、現地の協力者から金銭と引き換えに時々だが情報を得ていた。そして、その中に今回の女性の名前があったことを思い出したのだった。


 「ちなみに、同性の君から見た第一印象はどうだったかね?」

 「第一印象ですか? ……そうですね、猫、でしょうか?」

 「猫、か……。ふむ。本物か、騙るものか。内容によっては、私以外では判断が付かないだろうしな。話をしてみる他あるまい……」

 「では、応接室に?」

 「第3(・・)応接室が空いている。案内を頼む」

 「畏まりました」


 受付嬢がシャンインの案内の為に部屋を退室したあと、支店長はボヤく。


 「赴任してから半年。静かだったのは、最初だけか……」


 本国から遠く離れた地とは言え、1つの支店を任せて貰えるまでになれた事を喜んでいた頃が懐かしいと、彼は切実に思った。ランドロッサ要塞は、彼方此方で迷惑を被る人物を増やしている様であった。




 幾ばくかの時間が流れ、第3応接室と呼ばれる部屋で支店長とシャンインの会談と言うよりかは、顔合わせが始まった。テーブルを挟み、腰掛けている2人。既にテーブルの上にはコーヒーと茶菓子が置かれている。


 「では、改めまして。ランドロッサ要塞、外務担当のシャンインですわ」

 「アーベントロート商会コンラッド支店の支店長をしております、マイザーと申します」

 「宜しくお願い致しますわ、マイザーさん」

 「此方こそ、良しなに。して、何やら本国とのコンタクトを希望されるているとか?」


 諜報活動もしているが、本職は商人である。故に、マイザーは面倒な社交辞令などすっ飛ばして本題へと直ぐに入る事にした。その方が、相手の自然な反応が見れるのではと言う狙いもあった。そして、シャンインとしても、まどろっこしい事は嫌いであり、マイザーの話の進め方には好感を覚えた。


 「そうですわ。内容は、対共和国を想定した共同戦線の提案ですの」

 「共同戦線ですか……」

 「まぁ、あくまでも提案ですわ。今直ぐに話が進むとは此方も思っていませんもの。どちらかと言えば、今後の為に貴国の反応をみてみたいといった所ですわ」

 「なるほど。将来を見越して、可能性を探っていると言ったところですか」


 マイザーとして、シャンインの解答は納得出来るものだった。当たり前の話だが、一介の軍事要塞と3大勢力の1つであるワルシャス帝国が手を結ぶなど、普通に考えて有り得ないレベルの話なのだ。勿論、その軍事要塞が帝国から見て決して無視出来ない存在になれば話は変わってくる。星系統一を図る帝国からすれば、一時的とは言え利用価値のある組織と手を組む事を拒む理由は無いのだ。あくまで、それだけの価値を示した場合ではあるが……。


 「今回の訪問は、その意思が此方側にはあると示す為のものですの」

 「わかりました。其方のお考えは本国へ伝えます。ですが、現状では色よい返事を期待しないで頂きたい」

 「当然ですの。むしろ、お話を通して頂けるだけでも、感謝致しますわ」

 「此方こそ、またお会い出来る日を楽しみにしております」

 「えぇ。……そう時間が掛からない事を、お約束しますわ?」


 笑顔で握手を交わし、部屋から立ち去るシャンイン。彼女の滞在時間は僅か5分足らずではあったが、その内容が場合によっては今後の帝国にとって大きな影響を及ぼす事になるかもしれない。そう感じたマイザーは、直ちに本店へと連絡を取るのであった。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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