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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3.5章:宙は燃えているか
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3.5-14:カワル宙⑭

何気に話が長くなった。

 第16コロニー『ガルメデア』。その宇宙港に、総勢11隻の駆逐艦が入港したのは昼過ぎの事だった。何れも真紅と金の2色による人目を惹くカラーリングが施されており、各艦の艦橋側面には黒字でとある人物のイニシャルを模した艦隊旗が描かれている。

 補佐官と護衛を引き連れて艦から降りて来たのは、1人の女性だった。とある惑星ではアオザイと呼ばれる民族衣装を身に着け、孔雀扇で口元を隠しながら歩を進める女性。彼女の名はシャンイン。彼女がガルメデアコロニーへと、このタイミングで足を運んだのは世間話をする為であった。ただ、その内容が受け手によっては脅迫どころか最後通牒にしか聞こえないだけだ。


 「さぁ、お仕事ですの!」




 場所は変わって、コロニー内のとある人物のオフィス。この部屋の主で、コロニーの元締めたるコルネス・ディア・サンテス。とある要塞内ではスキンヘッド紳士の愛称で親しまれている人物である。その彼の表情の大部分を困惑が占めていた。昨夜、一方的に来訪が伝えられただけでなく、自分を含め数人の名を上げて、到着を待つ様にと告げられた。当然、彼は理由を聞こうとしたが、相手の女性は良い笑顔で明日になれば分かるとだけ言い残して通信を切ってしまったのであった。


 「で、あの面倒な嬢ちゃんが何だってんだい?」

 「正直、分からないと言うのが正解だな。ただ、この面子を集めて待っていろと言われただけだよ」

 「はぁ? 今までなら来訪する要件くらいは先に伝えていただろ? 色々とこっちにも準備ってものがあるんだしさ、全く良い気なもんだよ。あの坊やの教育の賜物かねぇ?」

 「さてな? 彼の考えは、どうも我々の知る常識からはかけ離れていることが多い。とは言え、このタイミングだ。恐らく、我々に取って悪く無い話だとは思うがね?」

 「まぁ、良いさ。稼げるって言うならば、あたしは文句ないよ」


 シャンインの到着までの僅かな時間。暇を持て余したインフラ担当のディアナ・グ・ティグアンがスキンヘッド紳士に絡むが、そこは腐っても元締め。上手い具合に躱し、彼女を宥めすかす。そもそも、彼とて状況が掴めていないので、答えようが無いのであった。


 「サントスさん。見えられました」

 「そうか。入って貰ってくれ」

 「はいっ」


 スーツ姿の部下が部屋の扉を内側に開くと、噂の人物が姿を現した。シャンインと呼ばれている彼女は、ランドロッサ要塞で主に対外的な交渉等を一任されている。此処、ガルメデアコロニーとの様々なやり取りも、基本的には彼女が担当していた。


 「お待ちしてましたよ、シャンインさん」

 「直接お会いするのは久しぶりですわね、サントスさん?」

 「相変わらず、お美しいですな。どうですかな、たまには仕事抜きで一杯?」

 「……落ち着いたら、考えても良いですわ?」

 「では、何れ。どうぞ、此方へ」


 スキンヘッド紳士とシャンインの社交辞令が終わり、彼らが席についたところで飲み物が運ばれてきた。とは言え、誰も口を付けない。先ずは、彼女が持ってきた話の内容を聞いてからと言うことなのだろう。現在、この部屋に集まっているのはガルメデアコロニーの各セクションを取りまとめる主要な人物達だ。その彼ら彼女らを集められると言うのから、既にランドロッサ要塞がガルメデアコロニーへと与える影響の大きさを理解出来るだろう。


 「嬢ちゃんの乗ってきた艦。ありゃ、何だ? 少しばかり悪目立ちし過ぎやしないか?」

 「一馬様から私へのプレゼントですわ? 色は私が自分で選びましたの。外務を担う者として、時に目立つことも必要ですもの」

 「なるほど。先の戦勝から随分と羽振りが良さそうじゃないか。羨ましいもんだね」

 「治安維持を担うバッガスさんとしては、新しい艦の1つでも欲しいってところですの?」

 「当然だろ? 結局、共和国の艦は先の騒動で全部おじゃんだ。ボロの警備艇を騙し騙し使ってる現状じゃな……」


 会話のきっかけを作ったのは、治安維持を担うグラハム・バッガスだった。元軍人の彼は寡黙な人物と思われがちだが、それは人見知りをしているだけの話であり、ある程度関係が進むと結構お喋りになるのだ。シャンインとしても、そこそこ気に入っている人物で、場合によっては使い捨てのコマとして抱えても良いかと思っていた。


 「まぁ、次の戦闘で状態の悪くない艦が手に入ったら、少しばかり一馬様に掛け合ってみても良いですわ?」

 「本当か!? だったら、頼むぜ嬢ちゃん! 出来れば、部品取りも含めて複数頼むぜ!」

 「当然、確約は出来ませんわ。期待せずに待っていて下さいな」

 「おうっ!」


 満面の笑みを浮かべ、ソファへと腰掛け直すバッガス。そんな彼の様子を他のコロニーメンバーは生暖かい目で見ていた。そうこうして、場が温まったのを察したサントスが本題へと話を切り替える。


 「さて、シャンイン嬢。今回の来訪の目的を教えてくれないだろうか?」

 「そうでしたわね。……単刀直入に伺いますわ。帝国並びに連邦とコンタクトを取りたいですの。内容は、対共和国を想定した共同戦線の提案ですわ?」

 「「「「「っ!?」」」」」


 室内にいるシャンイン以外の5人の男女。サントス、ティグアン、バッガス、そして資源担当のマルコ・シザーズに、生産部門のシャラナ・アートマン。その誰もが驚愕の表情を浮かべていた。その状況からいち早く感情を抑制出来たのは、やはりと言うかコロニーの元締めたるスキンヘッド紳士であった。


 「シャンイン嬢。1つ、聞きたい。その様な重要な事をアッサリと口にして良いのかね?」

 「別に。遅かれ早かれ何処かから漏れる話ですわ? なら、さっさと流して漏水箇所を修理(・・)した方が早くありません?」

 「修理(・・)。なるほど物は言いようだな」

 「まぁ、そんな訳でコンタクトを取れないかと思いますの。そこら辺、どうですの?」

 「ふむ。まぁ、取れなくはないな。無論、相応の代価は頂くがね?」


 シャンイン、正確にはランドロッサ要塞側の意図を聞き、些か心理面での余裕を取り戻したスキンヘッド紳士は、元締めらしく金の換算に思考を切り替えていく。彼からして、ランドロッサ要塞は得意先だ。輸出されてくる品物はどれも自身の権力を高め、強くするに打って付けのものばかり。此処で、更に恩を売っておけば、後々何倍にもなって自身に返って来るのは間違いなかった。


 「あぁ、そうそう忘れてましたわ? 次の戦闘が終結した辺りで、病院船が竣工しますの。どうしても辺境の地って医療体制が不十分ですものね。だから、複数の病院船による医療船団を編成して各地を回るつもりですの。当然、このガルメデアにも来港しますわ?」

 「……病院船?」

 「そうですの。辺境の地であろうと、誰でも安価でレベルの高い医療を受けられる病院船ですわ? 一馬様は地域医療のレベルを上げることを、将来的な目標にされていますの。その第一歩が病院船の建造と実際に各地で治療を行う事による宣伝ですわ。医療は人々の暮らしに欠かせない(・・・・・)ですものね?」

 「……そうだね」


 金の換算を始めていたサントスの思考は、シャンインの何気ないは発言によって完全に凍り付いた。彼からすれば、ガルメデアにおける医療の支配は力の源泉だ。そこへ、病院船が外部から来てしまえば確実に悪影響を及ぼすのは必定。かと言って、ノーを突き付けられるかと言えば、それも難しい。相手は自分達を遥かに上回る軍事力を誇る組織なのだから。では、どうするか。答えは簡単だ。


 「なるほど。彼は、実に素晴らしいアイディアを考えるものだね。私も常々この様な辺境の地にも、充実した医療体制を構築すべきだとは考えていたのだよ。だが、如何せん色々と不足していてね。それを、病院船と言う形で補えるのであれば喜んで出資も含めて協力しようじゃないか。他のコロニーの医療関係の知人を是非紹介しよう。彼らもこぞって協力を申し出る筈だよ?」


 最初から自分が一枚噛めば良いのだ。後からでは入りにくくても、最初から入り込んでしまえば、幾らでも美味い汁を吸う機会は得られる。サントスは、そう確信していた。転んでもただは起きぬ、と言えば良いだろうか。何処までも貪欲に金と権力を彼は求めるのであった。そんな彼を扇越しに冷たい目で見ているシャンインがいる事に、彼は気が付かない。


 「哀れなピエロですの……」

 「ん? 何か言ったかな?」

 「いえ、楽しみだと言っただけですわ?」

 「なるほど。私も楽しみにしていると、彼に伝えてくれるかな?」

 「えぇ、必ず伝えますわ。でも、その前に一馬様から最後に伝えておくようにと伝言を頼まれてますの」

 「ほぅ? 何だろうか? これ以上に、朗報があるとでも言うのかな?」


 一時は茫然としかけたものの、その辺は流石に元締めまで登り詰めた男だ。上手い具合に自身がすりよる場所を見つけ、そこへ飛び込んだ。だが、悲しいかな。彼に待つのは底知れぬ光ささぬ暗闇のみだ。右手に持っていた孔雀扇をパチリとたたみ、その切っ先をサントスの目前へと突き付け、シャンインは冷たい目で見下ろしながら言葉を紡ぐ。


 「『泥に塗れる隷属か、名誉ある死か。好きな方を選べ。回答期限は、次に相見える時。』 以上ですわ? 良いお返事を期待してますの。くれぐれも、おバカな事は考えない事ですわ?」

 「なっ……」

 「では、皆様。御機嫌ようですの」


 そう言って、部屋を後にするシャンイン。室内には静寂だけが残った。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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