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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3.5章:宙は燃えているか
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3.5-10:カワル宙⑩

4月末に書いているから、この日がどうなっているかは分からない。でも、少しでも良くなっていたらと願う。

ヴァルドリッジ中将らがランドロッサ要塞に到着した翌日、正確には日付が変わって2時間も経たない夜中の事。突然、小型端末から爆音が流れ、強制的に目を覚まされる事になった。犯人は例のバカだった。送られてきたメッセージの内容は、司令室へ来いと言う一文のみ。


 「……で、何の用だ?」

 「ナチュラルに、銃口を額に押し付けながら問い掛けるのは止めようか!?」

 「どうせ、死なないだろ? なら、試しに1発位は撃っても良いか?」

 「君、引き金に当たり前の様に指を掛けてるよね? それで、どうやって楽しい雑談が出来るのかな?」


 司令官室で、まるでその部屋の主か如く堂々と座っていたバカ。オッサンの椅子に腰掛け、緩み切った表情を見せていたバカの額に、咄嗟に銃口を押し付けたのは間違いでは無いと思う。同様に呼び出されたソフィー達も特に止めたりはしないしな。で、先の会話に戻る訳だ。


 「これは、失敬。雑談する様な仲だとは知らなかった。で、用件は何だ? 人をこんな夜中に爆音で叩き起こしたんだ。相当の内容で無ければ、分かるな?」

 「ちゃんと説明するから、取り合えずは銃口を下ろしてくれないかい?」

 「……ちっ」

 「折角のチャンス。2、3発撃ち込んだら、良かったのですわ」


 オッサンとしては、シャンインに全面的に賛同したいところだ。とは言え、それは呼び出した理由を問い質してもからでも遅くは無い。先に撃つか、後に撃つかの違いだからな。2、3発と言わず、マガジン内の全弾撃ち尽くしても構わんだろ?


 「あのさ、撃つ以外の選択肢は無いのかな?」

 「無いだろ」

 「無いですわ」

 「……誰か、僕を敬ってはくれないのかな!?」

 「くだらん芝居はいいから、さっさと要件を話せ」


 この場において尚もボケようとするバカ。いい加減、空気を読め。お前を敬うヤツなんぞ、この要塞には存在せんからさ。


 「……数日前に、共和国軍の要塞から3個機動艦隊が出ていったのは知ってるかい?」

 「サウサンから、予測進路は本国方面だと報告を受けているが?」

 「あぁ、それは偽装航路だよ。最近の彼らは些か悪知恵が働く様でね? 色々と君達の監視網を掻い潜ろうと、悪戦苦闘しながら模索しているみたいだね」

 「偽装航路……。話の流れからして、向かう先はフォラフ自治国家ないし此処か? いや、両方ってのもあるか」

 「目的は、2つあるよ。1つ目は、君達への懲罰だ」


 ちょうばつ? 超×? 長×? 鳥×? 兆×? 一体、共和国は何をしたいんだ!?


 「懲罰だよ、懲罰! 懲らしめに来る訳!」

 「何故? 何か、気に障る様な事でもしたか?」

 「記憶に無いですの」

 「……君達。本当に良いコンビだよね?」

 「私も記憶にありません」

 「私も無い」

 「左様。意味が分かりませんな?」


 オッサンとシャンインに続いて、ソフィー、サウサン、ドクターからも同様の答えが返ってくる。つまり、此方側に懲罰とやらを受ける理由は無いと言う訳だ。これは、実に遺憾である。我が要塞としては、共和国に対し外交ルートを通じ強く抗議するものであります!


 「いや、既に散々喧嘩吹っ掛けてるよね! まさか、全部忘れたとは言わせないよ!?」

 「記憶にございません」

 「それは、政治家の常套句だからね? 君が使ったらダメなヤツ!」

 「今後、同様の事が起こらないよう、関係各所に注意喚起するものであります」

 「それ、絶対に何も変わらないヤツ! って、お願いだから話を聞いてくれるかな!?」

 「手短にな?」


 長くしているのは誰かなって喚くバカを横目に、情報の整理に入る。対帝国方面の軍事的な要衝であるマーク・トゥウェイン要塞から3個機動艦隊が出たのが11月2日の話。サウサンの話では、針路は現時点では本国方面と予想されると言う内容だった。一応、タイミング的にフォラフ自治国家宙域方面への侵出も、サウサンの個人的な予想としては挙げられていた。共和国側も防諜として手を変え品を変え色々とやっているらしく、機動艦隊が通る航路が掴み難いと、彼女が愚痴をこぼしていたのも記憶に残っている。


 「漸く本題だけどね。この3個艦隊には、此処へ来るまでの間にもう1つの任務が与えられている訳さ」

 「……大方、道中で邂逅するであろう第6機動艦隊の生き残りを、消せってところだろ?」

 「……既に、そこまで当たりを付けていたのかい?」

 「共和国のトップは、頭のてっぺんからつま先の先までアホな思想に染まった軍人上がりの屑野郎。その手の輩がやりそうな事くらい、容易に想像がつく」

 「まぁ、君の予想通りだよ。下された命は、残存する第6機動艦隊の掃討だ」


 残存戦力の掃討。敵に対してですら容赦の無い命令だと思うが、その対象が戦いに敗れ命からがら逃げ延びようとしている友軍兵ともなるとな……。念の為、サウサンに預けた潜航艦を付けておいて正解だったな。


 「さて、説明する手間も省けた訳だし、本題に入ろうか?」

 「既に本題って言ったよな?」

 「……細かいツッコミは止めて貰えるかな?」


 本気で落ち込んでいる様なので、さっさと話を進める様に視線で先を促す。本当に、誰だよこのバカを管理者とやらに任命したの? 無能に権限与えるとかアホだろ? バカの上司もバカなのかな!?


 「えー、オッホン! 喜びたまえ、香月司令官。君にはチャンスを上げようじゃないか!」

 「いらん」

 「いや、最後まで話を聞いてくれないかな? そろそろ、マジで泣くよ?」

 「わー、聞きたい聞きたい」

 「……能面みたいな表情で見つめながら、ホルスターの銃に手を掛けるのは止めて下さい」


 失敬な。余りにくだらなさ過ぎて、つい表情を失っただけだ。銃に手が伸びたのは、自然な反応だから致し方が合い。人が呼吸したり、瞬きするのと同様と考えてくれれな良い。


 「で、チャンスってのは?」

 「今、正に友軍の手に掛からんとしている彼らを、助けたいとは思わないかい?」

 「思わない」

 「そうだろ? 助けたいだろ? だったら……、えっ?」

 「思わないと、言ったんだ。聞こえていないなら、コイツで耳の穴を増やしてから言ってやろうか?」


 額に目を1つ増やしたり、耳穴を追加したりと、銃ってのは本当に便利な道具だよな。正に、便利過ぎて困っちゃうシリーズの筆頭だわ。アメリカで、銃が一家に一台レベルで存在するのも良く分かる。いや、あの国の場合は、背景だの法だのでちょっと意味が違うな。物騒な国はマジ勘弁。


 「……君は、本気で言っているのかい? 一体、どれだけの人間が死ぬと思う?」

 「知らないし、知る気も無いし、興味も無い。そもそも、それが出来るならば今この瞬間にも命を落とそうとしている人間達を助けるべきだろ? それをしないで、彼らだけを助けると? ……ご大層な偽善も程々にしろよ?」

 「……参ったね。君って、いわゆる勇者的な思考は無いの?」

 「弱きを助け強きをくじくってか? はっ、勘弁しろよ。俺は、目の前のものを護るだけで手一杯だよ」

 「……そうか。まぁ、君がその選択をすると言うならば、これ以上は何も言わないよ。考えを変える気は無いんだね?」

 「無い」


 そう言った時のバカの表情は、何とも読み難いものだった。オッサンの返答に失望したか、或いは予想通りだったか。何れにせよ、ランドロッサ要塞として第6機動艦隊残存艦の救出に乗り出す様な事はしない。無論、無駄死で終わらせるつもりも無いがな?

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

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