表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3.5章:宙は燃えているか
137/336

3.5-8:カワル宙⑧

久しぶりな人達。

 「おぉ、一馬殿。ようやく、人心地ついたと言った感じか?」

 「ん、クロシバか。調子はどう?」

 「すこぶる良い。健康的な食事に、適度な運動、睡眠も十分。これで悪いなどと言う者は、余程の捻くれ者であろろうな」

 「なら、結構。俺も少しは落ち着いてきたよ。まぁ、また騒がしくなるだろうけどね……」

 「ふむ。……聞いても?」

 「むしろ、クロシバに関わりのある話だからね。是が非でも聞いて貰うよ?」


 クロシバに用が会ったので、共同スペースの食堂へと顔を出したところで、彼とタイミング良く遭遇した。これ幸いと、彼と朝食を共にする事へ。で、冒頭の会話へと繋がるわけだ。


 「……私関係となると、共和国軍に何かあったのだろうか?」

 「フォラフ自治国家宙域での戦闘については既に聞き及んでいるとは思うけど、2人ほど身柄を預かる事になってね」

 「第6機動艦隊か……」

 「知り合いでも?」

 「どうだろうか……。同胞の数多くが軍属だからな。もしかしたら、いたやも知れんが、それもまたその者の運命であろう」

 「そうか……」


 クロシバって、何処か達観した様な物の考え方をするところがある。軍人として、武人としての芯の通った考え方をする一方で、何処か遠くから物事を見ている様にも感じる不思議なあり様。あの式典から此方、この要塞で捕虜と言うか、客人的な立ち位置と言えば良いのか。コンラッドコロニーを訪れた際には、オッサンの護衛役も務めた。元は敵側の士官であり、今は……一応は協力者と言う立ち位置だろうか。


 「それで、私に話とは?」

 「その2人に、クロシバから此処の先達として色々と教えてやって欲しい。その代わりと言ってはなんだけど、これを貸与するよ」

 「これは……」

 「小型の端末だよ。外部とメッセージのやり取りも出来る様にしてある。例えば、クロシバのお父さんとかね?」

 「ふっ……。はやり、一馬殿も中々に良い性格をしている」


 解せぬ。あくまで迷惑を掛けるからその駄賃としてってのと、親切心からの提供ですよ? まぁ、当然ながらその端末のログは全て監視されているけどさ。でも、それは当然の措置だと思うしね。当たり前の事をして、良い性格とか言われちゃうとオッサンとしては泣きたくなる。


 「まぁ、好きに使って良いから。で、頼めるかな?」

 「無論。同胞の力となれるなら、協力しよう。それで、その者達の名は?」

 「アルフレッド・ヴァルドリッジ中将とボルド・ガバナー少将」

 「将官か……。まぁ、此処では階級など気にする必要も無いか」

 「捕虜と言うか、客人と言うか、まぁ微妙なところだからね。監視と行動エリアに制限はあるけど、後は好きにして過ごして貰うよ」


 クロシバもそうだけど、監視と行動エリアの制限以外は特に設けていないのが現状だ。彼が要塞に来た当初は色々と話を聞かせて貰ったけど、それ以降は特に何も無い。そもそも士官の彼が知っている情報程度ならば、中央管理AIが集められたからな。彼の父親との事を考えて、今の様な摩訶不思議な関係が成立した。


 「ちなみに、ヴァルドリッジ中将らと面識は?」

 「名を耳にした事はあるが、直接の面識は無い。噂に聞くところによると、中々の御仁だとか」

 「そうか。軽くモニター越しに話をした感じだと、話の出来る人だとは思うね」


 まぁ、知将では無く恥将だとは思うけどな。今後の事を考えると、頭が痛くなる事もあるけどさ。


 「ちなみに、ナターシャ嬢達にこの事は?」

 「シャンインから伝えて貰っているよ。……まぁ、内心は複雑であるだろうけどね? 彼女達が自治国家へ移動する迄の短い期間だから、何かあったら悪いけど間に入って貰えるかな?」

 「勿論だ。互いの立場はあれど、彼女達とも此処での生活を通しそれなりに親しくはなったからな。余計なトラブルが発生しない様に、気を配ろう」

 「頼むよ」


 急な頼みを快く受け入れてくれたクロシバ。その後は、彼と他愛無い雑談をしながら朝食を終えた。




 「今回の一連のこと、香月さんには何とお礼を申し上げれば良いのか……」

 「いや、前にも言ったけれど此方にも利がある事だからね。ラッキーって位に思ってくれれば良いですよ?」

 「しかし、それでは……!?」

 「ナターシャさん。残念ながら、一馬様はこういった方ですわ?」

 「何気に、酷い言い方だよな!?」

 「事実ですもの」


 本日2度めの解せぬ発動。シャンインをお供に、ナターシャ嬢と昼食を取っている訳だが。冒頭からボッコボコですよ? オッサン、また泣きそう。


 「ゴホンッ! ……フォラフ自治国家はこれからですからね。ナターシャさんには、帰ってから大変な日々が待っていると思います。無論、我々として出来る範囲での協力は惜しみません」

 「ありがとうございます。父も無事に解放された様ですし、かつての平穏を取り戻すまでは……」

 「……」


 強いよね、ナターシャ嬢。今も、何か大きな覚悟を決めた様な仕草を見せた。背負うものを見定めた者だけが見せる覚悟か……。


 「ナターシャさん。自身を突き動かす力に身を委ねるのも決して悪い選択肢では無いですけど、大事なのは、出来る事と出来ない事をキッチリと仕分けする事ですわ?」

 「仕分けですか?」

 「そうですの。一馬様は、その辺が一見すると適当に見えるのに、内実ではキッチリしてますわ? 自身がするべき部分を抑えつつ、任せられる所は周囲に権限毎一任してしまう。そして、後は責任だけ取るからってスタイルですわね」

 「……」

 「これからの貴女は、恐らく護られる側から率いる側になると思いますわ。その為に、今から信頼出来る人を周囲に集めるべきですの。全ては、未来の貴女がやりたい事の為にですわ?」


 オッサン、そこまで出来ているだろうか? どう考えても、シャンインが過剰に盛り上げているだけな気がするけどな。結局のところ、オッサンみたいな素人がどうこう全部判断するより、それが出来るソフィー達に投げる方が楽ってだけなんだよね。つまり、手を抜いているだけです。


 「……未来の私がやりたい事」

 「自治国家の行く末と、ナターシャさんの将来。残念ながら、それらは密接にリンクしていますの。無論、全てを捧げて国家に殉じろなんて言うつもりは毛頭無いですけどね……」

 「未来の私の為に、今できる事をする……」

 「俺が言うのも何だけど、難しく考える必要は無いと思うけどね? ナターシャさんがやりたい様にやるしか無いよ。結局、流れなんてものはなる様にしかならない訳だしさ」

 「一馬様は、些か楽観的過ぎますわ?」


 そうだろうか? 人が大きな流れに無策に逆らった所で、待っているのは流される未来だけだと思うけどね。それならば、むしろ委ねる位の気持ちで向かうべきだろう。


 「楽観的位が丁度良いんだよ。1から10までキッチリ決めた所で、物事ってのは上手くはいかないからね? 何かあったら、その時考える位の方が気持ち的にずっと楽っしょ?」

 「はぁ……。それでどうこう出来ている一馬様が異常なのでわ?」

 「それは、ソフィー達がいるからだよ。俺1人じゃ、何も変えられないさ」

 「……香月さん達の関係が羨ましいです。これまでの私は、父の背中をただ見ているだけでしたから」

 「……」


 国家を背負い、共和国と渡り合ってきたナターシャ嬢の父親。その後ろ姿をずっと傍で眺めていた彼女。1人辺境の地へと逃がされ、故郷が占領下におかれるのを見せられた事が、彼女の内面にどの様な影響を与えたかは推測することは出来ない。ただ、これだけは言える。年長者たるオッサンとしては、彼女には年相応であって欲しいと思うのだ。


 「まぁ、まだ向こうに帰るには少し時間が掛かるから、ゆっくりと考えると良いと思うよ?」

 「そうですの。私達も出来るだけ力になりますわ」

 「ありがとうございます。香月さん、シャンインさん」


 何とも、歯痒いね。人は何処までいっても結局は他人に無力なんだよ……。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ