3.5-5:カワル宙⑤
毎回言っているけど、日常編は書いていてとにかく楽しい。本編も勿論楽しいけどね。
何て言うか、ノリが違うのよ…。
後、一馬とドクターが絡むと勝手に話が進む。
さて、依頼済みの品々に関する報告は一通り聞き終えたから、次は新規依頼の番だな。えっ? まだ、頼むのって? むしろ、今回の戦闘の反省も踏まえて、更に必要になったってところだな。
「では、此処からは今後を見据えた開発計画と参りますかな?」
「だね。さてと、何から頼むかな……」
単純な強化は要塞のシステムで進めた方が早い。次世代型の艦艇とかね。ドクターに依頼するのは、その言わば隙間を埋める物がメインとなる。或いは、全く別系統の技術と言うべきか。
「此処までの依頼が概ね軌道に乗ったと言える現状、ドクターには次を見据えて忙しく働いて貰うからね?」
「その表情を浮かべた時の香月司令官は、怖いですな? とは言え、ご期待に応えるが我が使命ならば。如何にもお申しつけ下さい」
「先ずは、艦艇用の新型機関の開発。将来的には兵器類への搭載を想定した小型化も視野に入れて欲しい。今後も更に艦隊規模が増加する事を考えると、推進剤での運用を前提とした現状の機関では、効率が悪すぎるからね。候補としては、核融合炉とかになるかな? 他に何か良さそうな物があれば、そちらでも良いよ」
「なるほど。推進剤を不要と出来る機関であれば、ご要望に応えられる訳ですな?」
「そうだね。この要塞の強みって生産して配備する為のコストを端から無視出来る事だからさ、そこを是非とも活かしていきたい」
コストを度外視できる事。要塞の強みと言ったら、これだろうね。他の勢力は当たり前だが、軍事予算ってものがある。その中で研究開発から、生産して実用部隊に配備し運用して整備する全てでコストが掛かる。高度に機械化された要塞は、それらが極めて小さい。
言い方は悪いが、他の軍事勢力では最もコストが高い兵士の命すら要塞では安いからな。艦隊は無人、陸戦要員たるアンドロイド達は幾らでも替えの効く存在でしかない。勿論、彼らの命を無駄にするつもりは無いが、必要ならば必要なだけ犠牲にする事を躊躇う事もないのだ。
「核融合炉を候補にしつつ、他の可能性も探りましょう。道は幾らあっても困りませんからな?」
「迷う事は、必ずしも愚かとは言わないからな?」
「大いに迷う事が出来る。先の長い若者達の最大の特権ですな」
「俺は、何時までも迷走するつもりだけどね?」
試行錯誤し、迷い、立ち止まり、時に来た道を戻り。そうして、答えを見つけ先に進む。そして、また迷う。だが、それこそ人生だろう。迷い、迷わされ。迷わし、迷わされ。人は、迷う生き物だ。
「さて、次だな。艦艇及び兵器類向けの攻勢光学兵器の開発をお願いしたい。レーザー砲、ビーム砲、荷電粒子砲辺りが候補だな。これは、使用されるエネルギーを供給する機関の開発と並行になるかな?」
「1つ目と絡みつつと言う事ですな。まぁ、現行艦の機関では、光学兵器の運用にはエネルギー面で厳しいでしょうからな。承知しました」
光学兵器。ビーム兵器あるいはレーザー兵器に、荷電粒子砲辺りが定番だろうか。多くのSF作品では定番とも言える兵器。現状では、要塞の保有する艦は実弾兵器がメインとなっているが、より火力を求めるならば光学兵器の運用は必要だろう。ついでに、弾薬をケチれるって言うのもあるが……。
新型機関も、光学兵器も、継戦能力を考えると避けて通れない選択肢だとオッサン的には思う。無人艦ゆえに推進剤と弾薬以外の補給がほぼ不要となれば、事実上無制限に戦闘行動を継続出来る様になる。沈める以外に止められない艦隊ってヤバいよな。
「それから、アクティブステルスって言えば良いのかな? 現行の光学迷彩に加えて、相手のレーダーや熱探知からも完全に探知されない様にしたい。現行の電子戦艦併用だと、此方の存在を大々的にアピールしてしまうからね」
「船体の形状や表面塗装による探知され難さではなく、相手の索敵網を完全に掻い潜ると言う事ですな? 光学迷彩と組み合わせれば、神出鬼没の艦隊が出来ますな」
「今回の戦闘でも思ったけど、やはり相手の背後を荒らせる戦力は重要だからね。今後は共和国の補給路を脅かす通商破壊戦にも、使っていきたいかな」
「承知しました。有効性を考えると早期に実用化したいところですな。早急に取り掛かりましょう」
「宜しく」
現行の光学迷彩搭載艦って、見えないとは言えレーダーには残念ながら映るんだよね。これまでの戦闘には、電子戦艦が同行していたから相手のレーダーと通信を無力化出来ていた。しかし、今後は通商破棄の為に遊撃艦隊や潜航艦を単独で動かす事を考えている以上は、レーダーに映らない為の技術は必須になる。
まぁ、電子戦艦がお役御免になるって事は無いけどな。あの艦はあの艦で、今後も使い道はある。要は、使い分けって事だわな。
「後、ダミーバルーンの改良をお願いしたい。1つは機動性の向上と、武装化。機動性は最低限の回避行動が出来る様になるのが理想かな。武装としては対艦魚雷を数発仕込めれば御の字だと思ってる。無力なダミーだと油断した連中に、手痛い一撃を加えられれば面白いだろ?」
「油断大敵と言うやつですな? 改良事体はそれほど難しくありませんぞ。直ぐにでも改良型を生産ラインに載せましょう。で、他はどの様な改良をお望みで?」
「こっちは、艦艇では無く小惑星やデブリ、コロニーの残骸なんかを再現出来るように改良してくれないかな? それらはぶっちゃけ移動出来なくても問題無いから。要は敵の目を欺ければ良いわけだしね」
「なるほど、欺瞞目的のダミーですな? 此方もそう時間は掛かりませんので、直ぐにでも形にしてご報告致します」
流石は、ドクター。略して流ドク。余り略せてない事実からは、静かに目を逸らす。
「取り合えず、現状だとこれ位かな? 流石に、大量破壊兵器なり生物兵器なりには手を出したくないしな。あっ、病院船とかはありかもな?」
「……コロニーレーザーは大量破壊兵器に分類されると思いますぞ? 後、推進器を付けた資源衛星も、質量兵器としては効果を考えると十分それらに分類されますな」
「察しの良いドクターは嫌いだよ?」
「では、忘れましょう。それと、病院船は良いアイディアだと思います。辺境の地では、十分な医療が受けられない地域も多いですからな。今後の戦乱で必要とする者はますます増えるでしょう」
「マッチポンプと揶揄さえるかもしれないが、無いよりはマシでしょ?」
ガルメデアのスキンヘッド紳士の様に、医療を抑える事で高い権力を手にする者達もいるだろう。そう言った者達に取って、目の上のたん瘤とでも言うべき存在になれれば儲けものだろう。使わせない為に締め付けを強化すれば、それは反発の芽を自ら生みだす事になるからな。
「ドクター。病院船を優先で頼む。ベースは取り合えずトラリー級輸送艦で良いかな? ガルメデアのスキンヘッド紳士を陥れるのに使いたい」
「了解しました。しかし、香月司令官の遊び相手に選ばれた方には同情しますぞ?」
「きっと、楽しんでくれるさ。もし、一緒に遊ぶのを拒むようならば……」
「待つのは破滅か、名誉ある死か……。まぁ、彼が命をチップに遊びの舞台に立てばの話ではありますな」
何れにせよ、彼の未来は大きく揺れ動くだろう。だが、これまで好き勝手過ごしてきたのだから、それ位は笑って受け入れて欲しい所だ。それでも、シャンインプランよりかはマシな結果になる筈だからさ……。
「今頃、盛大にクシャミをしているかもな?」
「かもしれませんな。お大事にとだけ言っておきましょう」
「ドクターも結構、毒吐くよね?」
「はて? 私からすれば、存分に腕を振るわせて貰える要塞以外の全てに対し、等しく興味がありませんからな。誰が何処で死のうと、私の研究開発の邪魔さえしなければ一向に構いませんぞ?」
「……」
ちょいちょい現れる、ドクターの冷徹とも冷酷とも言える考え方。ある意味で、研究者ないし探究者らしいと言うべきか。スキンヘッド紳士は、彼からすればどうでも良い存在でしたっと。
「病院船用のアンドロイドを手配しないとな。最初は1隻から運用開始して、将来的には複数隻で辺境を中心に運用する医療艦隊に発展させるのも面白いな」
「良いですな。人道的な医療艦隊ならば、民衆からの支持も集めやすいでしょう。そして、何より彼らを依存させれば色々と役に立つかと?」
「いや、そこまで腹黒い事を考えてはいないからな!?」
「おや? それを狙われての建造では?」
「……黙秘する」
否定は出来ないが、ストレートに指摘されるとそれはそれで嫌なんです。面倒くさい性格をしているって? 仕方がないだろう? だって、オッサンだもん。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!