3-20:対第6機動艦隊戦⑪
おわーらーないー
右翼を担う第5~7水雷戦隊による脚の速さを活かした機動戦の最中、第198任務部隊の旗艦はサウサンによって正面へと強引に引き摺り出される。
「一撃で仕留めろよ?」
「雷撃戦、開始ですわ!」
敵は戦艦だ。でも、多数の巡洋艦及び駆逐艦から発射された高火力を誇る魚雷を前には、その厚い装甲も大して役には立たなかった様だ。最終的に、16発もの魚雷が命中したTF198の旗艦は盛大な火球となり爆沈した。
「敵左翼、崩壊していきます」
「残存艦の掃討を続けつつ、敵右翼への攻勢を強める!」
「遊撃艦隊。残弾ゼロで帰投開始ですわ!」
「後方の支援艦隊に合流させて、優先的に補給を!」
「了解ですの!」
後方に位置していたTF211の支援艦隊を襲撃していた遊撃艦隊も弾薬を使い果たし、帰投する事になった。敵右翼の空母群撃滅に加え、敵左翼の空母群も壊滅。そして、後方に陣取っていたTF211に随行する後方支援艦の多くを血祭りに上げた、かの艦隊の働きは正に殊勲賞としか言いようが無いな。今後の戦闘でも継続して運用するべきだろう。
「敵右翼、旗艦を中心とした艦隊が攻勢を開始!」
「最後に一花咲かせるってか? 上等だ、第1戦隊を前に出せ! 砲撃戦で片を付ける!」
「了解です。第1戦隊は前へ! 砲撃戦準備!」
今までは敵右翼を惹きつけ役として、最低限の長距離砲撃戦に終始させていた第1戦隊を前へと出す。敵旗艦が打って出てくるのであれば、此方も相応の艦で相手をするのが礼儀だろう。まぁ、水雷戦隊の雷撃で片付けるのも一興ではあるが……。此処は敢えて敵に合わせるとしよう。
「各艦、照準合わせ!」
「各艦砲撃データリンク接続完了。初弾装填良し。射線上、友軍艦無し!」
「よし、第1戦隊、一斉射!」
『スレイプニル』の3連装300㎜投射砲を始め、第1戦隊各艦の主砲が一斉に火を噴く。ほぼ同時に、敵艦隊からの発砲が確認され、双方が入り乱れての砲撃戦へと突入していく。
「1隻ずつ確実に潰せ! 敵は手負いだ! 油断はするなよ!」
「データリンク更新」
「駆逐艦隊、左方より突貫開始ですわ!」
戦艦及び一部巡洋艦が正面切って砲撃戦に徹する中、互いの駆逐艦隊が相手艦隊の側面を強襲せんと突貫を開始する。砲弾の雨霰を掻い潜り、肉薄し雷撃戦へと持ち込まんとする駆逐艦隊。それを阻止せんと、戦艦隊の前へと出る巡洋艦隊。砲撃と雷撃、対空砲火が入り混じる戦場。
激しい砲火の中、1隻、また1隻と落後する艦が増え、徐々に戦況は傾いていく。
「っ! 11時方向の戦艦に砲火を集中! あの艦を起点に敵戦艦隊を叩くぞ!」
旗艦を含め5隻の戦艦隊の内、向かって11時方向の艦が明らかに動きが鮮明さを欠いてきた。恐らく、何処かに被弾した1撃が効いて来たのだろう。もしかしたら、パルス砲弾の影響かもしれんな。弱った獲物から優先的に処理するのは必定。弱き者は死し、強き者が残るは世の定め。
「敵戦艦爆沈! 続いて、その後方の戦艦も大破!」
「大破した艦も確実に潰せ! 残して良いのは完全に破片だけだ!」
パルス砲弾の威力は極めて強力だ。だが、過信してはならない。辛うじて一部の機能が生きている艦がいるかもしれない。その艦に背を向けた次の瞬間に、ズドンなどとやられたらアホだからな。残酷かもしれないが、止めを確実にさしていくしかない。
正面火力を担う1隻が崩れれば、そこからは時間が掛からない。集中していく砲火を前に次々と最大火力たる戦艦が沈んでいく。此方も巡洋艦や駆逐艦に被害が出始めるが、今さら戦況が変わる事は無い。数で勝る共和国陣営と、質で勝る要塞陣営。
一歩も引かぬ両軍なれど、戦況は時間を追う毎に此方側へと傾ていく。既に敵左翼のTF198は要塞右翼軍による掃討戦により戦力の7割を損失し、統率を失った各艦が散り散りに敗走する有り様。後方から上がって来たTF211は、敗走艦を支配下に収めんとしている様だが、既に心の折れた彼らがその言葉に耳を傾ける事は無い様だ。
「TF211。間も無く左翼前線に加わりますわ!」
「了解! TF198への掃討戦は右翼水雷戦隊のみに変更! 残りの右翼第4・第6戦隊は第1戦隊隷下へ合流! TF211を迎え撃つぞ! 」
第1から第6までの6個戦隊に加え、左翼を構成する第2から第4の3個水雷戦隊でTF211を迎え撃つ。前回は良い様にやられたが、今回はキッチリと借りを返させて貰う。TF211との戦闘に勝ってこそ初めて、今回の戦闘は終結となるだろう。
「TF204戦艦隊壊滅しました。敵旗艦と思しき艦も爆沈を確認!」
「良し! 流れは完全に此方に傾いたな。いよいよ、大一番だ」
「TF204残存艦。TF211へと合流を開始ですわ!」
「砲撃戦開始! わざわざ合流する時間を与える必要は無いぞ!」
「全戦艦隊。戦術データリンク再構築完了。敵戦力の解析完了。敵旗艦『フォートスティール』座標特定。優先標的へ設定」
「先ずは、前衛艦隊を片付ける! 照準、敵前衛艦隊!」
6個戦隊に所属する全戦艦による砲撃準備行動。主砲が転回し、砲身が各々の指定標的に対し細かい微調整を行う。初弾が装填され、後は此方からの砲撃開始の合図を待つだけとなる。当然、敵側も同様に砲撃戦を始める為に準備を開始しているが、此方の方が早い。
「全戦隊。砲撃開始!」
『スレイブニル』以下、全戦艦から発射される砲弾が光の矢となって敵艦隊へと降り注いでいく。遅れて敵艦隊からの戦艦隊による砲撃が開始されるが、その前に幾隻かの艦が此方の砲撃による餌食となって宙へ還っていく。上手い具合に相手の出鼻を挫けた様だ。
「最後の1発まで撃ち尽くせ! シャンイン、支援艦隊をギリギリの位置まで接近させてくれ! 補給が必要になる!」
「了解ですの!」
拠点艦を含めた支援艦隊を前に出すのはリスクが高いが、このままのペースだと推進剤と弾薬が持たないのは明白。補給して前線に戻る時間を減らすには、支援艦を前に出すしかない。連戦になる場合の、補給体制をどうするか、今後の課題か……。
そうこう思案している間にも、戦闘は続く。戦艦隊による長距離砲撃戦から始まったTF211との戦闘。TF204の残存艦を加え艦艇数が増えた事で、一見すると火力面では向上した様に見えるが、一方で指揮に乱れがある様にも見える。残存母艦から発艦した艦載機隊が執拗に攻撃を仕掛けてくるが、既に見慣れた攻撃に過ぎず、冷静に対処すれば苦戦する事は無い。次々と対空砲火に捉まり、小さな花火となって散って行く艦載機。
「支援艦隊合流まで後10分ですわ」
「了解。第7水雷戦隊は戦闘を終了し補給を。完了後、左翼第4水雷戦隊と交代」
「了解ですの。以後、ローテーションを設定しますわ」
「頼む。正面の戦隊は少し様子を見る。随伴の巡洋艦と駆逐艦は順次下げて補給を受けさせてくれ」
「了解ですわ」
補給はシャンインに一任し、再び指揮を執る事に集中する。ちょくちょく脱線する思考と戦いながらだけど……。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに!