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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3章:夜明け
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3-18:対第6機動艦隊戦⑨

The・美学

 FCSを自動から手動へと切り替える。それに加え姿勢制御の為、上半身の関節及び機構をロックしていく。敵の砲撃や雷撃に対しては最低限の回避行動のみに切り替え、射撃に全リソースを注ぎ込んでいく。此処まで来たならば、失敗は許されないしな。


 「……」


 ターゲットに追従しつつ、射撃ポイントへと銃口を向け続ける。どれだけ対空砲火が飛んで来ようと、銃口だけは決してブレ無い様に全神経を集中していく。


 「……」


 深呼吸を1つ、息を止める。


 「……1つ」


 成形火薬による推進力と、電磁誘導による投射力によって加速したドクター謹製の砲弾は、寸分の狂いも無く狙い通りの位置へと着弾し、敵戦艦の厚い装甲を貫いた。だが、それは初弾でしか無く後2発同じ場所に撃ち込まなくてはならない。


 「ふぅ……」

 『お見事ですな。僅かな狂いも無く、予定通りのポイントに撃ち込まれるとは』

 「まぁ、1撃目だから。後2撃、決めないとさ……」


 被弾した事で回避行動に重きを置いたのか、敵艦の動きがかなり不規則に変化する。メインスラスターだけでなく、両舷のサブスラスターも小刻みに動かし、狙いを付けさせぬとばかりに荒ぶる敵艦。とは言え、その程度で逃げられるとは思わないで欲しい。


 「……」


 再び、呼吸を止め引き金へと指を僅かに掛ける。発射のタイミングを狙う間にも、対空砲火と思しき幾つもの閃光が目の前を通過していく。銃口の先に敵艦の未来位置を当て嵌め、静かに引き金を引いた。発射された砲弾が回転しながら宙を駆け、1撃目が抉った穴へと吸い込まれた。


 『……計算に間違いが無ければ、今ので指揮所周囲の装甲を抉った筈ですな。旗艦で有ればの話ではありますが』

 「何れにせよ、次で分かるさ」


 目の前の艦が旗艦であるか否かは、その後の周囲の艦の反応を見れば分かるだろう。だから、今は中てる事だけを考えれば良い。まぁ、急がないと推進剤が切れるんだけどね?


 「右翼の方はどうなってる?」

 『間も無く水雷戦隊による機動戦が始まります。サウサンが敵左翼旗艦を押し出して、仕留めさせる予定ですな』

 「そうか。なら右翼は手堅く勝ち確かな? 後は、こっちか……」

 『此方側の敵も段々と統制が取れなくなっている様ですな。旗艦が墜ちれば崩壊は避けられぬでしょううな』

 「それ、絶対にフラグだろ……」


 ドクターと軽口の応酬をしつつ、最適の射撃位置を探り続ける。既に敵艦も此方の意図は察しているらしく、左舷側を此方に向けない様に意識しているのが見て取れる。とは言え、重力圏下とは異なり360度全てから回り込める以上、機動性が上の此方が有利な事に変わりは無い。それに、大型艦ゆえにどうしたって回避行動には時間も掛かるしな。

 小回りの利く艦載機と、装甲の厚い大型艦。対照的とも言える互いの姿。王手を掛けた状態ながら、敵もまたしぶとく回避行動を取り続ける。追うものと追われるもの。討つものと討たれるもの。その差は何だろうか?


 「……」


 対空砲火を掻い潜り、ひたすらタイミングを狙い続ける。1秒1秒毎に推進剤の残量は明確に減っていき、残り時間は後僅か。感覚的にはもう1分も無いだろうか。


 「ドクター」

 『後20秒が限界ですな……』

 「……了解」


 おっと、予想以上に時間が残っていなかった。敵艦の周囲を縫う様に飛び続けながら、最後のチャンスを伺うが、厳しいか……。いや、諦めたら終わりだな。時間も無いし、仕掛けるとしよう。


 「持ってくれよ……!?」


 ペダルを踏み込み、最後の加速を行う。推進剤の残滓を全て使い果たす。機体を捻りながら、腰から下をパージ。その衝撃で、上半身に右方向の回転が僅かに掛かる。銃口を僅かにずらし、引き金を引いた。


 青白い色と共に宙を駆け抜ける最後の砲弾が、獲物を撃ち落さんと抉られた穴へと……到達しなかった。……砲弾の先へと割り込んできた、1隻の駆逐艦の挺身によって。


 「マジかっ!?」


 思わず叫ぶ。間違い無く、当たる筈だったのだ。最後の一撃を撃ち込む為に、敢えて敵艦から距離を取った事がこの様な形で仇になるとはな……。弾薬庫に被弾したのか、内部から膨らむように火球になって爆散する敵駆逐艦の姿。敵ながら天晴れと言うべきか、邪魔だと罵るべきか……。


 「最後の最後で取り逃がすとはな……。調子に乗ったツケが此処で来るとは……」

 『……香月司令官』

 「あぁ、頼む。失敗しても、最後はキッチリと締めないとな」

 『では、早速……』


 敵旗艦(仮)を撃沈して有終の美を飾る筈だったが、そうなる事無く今回の戦闘は終わりになってしまった。ドクターの操作によって、オッサンの搭乗していた『オグマ改』は白い閃光と共に宙へと散った。




 「……申し訳ない。失敗した」

 「仕方がありません。そもそも、敵の策を潰せただけで十分では無いかと?」

 「そうですわ。一馬様の仇はしっかりと取りますから、安心して下さいな!」

 「いや、死んで無いからな!?」


 ドクターと共に司令室に戻り、ソフィー達に頭を下げる。彼女達に指揮を押し付け好き勝手した挙句、戦果ありませんでしたでは笑えないからな。その結果、取り合えずシャンインとは後で話し合いが必要な事が分かった。


 『おっ、一馬も死に戻ったか。良く戻ったな?』

 「だから、俺は死んで無いっての!」

 『ハハハッ! 昔から死ぬ度に強くなれるらしいからな? 次はもう少し行けるんじゃないか?』

 「どこの馬鹿にそんな嘘を教えられたんだよ……」


 そもそも、死んだら終わりだからな!? 生き返ったら強くなるとか、御伽話の中だけだろうに。大方、あの管理者(バカ)が余計な知識を与えたんだろうがさ……。サウサンがこれ以上のポンコツになったら、どう責任取るんんだよ!?


 「はぁ……。まぁ、良い。敵左翼から潰すとしよう」

 「……一馬さん。敵後方のTF211が前進を開始した模様です」

 「このタイミングで? 加勢にしては遅いし……」

 「あり得るとしたら、撤退支援なのでは?」


 どうだろうか? 敵左翼は半壊以上にまで追い込んだ。敵右翼もチマチマと削ったお陰で、当初の勢いは確実に削げている。サウサンのトラップで敵左翼旗艦を葬れば、ほぼ勝ち確だろうな。一方の敵右翼もこのまま行けば終わりは見えると言って良いか。

 無論、敵が何らかの策を講じて来れば話は変わるかもしれないが、それでも終局が多少遅くなる程度でしか無いと思う。それこそ、盤そのものを引っ繰り返すしか手は無いのではとすら思う。その様な状況下で、今まで大きな動きを見せてこなかったTF211の前進が何を意味するのか……。

お読みいただきありがとうございました

次回もお楽しみに!

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