3-14:対第6機動艦隊戦⑤
漸く、投降再開出来る。更新頑張ります。
実際にその場にいる訳では無いのにも関わらず、シミュレーター内に描写されている最前線の光景は心に強く訴えかけてくるものがあった。ソフィー辺りが手配したのか、『スレイプニル』を発艦したオッサン専用機の周囲を巡洋艦と駆逐艦が護衛とばかりに随行している。まぁ、戦闘になったら当然振り切るけどね。
「……戦争か」
シミュレーション越しとは言え、これまで要塞の司令室で何処か他人事の様にすら感じていた戦闘……いや戦争が直ぐ手の届く場所にある。俺、この戦争が終わったら結婚するんだ! 相手が居ないけどね! 取り合えず、お約束だよな!?
「まぁ、冗談はこの位にして……そろそろだろうな。ソフィー?」
『はい。一馬さん、どうされましたか?』
「……敵の狙いは恐らく旗艦だ。酷使した上で、使い潰して良いぞ?」
『了解しました。気が緩んだ所で、畳み掛けます』
「思いっきり、パニックを演出してやってくれ」
『はい。一馬さんもお気を付けて』
「任せな! 撃墜王になってくるぜ!」
モニター越しに敬礼しているソフィーにウインク1つ返してスラスターペダルを強く踏み込む。護衛の艦を振り切り、一気に敵陣へと殴り込むとしようか。戦う司令官様のデビュー戦だぜ?
「……FCS、オンライン。全武装、オールグリーン。推進剤、沢山と……」
『香月司令官。如何ですかな?』
「最高だよ? 流石はドクター自ら改造してくれただけの事はあるな」
『それは何よりですな。一応、各部の強度も極限まで追求はしましたが、くれぐれもご自愛くだされ?』
「はははっ! 気を付けるさ!」
無理な機動制御を繰り返したせいで、最初の試作機を空中分解させたからな。今回同様に、シミュレーションからの操作だから怪我は無かったけどさ。その結果、ドクターのプライドに火が付いたのか、強度が大幅に向上した専用機が数日後にはロールアウトしただけでなく、『スレイプニル』に突貫工事で格納庫と簡易カタパルトを付けるまでに至った訳だ。いや、あの時のドクターはマジでヤバかった。
さて、敵陣に切り込むまで少し時間があるから、ここいらで両軍の陣形でも確認しておこうか? ランドロッサ要塞陣営は鋒矢と呼ばれる陣形を採用している。上から見ると、その形は上方向の矢印って言えば良いだろうか? 一方の共和国軍第6機動艦隊は、3個の任務部隊で逆三角形を描いている。艦艇数が少ないのが何だが、鶴翼の陣がもっとも近いだろうか。
鋒矢対鶴翼。
初戦は、ランドロッサ要塞が共和国軍の数を削る事に成功した。結果として、両軍の戦闘艦の数はその差が無くなってきている。こうなってくれば、純粋に艦毎の性能が上の此方が有利な状況になるな。その事は向こうの指揮官達も理解しているだろう。そうなってくると、彼らが次に打って来るであろう手は予想しやすい。正面からズルズルと砲撃戦を続け消耗するのでは無く、戦況を大きく自分側に引き寄せる一手を打つだろう。
旗艦撃沈。
此方がやった手を向こうもやり返して来ない道理は無い。むしろ、この状況ならば積極的に狙って来ると見て間違い無いとすら思う。自分が相手側の立場だったらどうするか……?
「……どっちかが血路を開くか。或いは……っと!?」
敵陣に向かう道中、呑気に考え事をしていたせいで何時の間にか激しい対空砲火の中に突入していたわ。いや、吃驚だね。何が吃驚って、突然攻撃され始めた事もだけど、考え事しながらも自然と回避行動取れてる自分に何よりも吃驚だわ。それにしても、これって何て弾幕ゲー? たかが1機の艦載機相手に、過剰じゃありませんこと!?
「アイ、キャン、フラーーイ!!」
思わず意味不明な言葉を口走りながら、操縦桿を天上天下中央上下左右前後斜め45度にグネグネグリグリと動かしてしまうではないか!当たりません! 勝つまでは! 当たりません! ネタが尽きるまでは!
「遅い! 遅すぎるぞ! 圧倒的に速さが足りない! 速さこそがこの世の全て! 速さを求めよ! ついでに、弾幕薄いぞ! 何やってるの!?」
超ノリノリで対空砲火による弾幕を掻い潜り、人型モードへと変形しながら主武装で狙いを定める。携行式の180㎜速射砲。敵艦艦橋へとFCSによるロックが掛かる前に引き金を引く。意図的に発射時の反動を残したままの速射砲。その反動を利用し機体を回転させながら再び艦載機モードへと変形しその場を離脱する。艦橋を撃ち抜かれ明後日の方向へと迷走していく敵巡洋艦を横目に次の獲物へと向かう。
「速さこそ正義! 故に、正義は我にあり! 文句があるならば、超えて見せろ! この『オグマ改』をな!!」
スラスターと人型への変形を途中で手動キャンセルする事で、あり得ない機動で敵艦隊の間をすり抜けていく愛馬。じゃじゃ馬? エレガントに乗りこなそうぜ? 色々と混ざっている気がするが、キニシナイ。目についた敵艦に砲弾を叩き込みつつ、残り僅かとなった胴体下部の追加増槽を急降下爆撃かくやの軌道で敵駆逐艦へと放り込む。まぁ、当然ながら爆発とかはせず、表面装甲に傷の1つでも付けれてれば御の字って所だろうね。さて、その様な挑発行動が敵の注意を引いたのか、やたら滅多ら対空砲撃が飛んでくるけれども、当たらないのだよ!
「言っただろ? 速さが足りないと!」
そう、速さこそ正義なのだ。対空砲火も砲撃も、当たらない限り脅威とはなり得ない。全ては速さの前に無為でしかない。速さこそが絶対の正義であり、指針である。速さこそが、唯一絶対の神なのだ!
「さてと、ドクター。戦況はどう?」
『敵左翼が攻勢に出ましたな』
「右翼は?」
『どうも、艦隊内の各所で混乱が見られる様ですな。多少は距離を詰めて来たものの、長距離砲戦に終始しておりますぞ。まぁ、香月司令官が彼らの目の前で暴れられているせいやも知れませんが……』
「……了解」
どうやら、敵右翼の行動を思いっきりかき回している様子。多分、左翼が仕掛けて此方の主力を引き付けつつ、右翼が手薄になった旗艦周辺へと仕掛ける予定だったのだろうと思う。或いは、一撃だけ仕掛けて後退からの引き寄せとかかな? まぁ、いいや。チャンスとあらば、骨の髄までしゃぶりつくさないと失礼だろうからね!
「ソフィー! 予定を一部変更するぞ! 敵右翼は一旦此方に任せろ! 先に左翼を叩き潰せ!」
『了解です。各隊、敵左翼へ火力を集中!』
「ドクター! リミッター解除するぞ!」
『やれやれ、致し方ありませんな』
「うっし、更なる速さの先へ! ヒャッハー! 宙を縮めるぜ!!」
機体が分解しない様、ドクターが設定したリミッターを解除し更なる加速を始める愛馬。私の愛馬は最速です。視界に入って来る情報が、非常にスローに感じる様な異質な領域へと入り込みながら、オッサンは操縦桿を強く握り締めた。
お読みいただきありがとうございました
次回もお楽しみに。