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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3章:夜明け
113/336

3-13:対第6機動艦隊戦④

共和国のターン!


※いつも誤字報告を頂きありがとうございます。

 「一先ず、一息付けたと見るべきか……」

 「厄介な長距離砲撃も落ち着いた様です。どうやら、敵もこのタイミングで態勢を立て直している様で」


 右翼を担う第204任務部隊を率いるサミュエル中将は、自席に深く腰掛け何時もの癖で軍帽の位置を指先で微調整する。深く肺の中の空気を吐き出し、現状を振り返る。初戦を終え、情勢は自軍に取って喜ばしく無いと感じていた。


 「最終的に被害はどの程度になった?」

 「前衛艦隊は壊滅。右翼艦隊は3割が失われました。左翼艦隊は1割程度ですが、後退の際に殿にした戦艦隊の損失が大きくなっております。また、本隊に随伴していた空母部隊は全滅。艦載機隊は第4波攻撃迄で凡そ4割を損失、残りは支援艦隊や左翼のTF198及び後方のTF211空母群が可能な範囲で収容しておりますが、何処まで戦線復帰出来るかは不明です」

 「……初戦から酷いやられ様だな」

 「戦況分析では、敵側の損失は全体の1割にも満たないものと出ております」

 「そこまでか……」


 自軍と敵軍との大き過ぎる損失差に、些かショックを隠し切れないサミュエル。既に自艦隊の戦闘艦は120隻程が失われ、残りは250隻余りにまで減っている。そして、壊滅した前衛艦隊の穴埋めに自身の率いる艦隊も、次の戦闘からは前に出る事となるであろう事は間違い無かった。艦載機隊による支援も現状ではそれほど期待出来ず、次は今よりも厳しい戦いになるのは確実であった。


 「前衛艦隊残存艦は右翼艦隊へと合流を完了。左翼艦隊へは、本艦隊から戦艦を5隻回しております。また支援艦隊は、TF211の後方まで退避させました」

 「分かった。各艦隊に指令してくれ。……次は厳しい戦いになると」

 「はっ! 直ちに!」

 「すまんな」

 「いえ。……総員、最後まで司令にお供致します」


 敬礼し、各艦隊に指令を伝える為に傍を離れる副官を横目に戦域図を眺めるサミュエル。左翼を担うTF198も、彼の率いるTF204同様に前衛艦隊を戦闘能力を著しく失っており、再編した残り3個艦隊で次戦に備え展開していく。


 「さて、どうするか……」


 正面からの殴り合いは、極めて不利だとサミュエルは理解させられていた。装甲の差なのか、自身の艦隊からの砲撃や雷撃は相手に対して中々致命傷を与えるに至らず。一方、彼の率いるTF204は何らかのトリックでもあるのかと言わんばかりに、次々と落後していく有り様。因みに、TF198のラングレー中将は戦闘中、彼我の損失比を6~7対1と報告を受けていたが、それは実際とは大きくかけ離れた数値であった。戦闘中の発光信号による情報のやり取りに齟齬が発生し、正確な報告が伝わっていなかったのである。では、実際にフォラフ自治国家宙域に置ける初戦で、両軍がどの程度の損失を出したのかと言えば……。


 ランドロッサ要塞が29隻に対して、共和国軍第6機動艦隊は250隻もの艦艇を失っていた。せめてもの慰めとしては、要塞側は完全な撃沈乃至大破に対し、共和国軍艦艇の多くの艦が中破~大破程度に留まっていた事だろうか。なので、負傷はしつつも無事な乗組員達は多く居た。ただ、電磁パルス砲弾によって内部システムを破壊され、自分達の乗艦が宙に漂う棺桶になっている事を慰めと呼べるかは不明だが。彼我の損失を比率にすれば、1対8~9と言った所だろうか。艦の性能差、冶金技術の差、新型砲弾の性能、無人艦ゆえの機動性、レーダーや通信の有無と言った要因は多数あれど、先の襲撃により機動艦隊の旗艦を沈められた事が未だに士気の低下と言う形で尾を引いていたのだ。無論、その裏で暗躍して情報戦やら嫌がらせを仕掛けていた者の功績もあるが……。


 「確か、1隻だけ色が異なる艦がいたと言っていたか」


 一般的に、艦艇には各軍で共通のカラーリングを施すのが普通だ。それはサミュエルが率いるTF204も同様であった。通常、カラーリングには敵味方を区別する意図もある。対峙する敵艦隊も、その1隻を除いて艦種が異なっても全て同じカラーリングが施されていた。


 「帝国では、士気向上の為に旗艦等は特別なカラーリングをしていたが……」


 サミュエルが言う様に、ワルシャス帝国軍は艦隊旗艦や特別な功を上げた艦には、パーソナルカラーでの特別カラーリングを許可していた。その目的は、偏に士気の向上であった。各々が独自のカラーリングを施した艦が戦場に登場するだけで、艦隊全体の士気が高まるのであった。


 「このままズルズルと削られる位なら、いっその事……」

 「失礼します! TF198のラングレー中将より電文です!」

 「ご苦労、下がって良いぞ」

 「はっ! 失礼します!」


 通信担当がTF198からの電文をサミュエルへと手渡す。発光信号でのやり取りゆえか、出来るだけ手短に伝える為に紙に書かれていた文章は簡潔で短かった。そして、その内容は如何にもラングレー中将らしいものだと、一読したサミュエルは感じた。


 『活路は敵旗艦にあり』


 「ふっ……。ラングレー中将も同じ考えに至ったか。こと、此処に居たっては活路を開く為にそれしかあるまい」

 「どうかされましたか?」

 「ん? あぁ、そちらは手が空いたか」

 「はい。各艦隊への通達は完了です。それで、TF198からは何と?」

 「活路は敵旗艦だそうだ」

 「……なるほど」


 このまま砲撃戦を続けても、最終的に削り切られるのは自軍側である事をサミュエル同様、ラングレー中将も正しく理解していた。それ故に、戦況を変える一手を求めたのだ。そして、双方の指揮官が目を付けたのが、明らかに他とは一線を引いた艦の存在であった。恐らく、あの艦こそが敵艦隊の旗艦たる船。その艦を沈める事が出来れば、勢い付く敵の士気に大いにダメージを与えられるだろうと予測する。


 「TF198に発光信号。内容は……ノックは任せる。それだけで、良い」

 「はっ! 直ちに!」


 再び、電文を送る為に傍を離れる副官を視界に収めつつ、敵旗艦撃沈の為に戦術を練り始めるサミュエル。敵艦隊の旗艦を一点狙いするとは言え、その周囲を固める艦が邪魔をするのは当然の事。如何にして周囲の艦を引き剥がし、ターゲットの護りを薄くするか。これまでの数多の経験を基に、最適解を模索する。とは言え、彼が取れる選択肢はそう多くは無かった。先の戦闘で、別働隊による強襲は真っ向から潰されただけでなく、逆襲を受け手痛い損害を出していたからだ。搦め手は恐らく効果が薄いと彼は判断した。


 「サミュエル中将。TF198への発光信号完了しました。それから機動艦隊本隊より電文です。TF211の左翼艦隊をTF198へ。右翼艦隊を我々に合流させると」

 「……ご苦労。どうやらヴァルドリッジ中将は、次戦がカギになると踏んだ様だな」

 「後詰として、本隊も前に出るとの事です」

 「分かった。指揮下の各艦隊に指令だ。これより本艦隊は敵艦隊旗艦を叩く。……左翼及び右翼、増援艦隊は総力を上げ路を開かれたしと」

 「了解しました!」


 サミュエルが選択したのは、本隊以外の全艦隊で敵旗艦までの路を強引にでも開くというものだ。相手より少数の艦で周囲を抑え込み、敵旗艦までの道をこじ開ける、言わば味方を盾に使う様な策だ。もし、敵旗艦を仕留め損なえば最後、敵艦隊内で包囲され盾となった僚艦共々生きて還る事など到底叶わないだろう。将兵の命を懸ける賭けとしては、割に合わない策と言えた。しかし、天秤が敵側に傾き始めるやもしれない状況を、逆転とまで言わずとも水平にまで戻すには他に選択肢が無かった。


 ……敵の旗艦が他の艦同様に無人艦であり形式だけのものだと気が付いていたら、サミュエル中将もこの様な策を選択する事は無かったであろう。しかし、皮肉な事に彼は最後までその事には思い至る事は無かった。


 フォルトリア星系歴524年10月25日。フォラフ自治国家宙域を巡る戦闘は、いよいよ佳境を迎える事となる。勝利の女神が微笑むのはランドロッサ要塞か、ボルジア共和国か。

 

 後の歴史家達は語る。


 ―この日こそ、共和国の終わりの始まりだった―

お読みいただきありがとうございました

次回もお楽しみ。

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