3-12:対第6機動艦隊戦③
まだまだ続きます。
「敵艦載機の圧力、大幅に低下ですわ!」
「正対していた敵両艦隊、緩やかに後退を開始した様ですな?」
「了解。砲撃で敵艦隊及び艦載機を牽制しつつ、此方もちゃっちゃと態勢を立て直すぞ!」
「「了解!」」
戦闘開始から1時間半程度が経過し、挨拶代わりの初戦が終わったと言った所だろうか。艦載機同士の戦闘に対空迎撃戦に、長距離からの砲撃戦から始まり近~中距離での砲撃・雷撃戦へと移行し、合間には左翼に於いて高速艦による殴り合いも発生。そして、その裏では遊撃艦隊による敵空母に対する襲撃も行われていた。
「戦線を離脱したのは、全部で29隻か……」
「第3戦隊8隻、第4戦隊4隻、第2水雷戦隊4隻、第3水雷戦隊8隻、第5水雷戦隊5隻ですわ。緒戦の対空戦も含めて損傷艦をそれなりに出しましたが、離脱艦自体は事前予想より少ないですわね?」
「ドクターの開発してくれた電磁パルス砲弾が、効果を発揮しているって事だろうな。撃沈せずとも機能不全に陥った艦は無視出来るからね。後は、地味にサウサンが良い仕事してくれてる様だな?」
『ふふん、当然だな。この私に掛かればこの程度!』
お決まりのドヤ顔を決めるサウサン。まぁ、彼女がその様な態度を取るだけの成果を出しているので、とやかく言う事は無いがね。何をしていたかって? 色々と相手の足を引っ張ってくれてたよ。ある艦は、砲撃直前に片舷のスラスターが突然機動したり、別の艦は意味も無く魚雷を無駄に発射したり、更に別の艦は味方の艦載機に対空射撃しちゃったりしてた。他にもオッサンが直接確認していないだけで、敵からしたら迷惑以外のなにものでも無い嫌がらせの数々があったようだ。後で報告書を見るのが楽しみだな。
「戦艦の離脱は無しだな。よし、離脱艦の穴埋めは第1水雷戦隊から行うとしよう。残りは第2戦隊に合流させる」
「了解ですわ」
「敵空母の処理は後どれ位掛かる?」
「……そうですな。敵艦隊右翼のTF204は全艦平らげましたが、右翼のTF198に関しては残り3分の1程度。後方のTF211分まで含めても、そう時間は掛からないかと思われますぞ」
「了解。そろそろ、敵も本腰入れて遊撃艦隊を潰しに来るだろうから、敢えて後方の支援艦を狙わせてみるか……」
「敵が更に戦力を割けば、好都合ですな?」
初戦において、貴重な戦力となる戦艦が戦線を離脱する事は無かった。とは言え、各艦ともにそれなりに損傷は負っているけどな。まぁ、それでも共和国軍が被った被害から考えたら軽いものだろう。撃沈ないし大破となり戦力外となったのは何れも巡洋艦と駆逐艦だ。敵艦載機に対する対空戦や、突撃してきた敵の高速艦隊に対する迎撃戦で少なく無い艦が犠牲となった。それでも、失われた人命を考えなくて良いのは、精神的にだいぶ楽だ。今頃、向こうの司令官達は胸を痛めているかもしれん。
一方、敵空母の殲滅を期待して送り込んだ遊撃艦隊はその牙を遺憾無く発揮し、次々と空母を血祭りに上げている。実戦経験が豊富で練度の高い艦隊でも、見えない敵となると勝手が違う様だ。見当違いの方向に、砲撃なり雷撃を撃ち込んでは空振りしている様は滑稽で笑えるものだった。無論、そろそろ向こうも何らかの対策を練って来るだろう。なので、残りの空母には敢えて手を出さず、後方に控えている補給艦等の支援艦を叩く事にする。それで、ノコノコと敵が防衛戦力を割けば儲けものだろう。って、そもそも最初から割いてなかったのが意外だよな。支援艦を叩くって事が、通常の戦闘では無いのだろうか?
「戦闘AI。第1目標は工作艦、次が補給艦。輸送艦や揚陸艦は一先ず放置で良い」
『指令、受託。遊撃艦隊、戦闘行動を変更します』
「さて、立て直しが済み次第、再開といこ……」
「……一馬さん。少し宜しいでしょうか?」
「って、ソフィー。どうした?」
「コンラッドコロニー宙域へと釣り出したTF215ですが、一部の艦隊を残し宙域を完全に離脱しました」
おっと、どうやら向こうの時間稼ぎは此処までの様だ。まぁ、殆どがダミーバルーン艦じゃね。注意深く見て行けば、見分けも付くしな。敵の指揮官とて馬鹿じゃない。戦闘に熱くなるタイプだとは聞いているが、サポートする副官もいるだろうし、足止めの艦を残しておけば良い事くらい直ぐに思い付く筈だ。
「了解。なら、足止め艦を速力で振り切って、TF215に対しての追撃戦へと移行しようか?」
「了解しました。恐らく、TF215の想定針路は此処かと思われます。根拠地を叩くのが目的でしょう」
「分かった。追撃でイラつかせつつ、此処で盛大にお迎えしようか。ドクター、早速だけど新型砲を試すとしようか」
「精神的に不安定な状況に加え、見えない砲撃ですか。敵ながら、同情しますな?」
「とは言え、此方は艦艇数が数的に不利だからね。厳しい戦闘になるな……」
ダミーバルーン艦隊との戦闘で多少は数が減り、更に殿部隊分も減る。ついでに追撃戦で多少は減らせるとしても、相当の数が要塞まで到達するだろう。要塞守備隊と、ダミーバルーン艦隊内の残存艦を合わせても100隻にいかない戦力比だと、ギリギリの戦いになるか。後は、新型砲が何処まで威力を発揮してくれるかだな。
で、ソフィーが囮艦隊の指揮から解放される訳だし? そろそろ、オッサンとしては暴れたいお時間な訳ですよ! いやね? 今回の為に、極秘裏にドクターと一緒に用意した訳ですよ。予想だけど、次の大規模戦闘で決着が付く様な予感がするのよね。ならばこそ、このタイミングで出るしかないのです!
「そうだ。ソフィー、手が空くならば此方の指揮を頼めるかな? 次で決着になるだろうし、そろそろ俺も出ようと思ってさ?」
「……はぁ、分かりました。主力艦隊の指揮は私達で引き受けます。シャンイン、宜しくね?」
「お任せですの! ドクター、一馬様のフォローをお願いですわ」
「承知しました。では、参りますかな?」
「うっす!」
後の艦隊指揮をソフィー達に一任し、ドクターをお供に司令室を後にする。まぁ、正確には自室の隣に新しく設置された部屋に移動するだけなんだけどね。中は、床も壁も天井も全部が全部、白で統一された部屋となっている。その中央にドカンと鎮座しているのは、ドクター謹製のシミュレーターだ。卵型のそれは、全周囲モニターとリニアシートで構成されており、現状では要塞内でオッサン専用となる唯一無二の代物となっている。横倒しになった卵型のシミュレーターの上半分が開き、リニアシートが登場する。
「足元に注意して下され」
「オーケィ……」
移動式の足場から、シミュレーター内でアームに支えられ空中に浮かぶシートへと身を滑らせ座る。何度か経験したが、やはり不思議な感覚だよな。まぁ、そもそもシミュレーターでリニアシートが必要なのかって疑問も無くは無いが、雰囲気だよ雰囲気。何事もしっかりと形から入らないとね?
「香月司令官。準備は宜しいですかな?」
「ベルトもオッケーと……。問題無しだな」
「では、私は外でモニタリングを致しますので」
「宜しく!」
ドクターが離れ、シミュレーターの上半分が閉じる。一瞬、闇に支配されるが、次の瞬間には全周囲モニターが外部の映像を映し出す。そこに映し出されたのは要塞内部の一室の風景では無く、要塞から遠く離れたとある無機質な閉鎖空間内の映像だった。
『香月司令官。宜しいですかな?』
「勿論。頼むよ?」
『了解しました。ハッチを解放します』
「……」
ゆっくりと周囲の映像が下へ下へとズレていく。つまり、自身が上へと上がっているって事だな。そして、先ほどまでの無機質な壁から周囲の様子が切り替わり、砲火が吹き荒れる戦場が映し出された。宇宙空間故に音はしてこないが、彼方此方で煌めく閃光は命のやり取りが正に目の前で行われている事を意味している。今、オッサンはその真っ只中へと向かおうとしている訳よ。
『香月司令官。カタパルトの準備が完了しましたぞ?』
「了解。此方のタイミングで発進するよ」
『了解ですぞ』
何時もの訓練通り、操縦桿を握りペダルに足を掛ける。さぁ、……いよいよ物語の始まりだ。オッサンもたまには主人公として体張らないとね?
「香月一馬。『オグマ改』、出るぞ!!」
カタパルトによって急加速された機体が宙へと放り出される。まぁ、自分自身は要塞に設置されたシミュレーター内だから加速しても何も感じる事は無いけどね。全周囲モニターに映し出される映像が凄まじい速度で後ろに流れるだけだ……。目で追うと疲れます。取り合えず、最前線まで進もうかね?
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみ。