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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第1章:歴史の始まり
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1-11:不明艦の正体②

正体が判明……?

 戦闘は終始此方のペースで進んでいた。所属不明艦からの攻撃は、此方のアスローン級駆逐艦に大きなダメージを与える事は出来ていない様だ。戦闘AIからの報告では、帰投後に船体表面の装甲部分の交換だけで済む程度の損傷だそうだ。ソフィー曰く、凹んだり傷が付いた程度の認識で良いそうだ。車なら板金屋さんで治る程度って事だろうか。


 『不明艦、右舷姿勢制御スラスター破損損失を確認』

 「香月司令官。これで所属不明艦は、回避行動に大幅な制限を受けます」

 「実質、前進と後退しか出来なくなったって事だよな?」

 「一応、メインエンジンのノズルを制御して左右への旋回が出来なくは有りませんが、機敏な行動は不可能と言えますね。相手艦の動きから恐らく有人艦だと思われますので、続いて武装を潰し投降を促すべきかと」

 「そうなると、拿捕するって事か。今更だけど、あの艦を此処まで曳航出来るのか?」

 「曳航用のアンカーが装備されていますので、曳航は問題有りません。むしろ、安全確認の内部臨検を何処で行うかですね。軍港内でもし自爆でもされた場合、此方の損害が大きくなりますので……」

 「偽装投降からの自爆か。有り得るよな」

 「はい。残念ながら、投降を良しとしない考え方の持つ者もいます」

 「敵に捕まる位ならって事か……」


 捕縛されて、情報を吐かされる位なら相手に少しでも損害を与えて死んでやるって所だろうか。軍人なら有り得る考え方なのかもしれないが、自分には正直なところ理解出来ない考えだ。生きてこそだと思う。まぁ、酷い拷問とか受けたら気が変わりそうではあるが、痛みに非常に弱いオッサンだし。


 『不明艦より発行信号確認。香月司令官、どうされますか?』

 「発光信号? 内容は?」

 『此方、貨客船ディーシー号。降伏する。攻撃の停止を要請する。これらの内容を繰り返し発信しています』

 「軍用艦では無く貨客船ですか……。軍艦レベルの武装をした民間船が、どうしてこの様な辺境にあるデブリ帯に潜んでいたのか。何故、此方へ先制攻撃して来たのか、少し引っ掛かりますね」

 「民間船か……。何ていうか、この手の展開って嫌な予感がするな」

 「嫌な予感ですか?」

 「俺の予感が合ってたら、あの民間船には厄介な乗客か荷物が有る筈だよ……」


 悲鳴を聞いて助けに行ったら、どこぞのお姫様なり貴族の令嬢だったりとか。偶然見つけたお宝が、色々とヤバい連中を引き寄せたりとかさ。どう考えても個人的に嬉しくない展開が待っている気がしてならない。まだ、戦力も揃っていない状況で、厄介事を招き入れるのはな……。


 「どうされますか?」

 「正直、対応に悩むな……」


 どうするのがベストか。向こうから仕掛けられた以上、要塞付近の安全にも関わるので放置は出来なかったものだが、結果的に余計な事態を招いた可能性も出たと言えるな。辺境にあるデブリに身を潜めていた武装貨客船。鬼が出るか、蛇が出るか。向こうから明確な接触が有った以上は放置ともいかない。ましてや、面倒だからと言って、拿捕せず口封じ替わりに撃沈ともいかないし。流石に、俺でもそこまでの非道な選択は出来ない。オッサン、一応は平和主義者。でも殴られたら、殴り返すけどな! 間違っても、反対の頬を差し出したりはしない。


 「ソフィー。臨検に対応したロボットとかって無いかな?」

 「そうですね。要塞内の治安維持を目的として配備されている、戦闘アンドロイドが有ります。彼らであれば船員や乗客達から事情聴取も出来ますし、万が一艦内で抵抗に有った場合でも対処出来ます。最悪自爆されても人的な損害は、実質ゼロに抑えられます」

 「戦闘AI。仮にあの貨客船が自爆した場合、安全距離はどの程度だと推定出来る?」

 『船体の規模から推定し、5km以上の安全距離を取れば問題は無いかと思われます』


 戦闘アンドロイドとは言え、安易に使い捨てにはしたくない。でも、現状で要塞内にいる人員は俺とソフィーだけだ。どちらもリスクを背負える立場に無い以上は、彼らに任せるしかない。


 「わかった。ソフィー、要塞付近まで曳航した貨客船にアンドロイドを乗船させる方法が有るかな?」

 「点検用の小型船が数隻、軍港に有りますので、それで移乗は可能ですね」

 「よし、要塞の5km手前まで1番艦で曳航。アンドロイドを移乗させ艦内の臨検及び情報の収集。安全が確認出来たら、軍港まで曳航。2番艦は、貨客船への攻撃可能距離を維持しつつ、周辺警戒の実施。こんなところでどうだろうか?」

 「念のため、貨客船の通信機器も破壊した方が良いかと思います。何らかの情報を外部に発信している可能性も捨て切れませんので。それと、別の船が周囲に隠れていないかの確認も必要ですね」

 「確かに! ソフィー、ありがとう。ナイス、アドバイス!」

 「いえ、補佐官として当然の進言をしたまでです」

 「それでも、ありがとう」


 優秀な補佐官のお蔭で、将来的なリスクを回避出来た。万が一、貨客船が何れかの勢力なりと連絡でも取り合っていたら、此方の要塞の位置が早期にバレたかもしれない。そして、何時の間にか俺は所属不明艦を単独と決め付けていた。あくまで、現状では見つかっていないだけだったのにな。出撃前には複数いる場合も想定していたのに、戦闘の興奮で完全に頭から抜けてしまっていた。オッサン、自省せねば。


 「戦闘AI。貨客船に停船を指示。停船確認後、通信機器を破壊。その後、曳航する旨を打診してくれ」

 『了解しました』

 「ソフィーは、戦闘アンドロイドを軍港に向かわせてくれ。小型船で何時でも出れる様にと」

 「了解しました」




 それからの事は、拍子抜けする程に順調に進んだ。まるで、そうなる事が確定事項と言わんばかりに……。俺の悪い予感は、どうやら当たりそうだ。戦闘アンドロイドによる船内臨検は双方に被害を出す事無く、無事に終了した。船内には貨客船にしては不自然な量の小火器が保管されていたが、彼らはそれらを手に取って抵抗する事を選ばなかった。臨検にも素直に応じ、返答も丁寧だったとの報告内容をソフィーから聞いた。


 「香月司令官。まもなく、第1分艦隊及び貨客船ディーシー号が軍港へと入港します」

 「貨客船の乗員及び乗客の人数は?」

 「乗員は男性10名、女性8名で合計18名。乗客は男性4名、女性2名の合計6名です。乗員、乗客共に全員がフォラフ自治国家の住民票を所持しておりました」

 「フォラフ自治国家って何処かで聞いたな……」

 「フォラフ自治国家は、この要塞から最も近い有人惑星ポッシュを統治する国家ですね」

 「あぁ、思い出した。ボルジア共和国寄りの国家だったか」

 「そうです。現状では貨客船ディーシー号は、フォラフ自治国家に登録された船舶だと考えられます」


 現在、フォルトリア星系にて覇を競い合っている3大勢力の1つ、ボルジア共和国。そのボルジア共和国寄りのフォラフ自治国家に属すると思しき貨客船と乗員乗客達。付近には、犯罪者の最終処分場たる第16コロニー程度しか無い辺境の地で何をしていたのだろうか? 犯罪者を送り込みに来たと言うのならば、方向が明らかに違う。


 「彼らがこの付近に居た目的とかは、何か分かった?」

 「船長を名乗る男によると、とある人物からの依頼で第16コロニーへと向かっていたと」

 「とある人物ね。でも、あのデブリ帯はコロニーとは方向が違うよな?」

 「まぁ、惑星ポッシュから直線コースを取らずに、何らかの理由でデブリ帯を通る迂回コースを取ったと考えれば、一応の筋は通ります。此方へ攻撃をして来た事を除いてですが……」

 「ん~……。犯罪者の処分場に何の用が有ったのか。攻撃してきた理由は何なのか。改めて問い質すしか無いか」

 「彼らは、一先ずは軍事ブロックにある監房で隔離し、各々尋問を行います」

 「間違っても、拷問だけはしないでくれよ?」

 「その様な、時代遅れの手法は取りませんので、ご安心下さい」


 その時のソフィーの笑顔がとても怖かったとだけ記述しておく。オッサンは深くは追求しない。触らぬ神に何とやらだ。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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