3-8:次の仕掛け
まだ続くよ。
『トロイの木馬』艦隊による共和国軍第6機動艦隊に対する奇襲攻撃の翌日、10月22日午前9時。再び、要塞のメインメンバーがミーティングルームへと集まった。前回と同様に、サウサンはモニター越しの参加となる。
「先ずは、サウサン。昨日はお見事」
『ふっ、当然の結果だ。何と言っても、この私が指揮を執ったのだからな!』
「あー、そうっすね……」
何て言うか、ミーティングルーム全体の空気がほんわかと緩くなる。サウサンのこのキャラって本当に貴重だよね。ソフィーですら、サウサンのキャラに若干引き気味だからね! ドクターは我関せずでお茶を飲んでいる。湯呑みとお茶が似合うドクター。今度、要塞に縁側とか日本庭園とか用意出来ないものだろうか?
「さて、簡単な報告は昨日の内に目を通しておいたけど、実際の所はどうかな?」
『ふむ……。予想より早く空席となった機動艦隊司令官の代行が決まった事で、思った程の士気低下とは行かなかったな。今回の攻撃が、結果的に共和国側の危機意識を統一したとも言えるだろう』
「なるほどね。雨降って地固まるでは無いけど、相手にプラスに働く部分もあったか……」
『とは言え、小さな火種は彼方此方に燻っているからな。そう簡単には一枚岩にはならん』
「そうか……」
体制が変わったばかりならば、逆に付け入る隙も生まれやすいか? 艦隊司令官代行に就任したヴァルドリッジ中将も、数日で機動艦隊全体を完全に把握出来るとは思えないしな。1つ2つ、嫌がらせをするのもありだな。
『例の囮艦隊の情報だが、予想通りガルメデアコロニーから共和国側に伝わった』
「それで、動きそう?」
『あぁ、どうやら一両日中には1個任務部隊が此方の進路を見越した上でコンラッドコロニー方面へと派遣される様だ。この状況で良く即決したものだと思う。まぁ、此方からすれば見事に釣り上げたと言うべきだがな』
「それは上々。派遣される部隊は判明してる?」
『リチャード・ゼーバイン中将率いる第215任務部隊だ。他の3人と違い、戦闘に熱くなる猛将タイプの男だな』
……猛将か。囮だと知ったら、どう動くだろうか。或いは、司令官代行の座についたヴァルドリッジ中将が報告を受けてどう判断するか。どちらに転んだとしても、対応出来る様にしておかないとな。
「サウサン。疲れている所で悪いんだけど、追加で情報戦をお願いしたい」
『ふむ。内容は?』
「共和国艦隊内に色々と噂を流布して欲しい」
『このタイミングでとなれば、内容の凡その予想は付くが、先ずは聞こう』
「1つ目は、ヴァルドリッジ中将は敵と内通しており、襲撃を事前に知らされていた為に難を逃れたって内容だな」
この様な状況下で最も定番の噂と言えば、この手の内容だよな。実際、サウサンの報告書に記載された時系列を見る限り、ヴァルドリッジ中将は攻撃の直前に第6機動艦隊の旗艦から離れているからな。その辺の情報も併せて流してやれば良い。僅かでも、疑念を持つ者が生まれれば十分だ。
『ありきたりのネタではあるが、多少の効果はあるだろう。如何にもなやり取りが記載された電文も、噂と共に流すとしよう』
「宜しく。次は、ヴァルドリッジ中将は直前に攻撃に気が付いていたが、自身の上申を悉く却下する艦隊上層部に失望し、これを利用して邪魔な連中を謀殺する事にしたって感じかな?」
『ふむ。実際、何度となく我々の討伐を上申していたのは事実。その辺を上手く脚色してやれば、それらしくなるだろう』
「その辺はサウサンの方が得意だろうから、任せるよ」
餅は餅屋とは良く言ったもので、こう言った事はサウサンに任せるのが一番だよな。他のメンバーもそうだけど、方向性だけしっかりと示せれば確実に結果を出してくれる。頼もしい仲間達だ。
『他にあるか? 無ければ、私の方で色々と仕込むが?』
「後は、各任務部隊の指揮官達の間に確執があるって内容の噂を流布しておきたい。確か、第198任務部隊のラングレー中将ってのは、ヴァルドリッジ中将より席次が上なんだろ?」
『そうだ。当人達は納得の上での決定の様だが、側近や配下の者には不満を持っている者もいるだろうな。その辺を突いてみるとしよう』
「頼むよ。で、サウサンの働きに対する報酬だけどさ。今回の働きと合わせて、次世代の潜航艦数隻と追加人員でどうよ? 今直ぐって訳にはいかないけどね」
『ふっ。良いだろう、それで手を打とう。楽しみにしているぞ、香月?』
サウサンには、前線で色々と精力的に動いて貰っている。要塞司令官として、少しはそれに応えたい訳でして。システムポイント的に厳しいけれども、信賞必罰は上に立つ者として欠かしてはならないからな。頑張って第6機動艦隊に勝って管理者に集るとしよう。覚悟しておけ、管理者?
「さて、次はドクターだな。研究開発の進捗状況はどうかな?」
「ご依頼を頂いた品の中で、状況からして優先すべきは大口径砲と判断し、最優先で開発致しました」
「流石はドクター。それで、物にはなりそうかな?」
「ご安心下され。試作品は想定通りの性能を発揮しておりますぞ。実証試験の結果を基に、口径500㎜と一回り大きい750㎜の2種類を試作しております。それと専用の砲弾及び給弾システムも問題無く運用可能ですな」
短い期間でもしっかりと形にしてくれるのだから流石だよな。それに加え、専用の砲弾と給弾システムも形になっているのか。追加した人員が役に立っている様で何より。この戦いが落ち着いたら更に追加人員を手配した方が良さそうだな。
「射撃管制に関しては、運用形態から鑑みて要塞の戦闘AIによる運用が最善と判断しましたので、その様に変更しております。それから砲弾には、初期量産を開始した光学迷彩を組み込んでおります。更に誘導システムを組み込むべきかと思いましたが、開発速度及び量産性を考慮し今回は省略しておりますぞ」
「了解。ドクターの判断なら、任せるよ。実際、考えみると専用の運用艦が撃沈されたらお仕舞だな」
「そうですな。要塞の戦闘AIによる運用ならば、その辺りのリスクは軽減出来ます」
「シミュレーション上だと、有効射程は100万kmだっけ?」
「口径500㎜の場合はそうですな。実際は、それより遠方でも命中さえすれば威力は保障しますぞ。ですが、そもそもの命中率を鑑みるとその辺りが限度かと思われますな」
口径500㎜で有効射程100万㎞。もう1つの750㎜となると、有効射程は120万kmまで伸びる。ただ、初撃はまだしも、2撃目、3撃目となると遠距離での命中率は正直そこまで期待は出来ないと思っている。敵だって、回避行動取らずに真っ直ぐ来る訳ないしな。まぁ、数を揃えれば敵に取っては脅威となるだろうけどな。さて、量産を開始するとしようか。
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに。