表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3章:夜明け
106/336

3-6:崩壊の序曲

はっじまーるよー。

 「……此方、連絡艇『ベースン』。フォートスティール、応答せよ」

 「駄目か?」

 「雑音だけですね。通信機の故障でしょうか?」

 「ワイオミングを出る時は平気だったんだがな……」

 「どうした?」

 「それが……」


連絡艇の乗組員達が何やら顔を突き合わせて相談している所へと、気になって顔を出したヴァルドリッジ。既に目の前に目的地である戦艦『フォートスティール』の姿が見えていると言うのにも関わらず、着艦の為の連絡が取れないとパイロットは説明する。通信機を始めとした、艦艇等に搭載されている機器の故障自体は珍しいものでは無い。しかし、何か嫌な予感が彼の脳裏を掠める。


 「……その他の機器に異常は無いか?」

 「他の機器ですか?」

 「どうだ?」

 「そうですね……」


 ヴァルドリッジに問われ、計器類に視線を向ける艇長。暫く、計器類をチェックしていた彼が、一か所に視線を留めた事に、ヴァルドリッジも気が付いた。そして、それが何であるか直ぐに理解が及ぶ。


 「おかしいですね。レーダーも故障とは……」

 「故障では無い!」

 「えっ?」

 「この艇には発光信号機が搭載されていたな!?」

 「え、えぇ。積まれてますが?」


 唐突に豹変したヴァルドリッジの態度に、若干引き気味の艇長。しかし、その様な彼の様子など気に掛けている暇がヴァルドリッジには無かった。唐突に発生した通信機器の不具合に加え、レーダーの不具合。彼の脳裏に浮かんだ嫌な予感が現実のものとなる兆しだった。


 「フォートスティールに通告しろ! 敵襲の可能性ありと!」

 「て、敵襲!? た、直ちに!」


 船外に設置された、発光信号機でフォートスティールへと通告を開始する連絡艇。しかし、その警告が届く前に事態は動く。




 航行に必要な最低限のシステムや機関を残し、機動爆雷を内包する為に改造された『トロイの木馬』艦隊。作戦に不要な給弾システム等も全て取り払われ、伽藍どうの砲塔や対空砲が宙を虚しく睨んでいるだけ。正に、その姿は張りぼての艦。言われるがまま、命じられるがまま同胞たる共和国艦隊へと紛れ込み、下される最後の命令を待っていた。……そして、遂に最初で最後の命令が下された。


 最初に動いたのは、第6機動艦隊中央に位置していた巡洋艦と2隻の駆逐艦である。巡洋艦は機動爆雷の内包数を減らす代わりに簡易式の電子戦装備を積載していた。要塞で運用中のカンターク級が積載しているものに比べ能力的には劣るものの、密集陣形を組んでいる機動艦隊相手には、最低限必要とされるだけの効果を発揮する事が出来た。同行する2隻の駆逐艦も含め3隻の艦内から次々と宙へと射出されていく大量の機動爆雷。彼らがメインターゲットとしたのは、第6機動艦隊の旗艦を務める戦艦『ワイオミング』とその直掩艦隊であった。また、彼の艦には地上からノコノコと誘き寄せられ乗艦していた、4人の重要人物の姿もあった。


 回避行動どころかメインスラスターが機動する暇すら与えられず、発射された20発以上の機動爆雷の直撃を受け轟沈する戦艦『ワイオミング』。その惨状を目にし、慌てて行動を開始する周囲の護衛艦にも次々と残りの機動爆雷が襲い掛かる。レーダーも通信も動作せず、目視でしか状況が確認出来ない周囲の艦は大いに混乱する事となった。突然の事態に浮足立ち、まともな艦隊行動など取れる訳も無かった。連携を取れない為、やむを得ず各々の艦が独自の判断で回避行動を始めた為に、艦隊陣形は大きく乱れる事となる。中には、周囲の確認不足が原因で僚艦同士が衝突し、損傷を負う事態も出る始末。それでも、味方へと誤射をする艦が出なかったのは、日頃の厳しい訓練の賜物だったのだろう。


 回避行動をしつつ、艦橋要員が目視で対空迎撃を行う各艦。しかし、その命中率は極めて低く次々と機動爆雷の餌食となっていく。3隻から合計150発の機動爆雷が宙へと射出され、第6機動艦隊の旗艦たる戦艦『ワイオミング』を始め、戦艦7隻に加え巡洋艦3隻が餌食となった。艦隊全体から見れば失われた艦艇数は微々たるものではあったが、艦隊旗艦が早々に撃沈された事は機動艦隊全体の士気に大きな影響を与える事となる。そして、見事役割を果たした3隻の艦は最大戦速まで加速した後、右往左往していた敵艦へと体当たりを敢行し果てた。


 時を同じくして、第6機動艦隊中央よりやや後方に位置していた支援艦隊内でも動きが起こる。艦隊内に身を潜めていた6隻の補給艦が己の役割を果たすべく行動を開始したのである。船体各所に設けられた爆雷射出機から、次々と宙へと打ち出されていく多数の機動爆雷。宙へと溶け込むように本来とは異なる色合いへと塗り替えが行われたそれは、静かに各々の標的へと移動を開始する。これらの機動爆雷がターゲットとしたのは、全長が1kmを超すサイズの大型艦である推進剤運搬艦であった。これらの艦も船体の大きさが災いし、回避行動を取る暇すら与えられる事なく次々と機動爆雷の餌食となった。運んできたばかりの満載されていた推進剤が失われ、第6機動艦隊の行動へ大幅な制限を掛ける事となる。


 被害は、運搬艦に留まる事は無かった。運搬艦の撃沈で全ての機動爆雷が役割を果たしていたが、爆散した大型艦の破片が、今度は質量兵器として周囲の艦へと無差別に襲い掛かったのである。そして、戦闘艦に比べ装甲の薄い支援艦が周囲に多数集まっていた事が被害を大きくする事となった。補給艦や輸送艦、揚陸艦や工作艦などが破片の直撃を受け餌食となるだけでなく、自らもまた新たな破片と言う名の凶器になったのである。


 最初に餌食となった10隻の推進剤運搬艦。そして、それらの破片の直撃を受けて新たな破片になったり、航行不能になるなどして最終的には100隻以上の支援艦が何らかの被害を被る事となった。当然の事ながら、支援艦の多くが失われたり、ダメージを受けた事は第6機動艦隊全体に大きな影響を及ぼす事となる。攻撃を行った6隻の補給艦は、手近な敵艦へ体当たりをし、その使命を終えた。旗艦に続き支援艦も多数失われた第6機動艦隊だが、まだ悲劇は終わらない。


 艦隊中央及び後方で『トロイの木馬』艦隊所属の各艦が動き出してから少しばかり遅れ、本作戦の大とりを務める3隻の駆逐艦もまた行動を開始した。他の艦とは異なり、これらの艦は共和国艦隊の合間を縫うかの様に無人艦故の乱雑な機動と無茶苦茶な加減速を行いながら、機動爆雷を次々と周囲へと射出していく。他の部隊とは異なる行動を取った理由は、彼らがターゲットとしていた空母が密集しておらずバラバラの位置に展開している事も理由としてあるが、何よりも派手に動いて衆目を集める意図があった。


 その異様な行動に気がついた何隻もの艦が発行信号で呼びかけを行うが、当然ながら返答など無い。ただ只管、腹の内に詰め込んだ爆雷をターゲットへと射出し続けるだけだ。警告射撃、或いは強制停船の為の砲撃が開始されるが、どの艦も脚を止める事は無い。ただ、命じられるまま空母目掛けて機動爆雷を射出し続ける。何発もの機動爆雷が対空砲火に捕まり爆散して果てるが、それでも引き換えに多数の空母を血祭りに上げる事に成功する。他の艦と同様に、最後は手近な敵艦へと体当たりを敢行し、任務を遂行したのであった。




 鹵獲した旧共和国軍艦艇で構成された『トロイの木馬』艦隊。巡洋艦1隻、駆逐艦5隻、補給艦6隻から構成されたこれらの艦隊が、フォラフ自治国家宙域における対第6機動艦隊戦に与えた影響は決して小さいものでは無かった。

 無防備な腹の内側からの奇襲を受けた結果、第6機動艦隊は旗艦を含む戦艦7隻、巡洋艦6隻、駆逐艦8隻、空母12隻、推進剤運搬艦10隻、補給艦18隻、輸送艦9隻、揚陸艦6隻、工作艦4隻を失った。更に多数の艦が損傷を負い、長期の戦線離脱や事実上の廃艦を余儀なくされる事となった。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ