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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3章:夜明け
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3-2:状況整理①

まだ戦いには早い。早まるな!

 時を少しばかり遡る事、9時間程。10月19日朝9時、ミーティングルームには何時ものメンバーが顔を揃えた。正確には、フォラフ自治国家宙域で諜報活動中のサウサンはモニター越しでの参加となっている。


 『朝からすまない。状況が大きく動き始めたので集まって貰った』

 「構わないよ、サウサン。状況にもよるが、早めに動けるのならば出来る事も増えるからね」

 「そうですね。後手に回る程、取れる手は減りますから」

 「ソフィーの言う通りだよ。さて、早速で悪いけど本題に入って貰えるかな?」

 『分かった』


 サウサンは、フォラフ自治国家周辺宙域で諜報活動を行っている。主に、宙域に展開している共和国の第6機動艦隊内の通信を傍受し、分析を行っている。それに加えて、占領下にある自治国家の状況についても可能な範囲で調査を行っていた。そんな彼女から、昨夜遅くに自治国家内で大きく動きがありそうだと連絡があった。それで、今朝から主要メンバーが集まって彼女からの報告を受ける事となった訳だ。


 『現在、フォラフ自治国家各地で大規模なテロ攻撃や暴動が発生している。連鎖的に発生している事から、偶発的では無く組織的なものと考えられる。恐らく背後にいるのは、旧自治国家軍の連中が多数参加している解放戦線だろう。それらの一連の動きは恐らく囮だ。彼らの真の狙いは、首都近郊にある駐留共和国軍基地だと私は睨んでいる』

 「その基地にあるのは……、地上部隊の主力と占領政策を担っている高官や文官達か」

 『そうだ。それに、情報によると元首相が幽閉されている場所でもある。だから、あの基地が落ちる様な事があるならば、共和国による占領政策は大きく後退するだろう。だが、元々軍備的に大きく溝を開けられている彼らでは、多少の手傷は負わせられても、陥落させるのは不可能だろうな』


 自治国家は共和国に敗北した結果として、今の占領状態にある。その状況において、反共和国組織程度の戦力で状況を引っ繰り返す事は不可能だろうな。呆気無く散って終わるのが華だろう。


 「それで? 聞く限りだと、戦力的に劣る反共和国組織が文字通り壊滅して終わりじゃないのか?」

 『香月の言う通り、普通ならばそれで終わるだろう』

 「……要領を得ませんわね。それに、サウサン。何度も言っていますけども」

 『香月が良いと言っているのだ。直す心算は無いぞ?』

 「貴女と言う人は!」

 「ストーップ! そこ迄だ、2人共。今は、自治国家の話が先だ」

 「……了解ですの」

 『ふっ……』


 勝ち誇った顔のサウサンと、頬を膨らませて私は不満ですとアピールするシャンイン。相変わらず、この2人は衝突する様だ。勿論、本心から嫌い合っている訳では無いのだろうが。何となく、毛を逆立てて威嚇しているシャンインと、欠伸をしながら縁側で日向ぼっこをしているサウサンって図が脳裏に浮かんだ。うん、癒されるね。


 『問題となるのは、鎮圧後の話になる。香月が共和国側だとしたら、どう動く?』

 「鎮圧後か。……俺ならば、心を折るだろうな。何時までも繰り返し突っかかられても面倒だしな」

 『そうだ。遅れがちな占領政策を押し進めるには、頑なに抵抗を続ける反共和国派の連中を黙らせる必要がある。そして、彼らの抵抗運動の支えとなっているのが……』

 「支え、……そういう事か」

 「なるほど。合点が行きました」

 「ですわね。そして、否応なしに私達が動かざるを得ない状況になりますわ」

 「世は流動的とは言え、戦力強化が十分に終わらぬ前に動かざるを得ないとは。技術者として、時間の無さを嘆くのみですな」


 サウサンも、反共和国組織が壊滅した程度ならば、一々招集を掛ける様な事はしないだろう。精々、騒動の終結後に、一連の流れを書き起こした報告書がオッサンの所に回ってくる程度だった筈だ。それが、この様な場を開く事になったと言う事は、それだけの理由があるという事に他ならない。


 「ナターシャ嬢の父親か……」

 『そうだ。ツァーロフ・ベル・モルゴフ。現在は共和国によって軟禁と言うよりか幽閉状態にあるが、今回の騒動が片付き次第、その責を負わされ処刑されるだろうな。処刑する理由など、幾らでも作れる』


 元首相は、共和国側に敗北しその身柄を抑えられても尚、民衆達からの人気が高いと言う。地下に潜り抵抗運動を続ける者達に取って、言わば不屈の支えともなっている様だ。そんな人物を共和国側が処刑したらどうなるか……。精神的な支えを失い、多くの者が武器を手放すだろう。一方で、報復を誓ってより過激な行為に手を染める者達も出てくる。何れにせよ、自治国家全体が大きく荒れる事には間違い無い。


 「……サウサン。現状で、何日持ちこたえると思う?」

 『ふむ。国土全体で騒動になっている為、共和国側の初期対応は遅れている。とは言え、そう時間が掛からずに鎮圧されるだろうな。基地の襲撃にしろ、初手は取れるだろうが戦力的に見て後が続かないのは明白だ。基地狙いだとバレれば、共和国側は総力を投じて制圧に乗り出すしな。何れにせよ、3、4日も続けば良い所では無いか? その後は、数時間で処刑となるだろう』

 「そうか。……此処からフォラフ自治国家まで直線で15光分。脚の速い駆逐艦でも90時間。戦艦だと108時間は掛かる。それに宙域には共和国の機動艦隊が展開中と……」

 「宙域で大規模な戦闘が発生すれば、制圧や処刑が早まる可能性もありますね」


 あくまで、全てはサウサンの読み通りに事態が推移した場合の話ではある。だが、度重なるテロや暴動に共和国が痺れを切らし、ナターシャ嬢の父親の処刑を短絡的に執り行わないとは言えないか。とは言え、現状では救出は不可能だろう。ドクターに依頼している大気圏突入用のパッケージも、漸く初期実証実験用の低性能パッケージが組み始めた所だと報告を受けたばかりだ。到底、実戦に投入出来るレベルには無い。


 「現状で……」


 此方から戦力を急派した所で、惑星内での戦闘には介入出来ない。精々、宙域の共和国機動艦隊相手に暴れ回る程度だ。その程度では、処刑が遅れる事すら無いだろう。……いや、待てよ? もしかして、処刑どころの騒ぎではない状況になれば良いのか? 共和国側が其方の処理に掛かり切りになる様な事態が起こせれば、チャンスはあるか? とは言え、上手く其処へ持っていけるかだな……。オッサンの足りない頭脳がフル回転を始める。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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