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34歳のオッサンによるフォルトリア星系戦記  作者: 八鶴ペンギン
第3章:夜明け
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3-1:『スレイプニル』

おはようございます。

お待たせしました、本日より再開となります。


第3章『夜明け』、始まります。

 要塞に来たばかりの頃、完成したアスローン級駆逐艦の雄姿を見に来たガラス張りの部屋に、オッサンは再び足を踏み入れた。眼下では、急ピッチで1隻の戦艦が建造されている。現行の主力戦艦であるクレアモリス級の後継艦である、バリーフェルター級の1番艦となる。艦名は『スレイプニル』。北欧神話に登場する神獣であり、8本の脚を持つ軍馬から命名した。通常のバリーフェルター級とは異なり、独自のカラーリングが行われている。全体は本紫、要所に紫式部でラインを入れている。また、艦橋側面には、ランドロッサ要塞所属を示す艦隊旗も描かれている。艦隊旗のデザインとしては、黒色のアルファベットの“K”を2つ向かい合わせに配置し、その中央に艦名ともなったスレイプニルが描かれている。オッサンの名前のイニシャルである2つの“K”に、一馬の馬から連想したスレイプニルを組み合わせて創り出した艦隊旗だ。


 本来、バリーフェルター級の建造には1隻当たり64時間もの時間が掛かる。しかし、今回は僅か8時間で建造が完了する予定となっている。大幅に建造時間を短縮する事が出来た理由は、建造機能の集約にあった。この機能を知ったのは、ソフィー達との打ち合わせの席だった。




 「……16隻同時に建造可能って言っても、時間自体は結構掛かるしな」

 「まぁ、それでも他の勢力からすれば短いですからね」

 「だよな。……あれ? そう言えば、建造ドックの施設レベルを上げる事で建造時間が多少減るって話して無かったっけ?」

 「確かに、言いましたね。ですが、残念ながらその段階にはまだ達していません」

 「そう、上手くは行かんか……」


 ポイント消費によって、現在の要塞では16隻の軍艦を同時に建造が可能となっている。とは言え、建造時間は相応に掛かる。駆逐艦ならまだしも、巡洋艦、戦艦ともなったら建造に掛かる時間は馬鹿に出来ない訳だ。それを少しでも短縮出来ればと思うが、そう上手くはいかないよな。


 「……一応、他にも手段はありますわ」

 「そうなの?」

 「建造時間を短縮する為に、同時建造数を減らせば良いですの」

 「えっ、どういう事?」


 ソフィーとの会話を聞いていたらしい、右隣りのシャンインから貰ったアドバイス。はて? 建造数減らすってどういう事?


 「簡単に言ってしまえば、1つの建造ドックに複数の建造ドックから自動制御の機械類を集約する訳ですね。例えばですが、本来ならば8隻をそれぞれ建造する能力を1隻に集中投入する事で、建造時間を本来の8分の1にまで短縮出来ます」

 「そんな抜け穴あり!?」

 「別に元々不可能では無いと言うだけの話ですわ。8隻同時に建造するのと、1隻集中を8隻分繰り返して行うのは結果的に同じですもの。ただ、ある程度の建造ドックが揃ってからでないと、短縮効果は少ないですわ」

 「それも、そうか……」


 言われてしまえば、確かにそうだなって思うけども、言われない限りは気が付かない盲点だと思う。どっちが有利かと言われると悩むな。1隻でも良いから多くの艦を逐次前線に送りたいって言うならば集中建造だし、ある程度の艦を纏めて部隊を編成しつつ前線に送るならば後者だな。まぁ、前者でも数揃えてから動かせば結果が同じではあるが……。戦艦や空母と言った時間の掛かる艦を、取り急ぎ1隻だけでもって時が使い時だろう。




 その日の午後には旗艦を建造する為に実際に短縮建造を実行する事になった。それにしても、改めて自分の目で見るとその異常さと言えば良いのだろうか? 戦艦が見る見る内に形作られていく様子には、本当に驚かされる。数えきれない程の工作マシンが船体のあらゆる場所に群がり次々と建造工程が進められていく。その光景を見てて思い出した物がある。確か、タイムラプスって言ったかな。数秒おきとか数分おきとかに撮影した静止画を繋ぎ合わせて再生する事で1本の動画として見せるヤツ。コマ送りって言えば良いのだろうか? あれ位の感じで、オッサンの目の前で1隻の戦艦が出来上がっていくのだ。驚愕としか言いようが無い。


 「この艦が完成したらいよいよか……」

 「……此方でしたか」

 「ソフィー? どうかした?」

 「いえ、一馬さんがどうされているかと思いまして」


 どうやら、オッサンが心配になって様子を見に来てくれた様だ。いやはや、本当にありがたい事で。元の世界じゃ、体調崩した位じゃ心配してくれる人なんて碌にいなかったからな。むしろ、仕事が遅れるだろって怒られる事すらあった。そう言った意味では、今は恵まれているのだろう。


 「あの艦が建造される様子を見ていたんだ」

 「『スレイプニル』ですか」

 「そう。この要塞で、唯一のネームド」

 「綺麗な色ですね」


 本紫に紫式部。どちらも紫系統の色だ。まぁ、この世界であれらの色合いが何と呼ばれているかは知らないけれども、要塞艦隊の総旗艦を建造すると決定した時から、色はこれしか無いと思っていた。自分の好きな色って理由だけどね。描かれた艦隊旗は、少々恥ずかしいのだがオッサンの名前からイメージしている。戦艦『スレイプニル』は、オッサンの言わば代理として戦場に向かう事となる。


 「俺自身が、前線に行くわけには行かないからね。だから、代理って言えば良いのかな」

 「良いと思います。形はどうあれ、明らかに他の艦と異なる艦が前線に出れば、それは十分に意味を持ちますから」

 「確実に狙われるだろうけどね」

 「ですが、例え沈められたとしても問題はありません。戦力的には痛手ですが、艦隊の士気が落ちる様な事はありませんから」

 「まぁ、普通は大将首が落とされたら、否応無しに混乱するだろうな」


 古今東西、大将の首ってのは重要な意味を持っている。落とされた場合、味方が総崩れになる事など良くある話だろう。そう言った意味では、うちの旗艦は例え沈められたとしても戦況に大きく影響を与える事は無い。いや、正確には敵軍の士気が上がり勢い付く事はあるな。


 「敵軍が我も続けとばかりに功を焦れば儲けものでしょう。少しでも浮足立ってしまった艦隊は、意外と脆くなるものです」

 「艦隊行動に乱れが生じれば、付け入る隙は幾らでも生まれるか」

 「はい。どれだけ優れた将に率いられた軍勢であろうとも、末端まで必ずしも優れているとは限りません。付け入る隙があるのならば、勝つ為に容赦なく突くべきでしょう」

 「肝に銘じておくよ」


 相手に付け入る隙が出来る様に、此方もオッサンが指揮を執る以上は付け入られる隙は出来るだろうな。互いに、相手の隙を探る神経戦。いやはや、さっさと平和にならないかなっと。

お読みいただきありがとうございました。

次回もお楽しみに。

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