2.5-13:見据える先⑬
今話にて、後半に色々と詰め込みまくった間章2.5は終了となります。次回より、いよいよ第3章へ突入します。
※お知らせ※
100話達成!
「さて、話は戻しますがコロニーの兵器化と加速器への改造について。香月司令官のご希望される能力を付与する為の改造自体は不可能ではありませんが、相応の時間と資源が必要ですな。それに、必要な改造をする為には安全な宙域、何より運用の中心的な場所となる要塞宙域までの移動が必須となりますが……なるほど、此処で最初の質問に繋がる訳ですな?」
「そうそう。なんせ廃棄されたコロニーがあるのが、コンラッドとかシャングリラのある現在絶賛不安定な宙域だからね。そこから持ってくるには、コロニー自体に専用の推進器を取り付けて移動させながら、内部で少しずつ改造の為の準備をするしか無いと思う。勿論、移動時には相応の護衛の艦隊を付けるよ。宙賊辺りからの余計な横入りには力を見せるのが一番だろ?」
「移動手段としては、それが最善でしょうな。とは言え、コロニーが移動した情報は瞬く間にこの宙域だけでなく、星系中に広がるでしょう。それに呼応して動く連中もおりますな」
「だから、移動開始後は時間との勝負になると思う。コロニー自体の基本的な構造データは管理AIで収集出来ると思うから、事前にラボで基本的な設計を終わらせておいて貰って、現地に到着次第だけど推進器の取り付けと内部改造準備の両面での突貫工事になるね」
我ながら無茶苦茶な計画だとは思う。宇宙空間に浮かぶ巨大な人工物であるコロニーを、10光分もの距離運ぶだけで無く、更に兵器や要塞付属の設備として改良を加えようと言うのだから。でも、実用化出来れば大いに役立つだろう。コロニーレーザーについては浪漫だけどね。
「推進器にせよ内部機器にせよ設計図を引いてみないと何とも言えませんが、恐らくサイズからして分割して現地で組み立てる必要があるかと。そうなると、輸送用の専門部隊が必要ですな」
「そうなると、追加の工作艦と複数隻の輸送艦が必要になるかな?」
「そうですな。後は船外作業をする人員も必要となりますな。可能であれば、拠点艦もあった方が宜しいかと?」
「了解。ある程度の目途が立ったら、それらの手配をするよ。今は主力となる艦隊の建造が優先だからね」
「勿論ですぞ。先を見据えて考える事は大切な事ですが、目の前の物もまた疎かにしてはなりません。己の足元を見失った者は、奈落の底まで落ちるのみですからな。努々お忘れなきよう……」
「あぁ、忘れないよ」
ドクターの言葉はしっくりと胸の内へと入っていく。不思議だよな。彼だってソフィー達と同様に管理者が創り出した金属生命体の筈だ。つまり、長く生きた経験から来る生き字引と言える様な存在では無い。でも、彼の語る言葉には1つ1つ、オッサンに対して何かを教えよう伝えようって想いが確かに込められている。
「では、話の続きといきましょう」
「じゃ、7つ目と行こう。艦首に後から取り付ける突撃用の衝角を開発して欲しい。敵艦や敵の要塞の内部へと陸戦要員を突入させる為の通路も構造内に必要だな。合わせて突撃する艦の改造も必要だな」
「上陸用舟艇では無く、陸戦要員の乗艦した艦そのものを突っ込ませる御積りと?」
「揚陸艦に上陸用の舟艇が搭載されているのは知っているけどさ。余りに脆いだろ? だったら、戦艦クラスの重装甲艦に衝角を付けて、突撃して要員を強襲上陸させた方が生存率が上がると思ってさ」
「まぁ、確かに。上陸用舟艇の装甲は確かに艦艇に比べれば薄いですし、何より上陸開始のタイミングが最も無防備に近く、敵からも狙われますな。……分かりました、研究してみましょう」
敵艦に衝角ぶっ刺して白兵戦。元ネタになっているのは、鎧兜姿で宇宙を戦艦で、刀や槍で白兵戦やってる某アニメ。色々とツッコミ所がある気もするけれど、熱いから全部許される。
「それに合わせて、上陸支援用の戦闘メカも頼みたい。これで合計8つ目だな。陸戦要員と合わせるならば、人型が良いね。下半身は4本以上の多脚は譲れない。上半身は頭部にはカメラ、通信系統、センサー類。胴体は駆動関係かな。それから、戦闘アンドロイドと共有の火器を使用出来る様に腕も欲しい」
「……香月司令官の趣味が全開ですな」
「実用性もあると思うけどね? 取り合えず、上陸戦における支援戦闘メカって事でお願いしたし。ちなみに、多脚は譲れないよ?」
「ハハハ……分かりました」
メッチャ苦笑いしているドクター。でもね、多脚は信仰なんだよ。多脚を信じる者は、救われるのだ。
「えっと、最後の9個目は荒唐無稽な要望なんだけどね。……笑わない?」
「荒唐無稽、大いに結構ではありませんか。科学者として、探究者として、未知を避け既知のみに挑むは逃げですぞ?」
「……分かった。……『合体』と『変形』は漢の浪漫なんだよ!! で、変形に関しては一先ず可変機の『オグマ』がある訳だ。でも、合体が無いよねって思ってさ? 要塞にも、合体が必要じゃね? だって、合体だよ? 合体の無い宇宙要塞とか、あり得ない!!」
「……」
集中線をバックに拳を握りしめながら力説するオッサンとか需要あるのかは知らん。おっと、ドクターがポカーンとした顔しちゃってるよ。何時も余裕を持った立ち振る舞いの彼が、二の句が継げない状態になっているよ。そこまで意外な要望だっただろうか? 合体だよ? 浪漫だよ? 合体だよ? 大事だから2回言ったよ?
「えっと……」
「ふむ。合体ですか……」
「そう。合体」
「合体ですな」
「合体」
「合体」
「「……」」
「「合体!」」
お互い笑顔で握手を交わす。この瞬間、ドクターとオッサンは合体の同志として固い絆で結ばれたのだ。合体は世界を救う。皆さんも、ご一緒に!
「「合体は世界を救う!」」
「……それで、取り合えず改アスローン級駆逐艦を2隻合体させたのですか?」
「そう」
「……」
同志ドクターと盛り上がり過ぎた翌日の朝。オッサンと同志ドクターがやらかした事案が他のメンバーに発覚し、ソフィーとシャンインがめっちゃ駄目な子を見る様な目で見てくる。いやさ、合体の同志が見つかって、ついはっちゃけた訳だよ。で、何か合体させたいよね?って話しになってさ。で、取り合えず手持ちの戦力から解体予定の駆逐艦に目を付けたのさ。突貫工事で幾つかの兵装を取っ払った上で、合体に必要な接合パーツを大至急生産して、合体させたって流れだ。勿論、将来的には変形してからの合体を目指します。
「出来上がった、試製双胴駆逐艦。取り合えず、次の戦闘で試験運用してみようかなって思ってる」
「まぁ、良いんじゃないですの? どうせ、解体に回る予定だった船ですし……」
「一馬さんが決めた事なら構いませんが、解体予定の艦とは言え元は要塞の貴重な戦力です。せめて、事前に一言欲しいですね」
「善処します」
ちなみに、『善処します』とは出来たらやるって言う意味の、社会人限定の用語です(暴言)。同志ってのは好きな事で盛り上がると、ブレーキが利かないのよ。だから、諦めて下さい。
「次からは、私かソフィーが監督役をしますわ? 同席無しでのドクターとの同志会は禁止ですの!」
「そうですね。この手の人間は、今後より大きな事をやらかしがちですので、監視は必要です」
「管理者は死んだ!!」
何て言う事でしょう。合体の同志に対し、シャンイン達から下されたのは余りに非情な決定でした。酷過ぎる、酷過ぎるじゃないか! 草葉の陰で管理者も泣いているぞ!?
「今は、フォラフ自治国家解放に向けて要塞の総力を挙げるべき時期です。要塞司令官として、その辺りはしっかりとして頂く必要があります」
「勿論、一馬様の息抜きそのものを奪う心算はありませんわ? ただ、手綱を握っておかないと不安なだけですの」
「……ソフィー、シャンイン。勝手な事をして、ごめん」
「ご理解頂けたのなら、私から言う事はこれ以上ありません」
「私もですわ」
「……次は、2人も呼んで皆で合体させるから!」
「「……駄目だコイツ!!」」
偶には、こんな愉快な日々もあって良いよね? オッサンは、そう思います。戦争? もう直ぐですよ。
お読みいただきありがとうございました。
次回、またお会いしましょう。