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目覚めれば異世界


村瀬かのこは現代日本のとある街に住む普通の女の子。

家業の和菓子屋「ムラセ」で高校卒業と同時に働いている。

将来は家業を助けたい。そう考え店が終わればせっせと和菓子を作ったり、朝から職人の和菓子作りを見学したりしていた。


父は職人で和菓子を作り、母は店を切り盛りし、姉は店の若い職人と結婚し家庭を築いている。


かのこはとにかくお菓子が好きで、店の休みの日はスイーツ巡りが趣味となっていた。

高校時代からとにかく自作のケーキやら饅頭やらを学校の友人達に振る舞い、着実に自分の夢へと進み、大変な事はあるし、厳しい道のりだが18歳の今。満たされた生活を送っていた。


この日もいつもの通りご贔屓の茶道教室へと注文の品を届け、自転車に跨りいつもの道を自転車をこぎながら風に髪を揺らせ、気分良く店兼自宅へと帰り道を少しばかり急いでいたが、信号で止まってしまった。


「あー! 早く帰らないと新作の和菓子の作り方見学できない!! 」


この日は秋の新商品の試作品を作る事になっていて、昼休憩の際見学が許されていた。

段々と秋めいてきたこの時期、かのこは新作が出る事も楽しみだが、試作品のおこぼれにあずかる事も楽しみにしていた。


「今年はどんな感じかなぁ。 ハロウィン限定なんてのもあるけど、やっぱり日本人は柿とかかな。 あ、でも柿はあったよな…」


一人ごちて信号が変わるのを待っていると…。


「危ない !!」 「避けてー !! 」

突然大きな声が上がった。

瞬間かのこが顔を上げた時にはこちらをめがけ一台のトラックがかなりのスピードで向かってきた。


悲鳴をあげる間も無く、かのこはぎゅっと目を瞑り、自転車のハンドルを握り締め、身体を硬直させた。



しかし。いくら経っても何の衝撃もなく、意識は遠のく感覚だけは理解できた。




どの位の時間が経過したのだろうか。

かのこはそっと目を開けた。

辺りは暗く、自分は地面にうつ伏せになっていたらしい。


「う、う…」


長い間地面に伏していたせいか身体が痛い。しかしどこか怪我をしたとか、ましてやトラックに衝突されたなどの痛みはない。


ゆっくり身体を起こそうとしたが、急な目眩におそわれ、再び地面に伏してしまった。



次に目が覚めた時、病院のベッドに寝かされているのかと思った。身体は少し痛むが、心地よい柔らかな布団に包まっていて、手を動かしベッドのシーツを触ればツルツルとしていた。


「病院に運ばれたのか…」


しかし病院特有の匂いもなく、むしろアロマか何かの匂いが鼻をくすぐって、けれど不快感はない。


薄っすら目を開ければ広い空間が広がり、更に目を開ければ品の良い調度品やらが目に飛び込んできた。


慌てて身体を起こそうとするも、まだ目眩がして思う様にはいかないが、病院でない事は確かだと思った。


「……ここ、どこよ…」


呟いた声は小さく掠れていたが、頭の中は疑問符が沢山回って、声が出れば叫んでいたかも知れない。

よくよく見ると無駄に広いベッドに寝ている事に気がつき、更に頭がいっぱいになった。


かのこが一人混乱していると、控えめにドアをノックする音が響いた。


「失礼致します。お目覚めでしょうか? 入りますね」


確かに日本語で話しかけられたが、返事ができずにいると、カチャリ。

ドアが開かれ若い女性がドアの前に現れた。


「お目覚めですか? お身体はいかがでしょうか? 今お魔術師… お医者様がいらしています。診察させて頂いてもよろしいでしょうか…」


若い女性はそう言うと一礼した。


「あ、の …」


やや間があってかのこが声を発した。

若い女性は確かに日本語を話してはいるが、どこも日本人らしくはない。薄い紫の髪や、洋風な顔立ち。着ているものは所謂メイドが着ている様なワンピースに白いエプロン。

スッと背筋を伸ばした彼女は優しく微笑み、かのこの寝ているベッドへとゆっくり近づいてきた。


身体を起こせないかのこは身構えたが、害を及ぼすとは到底思えず、 「あ、あの…。ここは? 」


振り絞った声は聞こえただろうか。


上目で彼女を見つめると、優しく答えてくれた。


「ここはバルサーノ国、王都にある商家のお屋敷でございます」


耳に届いた言葉は確かに日本語だが、まるで意味がわからない言葉の様に届き、また目眩に襲われそうになった。


「驚くのも無理はありません。しかし今は診察が先です。その後でゆっくりご説明致します。あ、私の名前はリーナと申します。このお屋敷で働いています。何かあれば何なりと、そちらの鐘を鳴らして下さい」


余りにも唐突に話され、かのこは呆気に取られてしまった。

この人は驚かないのだろうか。いきなり誰とは分からない者がやって来たと言うのに…。


そうこう考えている内に、いつの間にかもう一人部屋に入って来た。


「いやいやお目覚めかな? 身体はどうだい? どこか痛むかな? 」


初老の男性だった。

物腰柔らかそうな風体の男性で先程話した医師であろう。

しかし、医者と発するまえに魔術なる言葉が聞こえた様な気がしたが…。


かのこはそこまで考えて思考を放棄した。

ごちゃごちゃ考えても仕方ない。


初老の医師は白衣を着用しておらず、中世の西洋人が着る様な服装をしていて、一見すると医師には見えない。

茶のベストの下は清潔そうなシャツ、赤いタイと言う出で立ちであったが、黒い大きなカバンを持っていた。


「では失礼…」


そう声をかけると、かのこの頭に右手をかざし、左手はかのこの右手首を握った。


「ふんふん。…なるほど」


何度か手をかざす位置を変え独り言を呟き 「いやいや、どこも何ともない様だね。少々船酔いみたいな症状はあるが、それも直治るだろう。今日は温かいスープでも飲んでゆっくり眠れば明日には良くなってるよ」


にこやかにそう言った。


「ありがとうございます。では私は旦那様と奥様にご報告を。それからスープを用意します。 お嬢様は色々お考えが過ぎてしまいますが、今は身体を休めて下さい。また伺います」


そう言うや、二人とも部屋を出て行ってしまった。


残されたかのこも、一度放棄した思考は元に戻さずとにかく眠ろう。夢かも知れないし。


少しの望みをかけ、目を閉じた。

何となく和菓子の新作試食の事を思いながら…。

新たな連載をスタートさせてしまいました。

ずっと温めてきたものですが、連載ストップ中の作品も完成させなければと思っています…。

少し休憩を兼ねて、こちらも完成まで頑張りたいと思います。

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