堕ちし██、熱き██ 三の巻
今年の夏休み、コロナで巣ごもりしてたら吹き飛んでるんですけどバグ?
うおおおおお!!
「待てー!」「そっち行ったぞ!」「殺しても構わん!!」「神妙にお縄につけ!!」「また異界人か!」「くたばれー!」
ど う し て こ う な っ た
俺は恐らく『双神の社』の警備にあたっているNPCの殆どから追いかけられていた。
「ふんっ!」
「おっと」
前から出てきた拳士と思われる鬼人の拳を避けながら考える。
一度帰るべきか……いやでも時間与えたら確実に警備固くなるよな。
本当ならゆっくり探索する予定だったんだがな〜。
前から飛んできた矢をキャッチしてポイ。
神がいる場所がわからんのはキツイな……
角を曲がって視線を切る。
とりあえず警備の厳重な方に行くか。
「ヤァァァァ!!」「おっと」
ぬっ、と唐突に目の前に侍が現れた。縮地か。
刀を振られる前に頭を掴んで壁に叩きつける。
バチッと静電気みたいな音がした。
「ぶくぶくぶく……」
えっ。
STR補正のある装備はないからここのNPCがこんぐらいでこんな惨状になるはずないのに…………
耐久値上限減少の被害にあってないゴーグルで眼前の侍のステータスを確認する。
Name:サイトウ・タカシ
Lv67
状態異常『呪毒』
種族:人間種
メインジョブ:剣聖
サブジョブ:武士
呪毒ってれながたまにばら撒くあれだよな。そんなの今の俺には……今の俺には……
腕を見る。
………………今腕に巻いてる包帯が原因じゃねーか!!
やっべ……回復回復……機械だから使わんと思って持ってない!?
「あの野郎殺りやがった!!」
うわ追いついてきた。
「ええと、すみませんこれあげるんで許してください」
インベントリから取り出したのは鶏野郎にけしかけられた蜂からドロップしたはちみつ。慰謝料代わりに瓶詰めされたそれをおじさんの脇に置いて猛ダッシュでかけ出す。
「おいあっちは不味いぞ!」
ほほう、不味いのか。俺の予想が正しかったら120%ぐらいの確率で重要NPC、つまり神がいる!
見るからに豪華な扉を蹴破った先には錫杖を携え着物を着た少女がいた。
外れか。
「あなた達は外を固めてなさい」
少女は言った。
「ですが……!」
「あなた達の敵う相手ではありません」
「ハッ!承知しました!」
なんかタイマンする流れになってるけど別にアンタが目的な訳じゃないんだよなぁ……
「何が目的です、こんな騒ぎを起こして」
「いえ、用事さえ済ませればさっさと帰る予定でしたが」
「用事?」
「ええ、ここの神に手紙を届けに来ただけです」
「誰の?」
「言えません。そういう契約なので」
「何故?」
「さあ?聞いていません」
「信用できません」
うん、信用してもらうのは無理だとは思った。
「……この国に来たのはその手紙が目的ですか」
「はい?」
俺らがヤマトに不法入国したプレイヤーであることを知っているのは妖怪の里の連中に占い師の鬼の女性、あとはフォルぐらいのはず。
いや、1人いるか。
「貴女が転移を妨害したんですか?」
れなのスキルに介入して俺らを火山の上に転移させた奴。魔法職と思われる装備からして眼前の少女が犯人か?
「ええ、生き残っているとは思いませんでした」
「まあいいです、おかげで手元の装備は一つ増えましたし」
インベントリから取り出したのは『イフリザード』の特典であるランプ。
「…………」
「おや、もしかして倒してはいけないモンスターでしたか?」
「いえ結構、アレの所為で火山が活性化して我々もあの一帯が危険になって困っていましたので」
「それは」
「ありがとうございます」
「はい?」
「時間稼ぎに付き合って頂いて」
視界が赤く染まる。
「『ワカツヤイバ』」
後ろか。やっぱり宣言しないと使えないスキルってクソでは?
「『神託演算#3』」
首に振るわれた短刀を持つ手を弾く。
振り向く。短刀を振るったのはどこにでも居そうな、淡い色の和服を着た獣の上顎の骨の面を着けた少女。
引き伸ばされた時間の中でなるべく情報を集める。
振るわれた刃とは別の手にもデザインの全く違う短刀。右手の短刀は紅い刀身。左手の短刀は骨を削り取ったような原始的な物。手には亀の甲羅の様な篭手、足には下駄。水晶の簪、牙の首飾り。全部デザインがバラバラ。
最悪だ。
基本的に装備を作る人はセットで作るなら素材の違いがあっても浮かないようにデザインする。そうじゃ無くて性能のいいものをバラバラに買い集めたものとしてもオーダーメイドなら似合う様に作る。
結論としては眼前の少女は全身を異なるモンスターの特典装備で固めている。
一山幾らの量産品の線は戦況に影響はないと考えて除外。
いやまぁNPCの方が何年も戦ってる訳だし全身最強装備で固めた人もいるだろうけどさ。それを今ここで引くか普通。俺今包帯とゴリラリング以外マトモな装備無いぞ。
「解除ッ」
いつ当たりを引くかわからん以上インベントリいじって包帯だけでも装備から外したいんだが……
視界一面赤赤赤赤。
隙見せたら死ぬわ。
紅い短刀の突き、避ける。骨の短刀の横薙ぎ、避ける。足払い、後ろに避ける。
距離取って隙見つけて遁走したいが……
「『ウガツキバ』」
闘気を纏った骨の短刀の突き。体を捩じ込んで腹に蹴りを叩き込む。
仮面の少女は魔法職の少女の方まで吹っ飛んだ。
「天忍はどうしました」
「途中までは同行していました。道にでも迷っているのでしょう」
話し込んでる、チャンス!扉にダッシュ。
「そうですか、『封魔結界』」
直後、結界が俺と扉の間に現れる。遅かったか……
閉じ込められた。簡単には逃してくれないか。
インベントリを操作。
インベントリをいじって取り出したのは鶏野郎の扇。そこそこ頑丈だろうし盾になるかもしれん。包帯外したらステータス下がって死ぬ。精密動作の補正なかったら攻撃逸らせないわコレ。
結界は見た感じれなの『黒幕』に類似した職業のスキルか、なら動かすかダメージ与えれば解除されるか?
「『投風』!」
走るのは最初に風、次いで雷と不可視の刃、雷から呪詛が伝い、刃からも雷が迸る。
あーダメージの度に雷ダメージと状態異常判定発生するからこうなるのか。
「『カゲマイ』!」
「『呪盾・怨典』!」
防がれた。仮面の少女は攻撃が透過し術士の少女は呪詛の盾を生成した。れなと違って結界の維持しながら魔法使えるのか……
「……『鏖殺獣王の叫喚』『皇牙怒髪天』『天鳳極光統天撃』」
あっ死ぬ。そう直感した。
「『神託演算#3』!!」
また体感時間が引き伸ばされる。2回も使う羽目になるとは……!?
頭蓋骨の目に青い炎が灯る。牙の首飾りから赤い闘気が噴出する。簪から光が短刀2本に付与される。
このレベル帯で装備由来のスキルなんて絶対貰ったらいかん!
幸いにも神託演算挟み込めたので攻撃の軌道自体は見えるはず、これなら……!
少女は牙の短刀をしまい込んで紅の短刀をこちらに向けた。
「『紅の死』」
あっはやっ……!!?
視界いっぱいの赤。引き伸ばされた時間の中でも既に短刀が首を絶とうと振るわれていた。




