踏破セヨ輝キノ龍、天ヲ衝ク機王ノ産声 其の二十一
だいたい魔女兵器と試験が悪い。
跳ぶ、跳ぶ、翔ぶ。本来は武器のデスサイズも無理矢理移動の補助に使用して駆ける。というか先程からガリガリとデスサイズで水晶を削って制動力を得ているため、刃がだいぶボロくなってきた。
ジェリンドのバフは未だに解けない。
俺の今切れる手札ではあの光を奴から剥がせない。
厳密には1手あるのだがそれはリーサルウェポンを使うハメになりその場凌ぎに過ぎない。
使えるのは攻守一体の切り札が1枚。使わなければ今すぐ負けるかもしれない。使えば多分勝てない。この状態をリントヴルムのジレンマと呼ぼう。
少し脇道に思考が逸れるが余裕の出てきた証拠だ。ある程度攻撃もパターン化してきた。ガリガリと足場を水晶の槍が掠める。
先程の思考実験の答えだが、そもそもそんな状況になる時点で負けは確定している。
まあまさにそんな状況、しかしコレはカードゲームではなくVRゲーム。そもそもの前提条件が違う。抽象的に言えば相手に便乗して相手の手札をぶっこ抜く。具体的に?今からするところだ!
飛び回りながら打ったリジェネとかでちょうど体力満タン、デスサイズもあと二三度は使える。
死に晒せ全身素材大型爬虫類………!
「『グラビティシフト』『ハイジャンプ』」
『クルカ』
奴もこちらがスキルを切ったことで察したらしい。
一際大きな水晶の槍を足場に跳躍、上の水晶の下面を蹴り下に向けて跳ぶ。『パキリ』と嫌な音がして蹴った水晶が崩れ落ちる。
「クッ………!!」
さぞ驚いたような表情を浮かべる。こいつが足場の水晶の破壊を狙っていたのは知っている。人間相手に騙し合いなんぞ数億年は早いんだよ恐竜擬き。
奴も此方のペースを不意に崩そうとパターン化した回避に合わせて水晶を削っていた。だから気づかない振りをして回避、散発的に来る水晶槍だけを足場に掠るように回避していた。俺一人でこの足場を壊すのは手間だからな。
デスサイズで無理矢理水晶を削ってある程度水晶の折れる方向を調整しておいた。
あちらさんは足場ごと粉々にするつもりならしいがデスサイズで切れ込みを入れたのは根元なんだわ。最後に足場にした水晶以外。1番上の水晶が砕ける。その破片が降り注ぐ。
臨壊機動は温存、リジェネのペース的にこれで足りるハズ………!
落下する水晶を足場に跳躍、それを二度三度と繰り返し降り注ぐ水晶より上に跳ぶ。
落下する水晶塊が他の水晶を巻き込み崩れ落ちる。バキバキとこれまでジェリンドが使い捨てた刃が巻き込まれ、雪崩となる。
『小癪ナァ!』
チャージ、溜め、収束。とにかく奴は白い光を纏ったままブレスの予備動作へ移行。恐らくエネミー側にもリキャストタイムが存在するため上で飛び跳ねていた時には温存していた。
『竜撃吼ァ!!』
水晶の雪崩が奴に接触する寸前にブレスが発射。心眼に反応が無いので下手に動かず自由落下。
轟ッ!!とブレスが眼前を焼き払う。
心眼は当たらない攻撃は眼前を通ろうと反応しないのが今は玉に瑕だ。
もったいぶって上でぴょんぴょん遊んでた時は使わなかったブレスを切らせた。
やはり多少でも被弾したくないらしい。
バフは時間制ではなく回数制だろうな。
「『堕天聖邪』狙撃モードに移行」
フワフワと浮いていた2つの砲門が腕に纏わり付く。正直狙撃にしてはオーバーキル気味な気がする。
「『蒼砲連波』!」
多段ヒットの砲撃を放つ。
クリーンヒット、でも浅い。
リキャストまで意識してケチってしまった。
『無駄ダァ!!』
ブレス終了、尻尾薙ぎ払い。後退じゃ間に合わない、もう少し削りたいけどデスサイズが持たない。
振るわれる尾を踏んで跳躍、ダメージ無し。
顔面前至近距離、回復足りないので撃てない、デスサイズ使い潰すか。
ボロボロになった死神の鎌の刃を操作。
「『暴双閃』」
両方の眼に思い切り突き立てる。
『AAAAAaaaaaa!?』
クリーンヒット。大抵のボスは脳まで攻撃が達すれば死ぬのかな?リーチが足りないから検証出来ないが。
パキリ……!と眼に突き立てた鎌が壊れる。お勤めご苦労様、勝てたら飾るとしよう。
鎌のドレインでMP回復。体力もリジェネで全快。
ステータスを横目で見て、スキルが使用可能であることを確認。
砲身を目の前の竜に向けて言の葉を紡ぐ。
「______『必滅魔弾#2』!!」