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堕ちし██、熱き██ 七の巻

筆が乗りすぎてぶつ切りにする訳にもいかず過去最大級の文量になってしまいました。

構成ヘタクソで申し訳ありません……


『妖怪の里』、その施設の一つである闘技場。そこには2人の少女が立っていた。


1人は水色の髪に機械の躰、刀を構えた少女、ファケリー。


もう1人はくせっ毛の茶髪に華美な装飾の施された黄金の槍を携えた少女、サンライズ。


【Are you ready?】


互いに無言。サンライズが槍をファケリーに向け、ファケリーもステータス補正の掛かる上段の『晶龍』の構えをとる。


【Fight!!】



「『槍天(そうてん)無雲(ムーン)』」


「戦機流『閃虹(せんこう)』」


小手調べとばかりにサンライズは槍を振るい半月の斬撃を放ち、ファケリーは大太刀を振るいそれをかき消した。


サンライズは歯牙にもかけず長槍を軽々と振り、三日月状の斬撃を次々に放つが─────


「『竜闘気』『真界超越(オーバースピード)』」


────ファケリーは獣の如く地に身を伏せ、飛行ユニットによる爆発的な加速で接近する。


「『槍天・雲鎧(うんがい)』」


「戦機流『晶刃(しょうじん)』──っ!?」


槍の石突きを地面に叩きつけて展開した結界で闘気を纏った大太刀の一撃を受ける。ファケリーは結界に付与された強制ノックバックの効果で後ろに弾かれた。


「『槍天・霹靂(へきれき)』!」


雷光のような輝きが槍を包み、サンライズは薙ぎ払う構えを取る。ファケリーは視界いっぱいに広がる心眼の予測範囲()に目を剥いた。


「戦機流『焦光(しょうこう)』ッッ!!!」


ノックバックの硬直が止んだ瞬間に飛ぶ斬撃を叩きつけるように放つ。


ファケリーは飛翔する斬撃の反動で無理やり攻撃範囲から身を脱した。


()ァッ!!」


直後に雷光が迸る。


結果は空振り、状況は戦闘開始と何も変わっていない……片方がスキルの反動で硬直している事を除いては。


「っし!戦機流──『晶刃』!」


ファケリーは刃に闘気を纏わせながら駆け出していく。


「ッ!」


ギリギリで硬直が解けたサンライズが金色の槍で振るわれたた大太刀を受け止め────


「『ジェリンド』!」


「ぐうっ!?」


────受け止めた一瞬の隙を見逃さなかったファケリーが飛行ユニットを駆使して空中で回転して槍の上から蹴りを叩き込んだ。


『カラフル』の効果で呪詛を伴った雷が一瞬走ってサンライズの動きを止める。初手で運悪く『呪縛』が発現したのだ。


「『アニマ』ッ!」


サンライズの声に反応して槍の先端部の装飾と思われていたが分離して刃としてファケリーに襲いかかる。


「っ!ビットですか!」


襲来した刃の数は8つ、切り払われてファケリーの体を掠めた物は一つもないが、体勢を整え間合いを取るにはには十分な時間。


サンライズが刃を槍に再集合させてからスキルを放つ。


「『シャープエッジ』『ペネトレイト』『槍天・乱舞』ッ!」


「『神託全書(アカシックレコード)』!」


ガトリング砲の如き高速の連続突き。ファケリーは強化された予知のスキルで全て避ける、避ける、避ける。


「チッ!」「っ……!」


サンライズが埒が明かないと舌打ちをしたのと過多な情報にファケリーが顔を歪めたのは同時。


「『ラピッドストライク』『槍天・灼妖(しゃくよう)』!」


直後、サンライズは最後の一撃に更に複数のスキルを載せる。


スキルを重ねた結果、攻撃速度は爆発的に上がり、オート回避の類のスキルであれば回避が間に合わない状態、しかし─────


「止まって見えますよ」


────ファケリーは跳んだ。


『神託全書』 は攻撃軌道を予測するだけで回避自体はファケリーが行う。ギリギリでその金属の腹に風穴を空けるであろう轟速の一突きを跳躍で回避し、槍の上に着地する。


「解除……終わりですか?」


ファケリーは静かな水面に浮かぶ水鳥の如く槍の上に立ち、刀を鞘に納めながら挑発するように言った。


「『槍天・貫龍(かんりょう)』!!」


「おっと」


穂先に螺旋の闘気を纏った一撃が放たれる前に軽やかに跳躍して回避。


空中で刀を手放すと両の太腿のホルスターから龍の顎を象った砲を向ける。


天地が逆転した視点でも眉間と心臓を撃ち抜く弾道で砲を放った。


サンライズは槍を振るって3発の砲撃全てを撃ち落とす。


(硬直から立ち直るのが早い……?装備そっちに回してるのか)


「軽いです!『ストームジャベリン』『飛槍天(ひそうてん)夕立(ゆうだち)』!!!」


ファケリー……ではなく空に投槍。


槍は滞空中に分裂し、ファケリーの目には赤い殺意の雨が映る。


「範囲技ですか……『過剰収束(オーバーチャージ)』……………『蒼砲連波』」


チャージした範囲砲撃を上に向かって放ち、分裂した投槍の一部を撃ち落とし、安全地帯を作り上げる。


直後、撃ち落とされなかった槍が周囲に着弾し砂埃を巻き起こす。


投槍の硬直が解けた瞬間にサンライズは予備の槍をインベントリから取り出し構え────


「『翡砲龍穿』」


────砂埃の向こうから放たれた貫通射撃を身を捻って避けた。


「今の避けます……?『ユニオン』『過剰収束』」


ジェリンド由来のゴーグルで砂埃の奥の様子を把握していたため、砂埃で予備動作の見えていなかった射撃を明らかに『見てから』避けたサンライズへファケリーは困惑を口にする。


砂埃が晴れる。銃二丁を合体させて龍の顎を模した砲に変形させる。腕と同サイズのそれは小回りを損なうものであるがAGI寄りのビルドのサンライズを一撃で殺すには十分すぎる代物だとサンライズは察した。


「『紅蓮魔獣の爆炎気』『槍天・無雲』」


槍のアクティブスキルを発動し、槍の穂先が煌々と炎を放つ。次いで最初に放った飛ぶ斬撃のスキル。直前のスキルの影響で着弾すると爆発する代物に変わったのだが……


「『ハイジャンプ』『過剰収束』『過剰収束』」


心眼で危機を察知したファケリーは跳躍を選択。滞空中に更にチャージを続ける。


「『紅蓮爆裂崩天撃』」


槍側のスキルを発動。


紅蓮の闘気が溢れる槍を着地したばかりのファケリーに投げつける。


「ッ……!『緋砲命灼』!」


HPを消費して放つ砲撃。3度のチャージを重ねたそれは並の統合スキルを凌駕する威力の一撃であり、真紅の投槍は更に紅い砲撃に呑まれて消えた。


サンライズは迫る紅い砲撃を転がって避ける。


「『チェンジ』!『刻弦舞踏』『機走破』!『真界超越』!」


ファケリーはサンライズが体勢を崩した隙に大砲を大剣に変え、バフを二つ重ねて加速し迫る。


「『天絶────」


ファケリーはサンライズの首を切り飛ばすべく大剣を振りかぶる。


サンライズは笑った。


「戻ってきなさい、『アニマ』!」


位置関係としては、サンライズ、ファケリー、そしてその後ろに最初に投げて着弾した槍、『天命王槍 アニマ』。


地面に深々と突き刺さっていたそれは、主の命令を受けてひとりでに抜け、凄まじい速度で主の手元に戻ろうとする。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ッ!ジェリンド!!」


心眼で危機を察したファケリーはぐりん、と飛行ユニットを起動して無理やりに体を捩った。大きくて小回りが聞かないと大剣からよ手を離して両手をついて体勢を整える。


一方サンライズは『アニマ』を回収。


両者、互いに睨み合って一瞬動きが止まり




「『隻眼魔神(オーディン)』!」

「『全壊死動(オーバーデッド)』!」




片や、出現したウィッチハットを被り、装備に金色の光を宿して、片目を妖しく輝かせた魔女に


片や、髪を白く染め上げ赫い瞳で敵を睨む殺戮機械に


同時に変貌する。


「砕け『ギャラルホルン』!」


先に動いたのはサンライズ。槍の穂先に溜めた魔力を用いて記号を描き、発生をトリガーに不可視の爆音波を発生させる。


しかし。


「遅い!」


ファケリーは既に肉薄している。当てるべき敵が不在の爆音が地面を砕く。


「焦がせ!『レーヴァテイン』!」


続いて別の記号を描き、燃え盛る炎の巨剣を顕現させる。


「『焦光』ッ!」


飛ぶ斬撃で無理やり切り開いた炎の隙間に身をねじ込み進む。


(スキルを用いたリビルド……?いや、最初から両刀だったのか!?)


(はっや!?強化幅おかしいでしょう!)


ファケリーは様変わりした戦闘スタイルに、サンライズはその迅さに、2手交わして互いに驚愕する。


「万象を盤上に『フリズスキャルヴ』」


またサンライズが別の記号を描く。サンライズの足元に魔法陣が発生し、数瞬して発した単語の意味を咀嚼したファケリーは血相を変えた。


「ジェリンド起動!『真界超越』!」


ファケリーは加速スキルまで切って1度は落とした大剣に飛びつく。


「ターゲット完了!戒め縛れ『グレイプニル』!」


次の文字が書き終わり、足元の魔法陣から発生した八条の鎖がファケリーに向けて飛ぶ。


「くっ……!『分離』、『チェンジ』!」


大剣を双剣に、更に二丁の銃に変形させながら鎖を回避する。


しかし。


「やっぱり追尾型……!」


鎖はどこまでも追いついてきて止まる気配が無い。


「くっ……!」


ファケリーは紅い魔力の尾を引きながら闘技場の外周を飛び、後ろから追跡してくる鎖に砲撃をばら撒いて行く。


4条の鎖は砲撃で撃ち落とし、残る4条はホルスターに銃を納めてから大太刀を再度抜刀し切り裂く。


飛行の勢いを残したまま着地しそのままサンライズへ向けて駆け出した。


「分かりやすくて助かります、『晶刃』!」


「啄め!『フギン』『ムニン』!」


2羽のカラスを象った魔法も難なく切り裂き前進を続ける。


「……ッ!神千切(かみちぎ)れ!『フェンリル』!」


ここでサンライズは判断を誤った。


「遅い」


鋭い牙を持つ狼の両顎が出現するがそれが閉じられるよりも速くファケリーは地面を蹴って肉薄する。


「ガッ──!?」


超加速した状態のファケリーの足がサンライズの腹に突き刺さる。肺の中の空気を強制的に排出させられサンライズの口から声にならない声が漏れる。装備の効果によって靴の爪先には水晶で出来た竜爪が生成されており、少女の脇腹を裂く。呪詛を伴った紫電が走り更にサンライズのHPを削る。


サンライズの体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。


「くっ…………!」


サンライズは指から魔力を灯して幾つも記号を書き綴り回復を謀る。


「……槍無しでも使えましたか」


裂いた脇腹から『出血』のエフェクトが治まっていくのを見て呟いた。


ファケリーは今の一撃で大幅にHPの削れたサンライズを仕留めるべく駆け出していく。


「まだです……!聳え立て『ユグドラシル』齧れ『ニーズヘッグ』!」


直後にサンライズが光で出来た大樹に包み込まれ、大樹の根元からは複数の餓竜が湧き出てファケリーに牙を剥く。


(魔法回すのが早くなってないか?)


ファケリーは餓竜を斬滅しながらサンライズの魔法の行使速度について思案する。


サンライズを観察すると首筋には縄が食い込んだような痣が出来ている。


(ああオーディンの伝承通り擬似的に首吊ってんのか、HP消費量に応じてステ上昇が主な効果……片目潰して初期倍率まで上げてるのか?いや待てそれじゃ最終的に片目以外のデメリット踏み倒さないか?)


タロットの『吊られた男(ハングドマン)』のモチーフになったとも言われる北欧神話の主神、オーディン。自身の首を吊り叡智を得たが、最終的に縄が切れて事なきを得たと言われている伝承を思い浮かべる。


「だったら踏み倒される前に潰すのみ……!『終壊焦動(オーバーデッドヒート)』!」


「くッ!」


更に加速し光で出来た樹も斬って消し飛ばしたファケリー。


返す刃でサンライズの首を落とす寸前。


「『サマースプラッシュ』!」


サンライズのつけていた指輪から血なまぐさい闘技場に似つかわしくない、波とスイカとパラソルなどの陽気なエフェクトの衝撃波の魔法が放たれる。


「ッ!?!『ジェリンド』!」


ファケリーは咄嗟に飛行ユニットを起動し攻撃範囲から避難するが、無理に軌道を逸らしたため首を切り損ね斬撃自体はサンライズの左腕を切り飛ばすに留まってしまった。


獄熱が切断面を焦がし、更に雷光と呪詛がサンライズを責め立てる。


(今のは……噂に聞く夏イベの報酬か!発生クソ早いし対人勢だと難民発生するだろこれ)


高まりすぎたステータスの結果、飛行ユニットを一瞬起動するのみでも凄まじい距離を移動する。


結果、またファケリーとサンライズは大きく距離が開いている。


また、先程の光の樹の中で幾度かバフと回復を行使した結果、片腕を失いダメージを受けはしたが一撃分程度はサンライズも持ち直した。


((次で終わる……!))


互いに最後の大技によって決着が着くことを予感し、数瞬が無音で過ぎ去る。


片方は投槍の構え、もう片方は上段に刀を構える。


「『滅魔神槍(グングニール)』!」


「『頂刻ドラグレイ龍閃オーバーワン』!」


必中滅殺の魔槍の投擲。龍皇の息吹が如き飛翔する一閃。


両者はぶつかり合い────斬撃が魔槍とその持ち主を断ち切った。




『You Lose!』


決闘が終了した事で受けたダメージや損失が巻き戻され右腕も復活する。


(……負けた)


『聖鎖の騎士団』のサブマスター、サンライズは床に倒れた状態で呆然と思考していた。


ルナテック(クランマスター)に出入りが難しいはずの国家(ヤマト)に呼びつけられたと思ったら隠しエリアのカンスト専用の村に連れ込まれ、未発見種族のプレイヤーにPvPを吹っかけられ、挙句床を舐める結果になっていたのだから。


PvP最強と目されるエルフの国の決闘王者にも勝利して、レベルもカンストして浮かれ気味だったとはいえ、PvPでは手を抜いていた覚えはないのにだ。


「対戦ありがとうございました」


歩み寄ってきた機械の少女に手を差し出される。


「……ありがとうございます」


差し出された右手を掴んで立ち上がる。


「……次は負けません」


「挑戦なら何時でも待ってますよ」


機械の少女は微かに笑って言った。









『You Win!』


あっぶねぇ〜〜〜〜〜〜〜……!


何だよこの子めっちゃ強いじゃん!!!ルナテックに『PvP最強候補偶然倒してレベルもカンストして浮かれてるサブマスの鼻っ柱へし折って欲しい』って言われた時は楽勝だと思ったけど俺やアルカエストと違って正当にレベリングしてたから90代で足踏みしてただけでユニーク装備複数つけててレベルによる差なんて振れるSPがちょっと違うだけじゃねぇかよ!!そりゃ強いわ!!!


恨みを込めた視線をルナテックに送ると顔を背けられた。アイツ簡単に勝てるみたいな声音で吹っかけて来やがって…….!


というか物理と機械武装両方扱うための分散気味のステータスとはいえ軍服込のAGIに物理魔法の両刀ビルドである程度攻勢維持するの何……怖……


厨二病患ってる時に北欧神話のWikipedia読み漁ってて助かったぜ……!


とりあえずGGの挨拶済ませて感想戦でもするか……?


「対戦ありがとうございました」


「……ありがとうございます」


寝てるサンライズさんに手を差し出す。


「……次は負けません」


めっちゃ睨まれた……怖……


しかしゲーマーなら言うことは一つだ。


「挑戦なら何時でも待ってますよ」



そうして突発的に行われたβテスト内初のカンストプレイヤー同士のPvPは終わりを迎えたのだった。


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