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パーティーメンバー顔合わせ

 西より来る者、その大いなる力をもって火の雨を降らせ地を裂く。七晩の後大山脈を作らしめ北の地で永遠の命を得るーー博士の語った神話を要約するとこんなところだ。現在の魔王も北辺の地にて封じられ、復活の機会を窺っているという。北辺の魔王、それはかつて魔獣の群れを率いて彼等の版図を広げようとし、その度に勇者によって封じられている。シルヴィアの里のオサや博士と行動を共にしているスヴェアは前回の魔王討伐ーー50年前の勇者一行であり、自らを魔法の天才と称するスヴェアの知識があっても完全に滅することは出来なかった。

 シルヴィアはオサの武勇伝を聞いて育ち、いつかは自分も勇者と共に旅をすることを夢見ていた。レインは元々オーラフ侯爵領の勇者であったが、仲間に裏切られ命を落とそうかというところを私とシルヴィアによって助け出された。そんな彼女達には旅をする明確な目的がある。一方で私は祖国に裏切られ、自分の命を存えるべくこの地に逃亡した。アリアは私を追うことを目標にして、ついにそれを達成した。今の私に何があるのかーー軍人として守るべきものもなければ、明確な『人生の目標』もない。我ながらつまらない奴になったものだな、と自嘲していると、そんな私の心境を察したのか博士から励ましの言葉が届く。



≪なぁ、ユル坊……いや、もうラーベと呼んだほうがいいか? まぁいい。お前さんは昔から小難しく考えすぎるきらいがあるからなぁ。いっそ何も考えずに行動した方がうまく行く事もあるぞ≫

≪何も考えずに……ですか。そうすると、手のかかる子供達が何するかわからないんですがね≫

≪ははは……スヴェア君から聞いたぞ? 三人いっぺんに娶るそうじゃないか。式には呼んでくれたまえよ?≫



 からかう博士には見えてないだろうが、そう言われた私は照れを隠すように後頭部をガシガシと掻く。



≪まぁ、人生は長い。魔王討伐してもせずとも、今を楽しみたまえよ!≫



 博士は、脳天気な言葉を最後に通信を終了した。ふと三人娘の方に目を向けると、レインが心配そうな顔をして私を見つめていた。



「ラーベ殿、疲れちゃった?」

「ん? あぁ、そんなことないぞ」



 アリアとシルヴィアはまだ露天に並ぶアクセサリー類に夢中になっている。年頃の娘を持つ父親のような心境で二人を眺めながら、私はレインに先程博士から聞いた魔王伝承について問いかける。



「実は魔王について、あまり詳しくは分かっていないんだって。どういう種族なのかとか……」

「でも今までの討伐の記録は残っているんじゃないのか?」

「う〜ん……王立図書館とかに行けば公文書が残ってるんかもしれないけど、私たちが耳にするのは吟遊詩人の歌しかなかったから……」



 そう言って申し訳なさそうな顔をするアリアの頭を撫でる。明確な答えは分からずとも、今後の指針のような物を得ることはできたのだ。



「魔王を倒すためにはまず情報が必要だからな……よし、明日、はパーティーの顔合わせだから……迷宮から帰ってきたら図書館に行ってみるか」



 私がそう言うと、アリアは役に立ててよかったと柔らかな笑顔になる。粗方の物を眺め終わったのか、アリアとシルヴィアも私達の所へ小走りで駆け寄ってきた。珍しいものは多々あったようだが、結局彼女達のお眼鏡にかなうものはなかったようで、手ぶらのままであった。





「……以上が『草刈り一家』の紹介だ」



 夜が明けて、私達4人は冒険者ギルドの食事スペースに集まった。長机の左右に分かれて右側が私達4人、そして対面に座っている3人が『白銀の拳』のメンバーだ。ケネスは昨日私達を迷宮攻略に誘った人物であり、白銀の拳のリーダーである。彼を筆頭に、残りの二人が自己紹介を始める。



「えぇと……恐縮です、金板冒険者の、貴重な戦力をお借りできて光栄です。そしてその……」

「あぁ、コイツはエリン! 索敵と補助がメインの、うちらの哨戒役だ」



 エリンと呼ばれたその少女は、じっと彼女を見つめる私達ーー特にアリアの目線によって、小柄な身体をより縮こめて挨拶した。怯えていると言っても過言ではない表情の彼女に助け舟を出したケネスはメンバーの紹介を続ける。



「で、こっちの大男がダウス。引付役だ」



 私よりも頭二つ分はあろうかという高い身長と、まるで大岩のような体躯のダウスは、厳しい顔つきで黙ったまま僅かに頭を下げた。寡黙な彼はさながら重戦士、という言葉がよく似合いそうだ。



「かわいこちゃんが揃ってて緊張してるんだ、ダウスは! まぁ、一緒に移動してるうちに解れてくるだろうさ!」



 どうやら彼は極度の人見知りーー特に女性に対してーーであるようで、寡黙に見えたのも、ただ女性陣に対して緊張していただけらしい。そのことを暴露されたダウスはじろりとケネスを睨んだが、当の本人は全く意に介していなかった。



「で、本当は前衛にシャリーヤってのがいたんだが、そいつのお袋さんが倒れたらしくてな……俺たちは、エリンが獲物を見つけてダウスが注意を引き、そして俺とシャリーヤでトドメを刺すって寸法だったんだ」



 その言葉にエリンもダウスも小さく頷く。



「昨日話したように、戦利品は半々でいいのか? 金板の手を借りるとなると、戦利品全部でも足りないと思うんだが……」



 ケネスが不安そうに問う。それに答えるのはこの話を受けようと言い出した張本人のアリアだ。



「勿論よ。ただ、気に留めておいて欲しいのは……私達を戦力に勘定しないでほしいのよ」



 そう言われた白銀の拳は互いの顔を見合わせる。金板冒険者ーー特にアリアは飛竜殺しとして名を馳せている。その人物から『自分たちは戦力外です』と言われた意図がわからないようだ。



「確かに私単体の戦闘能力は高いかもしれないけど、それも広い空での話。狭い迷宮内じゃロクなことにならないわ」

「そう、なのか……? だが、そうは言ってもアリアさんの力ならーー」



 ケネスの言葉にアリアは机を指で数度叩いて不快感を示す。その態度にエリンは露骨に恐怖した表情を浮かべ、ダウスは奥歯を噛みしめたのかより一層険しい顔となった。



「同じことを何度も言うのは嫌いなのだけれど、臨時とはいえパーティーメンバーになったのだから……説明してあげるわ」



 ケネスも虎の尾を踏んでしまったかのような顔色であったが、アリアが自分達をパーティーメンバーと表したことによって表情を和らげる。



「まず、私とラーベ様は閉所空間での戦闘が苦手なの。味方打ちする危険性が高くてね」



 アリアの言葉に私も頷いて肯定する。私の頷きを横目で見たアリアは更に説明を続ける。



「で、さっき言った通り、レインは大剣を振るうわけだけれど……それが迷宮の中で使えるのかどうかははっきり言って未知数。迷宮内でまともに戦えるのはシルヴィアだけよ」



 そう言われたシルヴィアはぱぁっと明るい表情になった。しかしそれも、アリアの説明によって影を落とすことになる。



「一番の問題なのだけれど、私達4人はまだ一緒になって日が浅いわ。身と心は常に一緒なのだけれど、こと戦闘となると、どうなるかわからないのよ」



 正直に、包み隠さずこちらの状況を相手に伝える。アリアの魔眼で鑑定していることもあって、ケネスは信頼に値する人物だと認定されたようだ。アリアの言葉を概ね肯定しながら、私はケネスに説明を一部だけ補足した。



「身も心も一緒と言ったが……俺達は健全なパーティーだからな?」



 その言葉に、緊張していた白銀の拳がぷっと噴き出し、ようやく場の空気を和やかなものへと変えることができたのだった。

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最弱魔法の使い方! ~呪いを解くために、おっさんは魔王を目指します~https://ncode.syosetu.com/n9086gh/

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