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09 みんなで住む小屋を建てよう!

 ギルドから里に戻ると、山から吹き下ろすぬるい風が湿った空気を運び、空には暗雲が立ち込めていた。拠点の簡易テントを覗くと、シルヴィアとリリスが一つの毛布を分けあって寄り添いながらうたた寝をしている。私は二人を起こさないように荷物をテントに置くと、雨が降り始める前に“一仕事”することにした。

 

 

 行動支援装置から拠点設営機能を選択、簡易指揮所を設置する。“指揮所”と仰々しい名が付けられているが、実際は地面の砂や土を周辺の魔素と結合させて作られる、コンクリート様の床と壁と、天井だ。只の正方形の“指揮所”は大人が十人も入れば圧迫感で息が詰まるが、私とシルヴィアとリリスの三人が暫く暮らすぐらいなら十分な広さである。

 

 

 昨日までは簡易テントにシルヴィアと寝泊まりしていたが、リリスも加えてとなると身体を延ばして横になるのは少々厳しい。特にリリスはパーティーメンバーから強姦されかけたこともあり、男性の私と密着して寝るなど有り得ないだろう。

 

 

 私は設置が完了した簡易指揮所に荷物を移し、靴を脱ぎ、指揮書の中央で大の字に寝転がる。……うん、いい出来だ。もう一つ簡易指揮所を隣接させて浴場も作ろう。今は川辺に仮設した湯船で入浴しているが、雨が降れば入浴は難しい。清浄術式で身体や装備品の汚れは落ち皮膚病などの心配は無いのだが、やはり風呂は命の洗濯だ。なるべく毎日入浴したい。……シルヴィアは入浴を嫌がるが。そうしたら便所もきちんと設置したいな。毎度毎度折り畳みスコップで穴を掘るのも骨だ。

 

 

 色々と思いを巡らせているうちに、濡れた土の匂いが風に混じり始めた。どうやら雨が降り始めたようだ。私はテントで眠る二人を起こし、指揮所に案内する。

 

 

「……ラーベ殿、これは……?」

「暫くは三人で生活するからな。簡易テントじゃ狭いだろう?だから建てたんだ」

 

 

 寝起きの眼を擦りながら尋ねるリリスに、簡易指揮所の説明をする。……説明と言っても、ここには床と壁と天井があります。以上!で終わってしまったが。簡素な建物の簡素な説明だったが、しかし、彼女は眼を丸くさせ身体を震えさせている。

 

 

「……すごい。これで、これで雨風を凌げる……! こんな建物、一体いつの間に?どうやって? ラーベ殿、すごい、すごいよ!!」

「なぁリリスよ、貴様はどんな生き方をしてきたのだ……?」

 

 

 シルヴィアは眉間に皺を寄せてリリスの態度に疑問を呈する。そうだ、シルヴィアの冒険者登録証を預かったままだった。私は胸ポケットから登録証と金貨を取り出し、シルヴィアには登録証を、リリスには金貨を手渡す。

 

 

「この金貨は……?」

「あぁ、ギルドに君達の登録証とかを提出したらな、報告の謝礼金ということで預かった。俺の懐に入れるのもおかしな話だし……君が持っておいてくれ」

 

 

 そう言うと、リリスは暫く逡巡した後金貨を小袋にしまった。

 

 

「おっ! ラーベ! 丸が、丸が増えているぞ!」

「それはシルヴィアがリリスを見つけたからだな。これで鉄板まであと二つだ」

 

 

 私がそう言うと、リリスが素っ頓狂な声を上げる。

 

 

「えぇっ!? 二人共、まだ木板っ!? 私はてっきり銀板冒険者だと……」

「……何故そう思った?」

「ん……ラーベ殿が街に戻ってから、シルヴィアから話を聞いてね。虎を仕留めたり銀板冒険者との決闘で相手をけちょんけちょんにしたって聞いたから」

 

 

 その言葉に私はシルヴィアを見る。彼女は胸を張り得意げな顔をして言う。

 

 

「リリスにはラーベが如何に強いか、しっかりと伝えておいたぞ!」

「……話を膨らましたんじゃないだろうな?」

「失敬な!」

 

 話ではなく頬を膨らませたシルヴィアの顔を両手で挟みながらリリスに向き合う。



「シルヴィアの言う通り、俺達はまだまだ駆け出しだ」

「でもしゅぐに金板になりゅじょ! でにゃ、まおーを倒す旅に出りゅのだ!」

「……魔王を、ね。それは、勇者を目指すってこと?」



 シルヴィアの言葉にリリスは複雑な表情を浮かべる。……彼女達の所持品を検めたが、ひどい有様だった。長期間の行動に耐え得る装備品も無く、現金は銅貨が数枚のみ。彼女の顔には“勇者”としての経験や、旅路の辛さが滲み出ている。



「そもそも、君は何故この森へ? 確か魔王は北の極地にいるんだろう? オーラフ侯爵領からは正反対では……」

「あぁ……この付近には、先代勇者の従魔が棲んでいるって伝承があってね……」



 彼女の言葉に、私とシルヴィアは顔を見合わせる。リリスは視線を下げて自嘲気味に呟く。



「でも、一月掛けて探したが、徒労だったよ。何の成果も得られないどころか……あのザマさ……」

「……なぁリリスよ。その従魔というのは、どんな奴なのだ?」

「ん……白い身体に赤い目を持つ、巨大な魔獣だそうよ。記録にはそう記されてる」

「ラーベ、その従魔ってもしかして」

「……オサ、だろうな」

「……オサ?」



 リリスは私達の会話に訝しげな顔をする。

 

 

「……あぁ、この森には、白狐の群れが住んでいる。その群れのオサが、多分君の言う“従魔”だろう」

「しかし、一月も探して、何も……手掛かりすら掴めなかった……」

「そりゃそうだ!あのな、我らは、怪しげな奴が来たら身を隠すのだ!我らを見つけたら“力”があると見込んで腕試しをするのだ!」



 シルヴィアの言葉にリリスは更に険しい顔をする。



「我ら? 何を言ってるの、シルヴィアちゃん……」

「む? 何って……何が?」

「あー……その、な。シルヴィアは、元々、この里の白狐なんだ」



 下手に誤魔化しても直ぐにボロが出るし、行動を伴にする仲間として重大なことをいつまでも隠しておく訳にもいかない。後々になってシルヴィアの出自が判明すれば、『何故あの時言ってくれなかったの!』と不信感を抱かせることになる。

 

 

 背中を預け合う仲間だ。隠し事は少ないに越したことはない。そう思いシルヴィアの正体を明かしたのだが、リリスは明らかに不機嫌そうな顔をしている。

 

 

「……いくら命の恩人だからって、適当なことを言われると、腹が立つね」

「適当!? 適当だと!? よし分かった! 今からリリスに我の真の姿を見せてやるぞ!!」



 大声を出しながら服を脱ぎ始めるシルヴィアを、私は慌てて制止する。指揮所の中で变化されたら、シルヴィアが怪我しかねない。

 

 

「待て待てシルヴィア! 雨が上がったら外でやろう! なっ!?」

「ラーベ殿……その反応、まさか……」

「あぁ、本当に、シルヴィアは白狐なんだ。それと、君の言う従魔なんだが……まだ生きているぞ」



 私の言葉にリリスが眼を見開く。一月も探して見つからなかった魔獣が、こんな形で現れるとは思ってもいなかったようだ。しかし一月か……。

 

 

「……シルヴィア、リリスが森で探索していることに気が付かなかったのか?」

「いや、我はこの間まで山の最強と争っていたからな! この里の近くまで人間が来ていたことなど知らん!」

「この里には何匹くらい同族がいるんだ? 俺の捜索術式に全然探知が無いんだが……」



 そう、不思議に思っていたことがある。この森で寝泊まりするようになり大分経つが、捜索術式には一匹もシルヴィアの同族が探知されたことは一度も無い。その疑問をシルヴィアにぶつけると、意外な回答が返ってきた。

 

 

「ん~……二十くらいだな! ラーベの捜索は五月蝿いから直ぐに分かるぞ! こうな、頭と耳がガンガンするのだ! 初めて会った時は不思議な玉が飛んできたから確認しに行ったが……それに、我らの狩りは待ち伏せだからな! 身を潜めるなんて、基本中の基本だ!」



 そう胸を張るシルヴィアとは対照的に、リリスはガックリと肩を落としている。ブツブツと、アレだけ探したのに……と呟いている姿は見ていて痛々しい。……食事を摂れば、彼女も少しは元気が出るだろう。間も無く昼食の頃合いだ。私は若草亭で買ってきた弁当を二人に差し出すと、雨が上がったらオサとリリスを引き合わせようと思うのだった。

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