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04 勝利の美酒に酔う。ベロベロに。

 「えー……それではっ!ラーベさんの勝利を祝して!……乾杯っ!!」

 

 

 テディの音頭に集まった面々が酒坏を掲げる。若草亭ではビリネルとの決闘の際に私の勝利に賭けていた者たちで、ささやかな祝勝会が開かれている。集まっているのは少年冒険団『デビルバスターズ』のテディ、アロラとシーラ、冒険者ギルドのヘレナとマリエ、そして私とシルヴィアの七名である。

 

 

 「しかし、君が俺に賭けるとは……少し意外だったよ」

 「……あなたを応援した訳じゃない。配当が大きい方に賭けただけ。……でもあんなに強くて、こんなに儲けられるとは思ってなかったから……少しだけ感謝してる」

 

 

 少しだけかい、と私は苦笑を浮かべる。マリエとは不幸な誤解が原因で険悪な関係になったが、私の謝罪と“お詫びの品”を納めたことによりある程度関係を修復することが出来た。……元々修復するほど関係は深くなかったが。マリエは金貨の詰まった詫び品のガマ口を首から下げて愛想なく答えた。

 

 

 「あ!そうだ、ラーベさん!私にもフサフサのやつ作ってくださいよぉ!」

 「そうですね。じゃあギルドで指名依頼してくれたらすぐにでも作りますよ」

 「言いましたね!皆聞いたわね!?マリエだけそんな可愛いやつ作ってもらって羨ましかったんですよ~!私にも!すぐに!作ってくださいね!!!」

 

 

 私はその言葉を誤魔化すように顔を逸して果実水を口に含む。柑橘系の爽やかな酸味が鼻に抜け、ほのかな甘みが口に広がる。普段は懐に優しい定食を提供している若草亭であるが、予算を奮発してちょっとだけ豪華な料理と飲物を出してもらっている。懐も暖かい今、少しぐらい贅沢してもバチは当たらないだろう。テーブルの上には肉料理をメインに数種類の食事が用意されている。シーラは用意されいてる肉料理を、無言で勢い良く掻き込んでいる。小柄な体型からは想像できない食欲だな……。

 

 

 「ちょ、ちょっとシーラ!端ないわよ!」

 「……肉が私を待っている。これは仕方ない」

 

 

 がっつくシーラを諌めるのはアロラだ。テディとシーラ、そしてアロラは同じ村出身の幼馴染で、テディをリーダーに少年冒険団を組んでいる。……リーダーはテディなのだが、このアロラが二人を制御しているところを見ると、自ずとパーティー内の力関係が判明する。そんな様子を眺めていると、シルヴィアがビールの注がれたジョッキを私に近づけてきた。

 

 

 「……仕事の後の、ビールは、最高だと、聞いていたのに、こんな……こんなものの……どこが最高なのだ……」

 

 

 口元を歪めながらシルヴィアが苦い顔をして言う。いや、実際苦いんだろうな。私の果実水とビールを交換してやるか。

 

 

 「お嬢ちゃん、こんな“女子供の飲み物”でよかったらどうぞ」

 「う~~~!意地悪するなラーベ!」

 

 

 祝勝会が始まる前に、果実水ぃ?そんな女子供の飲み物が飲めるか!と威勢のいいことを言っていたシルヴィアだったが、渡した果実水を一口飲むとぱぁっとその顔を明るくする。

 

 

 「うむ!これはいいな!なんと言うか……酸っぱくて甘いぞ、うん!」

 

 

 あまりにもそのままな感想に笑い声を上げながら、私はビールを飲み下す。……約二ヶ月振りの酒が、染みる。思わず笑みを溢す私を、シルヴィアは怪訝な顔をして尋ねる。

 

 

 「……なぁ、オサもラーベも、我を騙そうとしておるだろう?」

 「ん~?なぁにがぁ~~~?」

 「あんなもの……旨い訳があるまい!ただただ苦いだけであろう!」

 「んっへっへ!これはねぇ、シルヴィアちゃん、“大人味”なんだよ~!」

 

 

 私と同じくビールを飲んでいたテディが目を見開いて私を見る。

 

 

 「えっ!?……ラーベさん、めっちゃ弱く無いっすか!?」

 「バッカお前ェ、弱いとか言うなよ~!……おじさん、泣いちゃうぞ~?」

 

 

 ぐるりと回すと、皆無言で私を見ている。……そんな、珍獣を見る目で私を見ないでほしい。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 「隊長!お疲れ様でした!」

 「……ハンス、手に持ってるのは何?隊長に何を勧めるつもりなの?」

 

 

 グラスとウィスキーを両手に持ってきたハンスを制したのは私付きのアリアだ。アリアに止められたハンスはバツの悪い顔をしている。

 

 

 「い、いやぁ、姉さん、今日はお祝いですんで……ちょっとぐらい、ねっ?」

 「何が『ねっ?』なの?ねぇ?どういうこと?隊長を酔わせてどうするつもり?ねぇ?教えて?」

 「いや、その……」

 「何?言えない事でもするつもりだったの?ねぇ、ちょっと“教えて”?」

 

 

 そう言いながら彼女は左目の眼帯を外そうとしている。つい先程まで停戦の報せに大いに盛り上がっていた場も静まり返っている。私はアリアの背後から彼女の左目を手で覆い、ハンスからグラスを受け取る。

 

 

 「まぁまぁアリア!今は祝いの場だ!俺も少し飲むぞ!」

 「しかし、隊長……よろしいのですか?」

 「なぁに、死ぬ訳でもあるまいよ。ハンス!……ちょっとだけな!」

 

 

 ハンスは震える手で私が手にしたグラスにウィスキーを注ぐ。グラスの縁と瓶が触れ、カチャカチャと音を立てる。

 

 

 「おい……おい!ちょっとっつっただろ!?」

 「す、す、スンマセン!つい……!」

 

 

 恐縮するハンスに苦笑いを浮かべ、ウィスキーが半分ほど注がれたグラスを片手に周囲を見渡す。

 

 

 「じゃあ改めて……帝国の勝利に、乾杯!」

 「「「乾杯!!!」」」

 

 

 静まり返った場も、私の発声に再び盛り返す。弱いのにどうして飲んじゃうんですか……と私を少し呆れた顔をしてアリアが見上げる。

 

 

 「そうは言ってもさぁ~!アリアちゃんは優しいからなぁ~!」

 「はやっ!隊長、もうまっかっかじゃないですか!ハンス、水!水持ってきなさい!!」

 「なぁアリアちゃ~ん……俺そんなに弱そうに見えるかぁ~……」

 「事実弱いんですよ!なんで分かってるのに飲んじゃうんですか!」

 

 

 アリアの声に場が慌ただしくなる。……水を持ってくる者はいいとして、何故バケツやらモップやらを持ってくる者がいるのだろうか。

 

 

 「アリアちゃ~ん……俺、帝都に帰ったら――」

 「お待ちください隊長!嫌な予感がする!それ以上はいけない!」

 

 

 私の言葉の続きをアリアが制する。私はグラスをテーブルに置き、アリアの頬を両手で包む。

 

 

 「にゃにをしゅるんでしゅかたいちょお!」

 「んっへっへ!アリアちゃんも大きくなったな~……初めて会った時は、こ~んなにちんまりしてたのになぁ~!」

 

 

 そう言いながら私は膝程の高さを示す。そんなに小さくなかったでしょ!と憤慨する彼女に、周囲は更に盛り上がるのだった。

 

 

 

 

 この後滅茶苦茶ゲロ塗れになった。自分の。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 「ラーベさん、ラーベさん!!起きてください!ほら、お水!」

 「起きてたよ~……寝てないし……」

 

 

 ヘレナから渡された水を一気に飲み干す。そんな私を見てテディはゲラゲラと笑っている。

 

 

 「なぁ少年~!なぁにが面白いんだ~!」

 「いや、だってあんなに強かったラーベさんが、こんなグデグデになってるんすもん!」

 「ぐでぐでってお前ェ~!」

 「なはは!ぐでぐで!最強のラーベにも弱点があったのだ!」

 「シルヴィアちゃ~ん~……泣いちゃうぞ~……」

 「……ビール一杯でこんなになる人、初めて見たわ」

 「おおお、マリエちゃんまでぇ~……」

 

 

 そんな様子を尻目にアロラは追加の水を頼んでいる。流石少年冒険団の影のリーダー、しっかりしてる。シーラは相変わらずモリモリと肉を食べている。

 

 

 「そうだ、ラーベさん。仕事の話で済みませんが……」

 「ん~?ヘレナちゃん、何か頼むの~?」

 「いえ……シルヴィアちゃんが請けた仕事なんですがね……」

 

 

 ヘレナはちらりとシルヴィアを見る。シルヴィアは胸ポケットから一枚の羊皮紙を取り出して私に手渡す。

 

 

 「あれれぇ~?あのバカどもにからまれてたんじゃないの~?」

 「それは仕事を請けた後なのだ!鉄板以上の掲示板を見ていた時だな。面白い仕事が沢山あったぞ!我らも早く鉄板に上がるのだ!」

 「面白い仕事ぉ~?ゲラゲラしちゃう~?」

 「……ラーベよ、貴様、本当に大丈夫か?……面白いのは、魔獣の調査やら、人探しやら……そういう仕事だ」

 「あぁ~……それはゲラゲラじゃないね~……」

 

 

 テーブルに頭を乗せながら答える私に、呆れ声を発しながらヘレナが説明する。

 

 

 「……で、シルヴィアちゃんが請けた仕事ですけどね?無謀だと思うんですよ……」

 「ん~?でも~木板の仕事でしょ~?」

 

 

 そうなんですけど……と歯切れの悪いヘレナの様子を尻目に、シルヴィアから渡された羊皮紙を広げる。掲示板に貼られていた、薬師からの依頼書のようだ。依頼書を読むと、スンッ……と酔いが覚めるのが自分でも分かった。

 

 

 『薬草類の採集』

 

 北部山脈に自生する薬草類の採集。種類は直接指示する。

 報酬:採集物の状態により決定。状態確認のため直接買取とする。

 受託者は中央通りガダル薬品店に来られたし。

 期限:次回の七日市まで

 

 「ヘレナさん、前回の七日市って、昨日でしたよね?」

 「えぇ……で、次の七日市が……」

 「六日後だな!」

 「シルヴィア……俺達が里からこの街に来るまで、何日掛かった?」

 「……五日間だな、確か。大丈夫だ!一日余るぞ!」

 「それ、片道だからな?しかも動き出せるのは明日からだからな?」

 

 

 私がそう言うとシルヴィアは、でもラーベとなら大丈夫だ!と笑う。その様子を困った顔をしてヘレナが見る。

 

 

 「この調子で……無茶だって言ってもシルヴィアちゃんが聞かないんですよ。それで……本当に大丈夫なんですか?」

 「あー……大丈夫ではあるんですが……この仕事を請けたこと、周りには秘密にしてもらえます?」

 

 

 私がそう言うとヘレナは軽く頷いた。ビリネルとの決闘に引き続いて、こんな仕事を請けたと周囲の者に知られたら更に悪目立ちしてしまう。静かに平凡に暮らしていく。……シルヴィアと行動を共にした時点で崩れかけていた目標だが、なるべく軌道修正していこう。私はそう思いながら、胸を張るシルヴィアを見つめるのだった。

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