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03 決闘という名の教育

 「さァさァ!『破壊のビリネル』と『草刈りのラーベ』の一騎打ちだ!ビリネルが新人をまた壊すのか!?それとも新人がその“首”を刈るのか!?堅実にいくか、大穴を狙うか!張った張ったァッ!!」



 七日市が開かれる街の中心部、その大きな広場には大勢の観客が群れをなしている。その中心には私とシルヴィア、決闘を挑んだビリネル一味と立会人の冒険者ギルド職員が立っている。ビリネルは仲間達に向かってニヤニヤと何か呟いている。

 

 

 「ラーベさん、今からでも間に合いますから、この決闘を取り止めてもらいましょう……?」

 「こんな騒ぎになったら、今更引き下がる訳にはいかないでしょう?それよりもヘレナさん、アレは何ですか?」

 

 

 心配そうに眉を下げる受付嬢のヘレナが私に決闘前降伏を勧めるが、ここまで話が大きくなってしまっては穏便に済む訳もなさそうだ。私はヘレナの降伏勧告をスルーして、先程から大声を張り上げている男性に顎をしゃくる。

 

 

 「あぁ、アレは賭博屋ですよ。こういう勝負事とかがあると場を張るんです。それよりも本当に決闘を受けるんですか?ラーベさん、武器も無いのに……」

 「さっきから聞いてれば貴様、我のラーベがあんなヒョロヒョロに負けるとでも言うのか!!」

 

 

 賭博屋の説明をしながらも降伏を勧め続けるヘレナにシルヴィアが食って掛かる。私はシルヴィアの頭に手を置きながら賭博屋について更問する。

 

 

 「あの賭博屋、自分自身に賭けるって出来るんですか?」

 「えっ!?えぇ、出来ますけど……その、勝ち目なんて……」

 「ラーベは最強の我よりも強いからな!勝つに決まってるだろう!!」

 

 

 大声で食って掛かるシルヴィアの頭をワシワシと撫でてから小銭入れを渡し、全額私に賭けるよう指示する。これで大金持ちだな!と駆けていく彼女を見送ると、少年冒険団のテディが声を掛けてきた。

 

 

 「ラーベさん!俺達もラーベさんに賭けましたから!頑張ってくださいよ!」

 「あぁ、ありがとう。……テディ君、いくら賭けた?」

 「三日分の生活費をドーンと!だから……ホントお願いしますね!!」

 

 

 彼の後ろには困り顔をしたアロラとシーラが立っている。しかし三日分の生活費か……多分彼は二人の静止も聞かずに賭けたんだろうな。

 

 

 「なぁ、テディ君。悪いことは言わない……」

 「な、なんですか……?」

 「……有り金全部俺に賭けろ!」

 

 

 そう言って口角を上げる私に焚き付けられたのか、テディは勢い良く賭博屋に駆け出した。ため息を吐く二人を残して。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 「なぁおっさん、手ェついて謝れば許してやるよ?」

 

 

 ニヤニヤと意地の悪い顔をしたビリネルが私に言う。私は頭を左右に振りながら彼に答える。

 

 

 「ビリネル君、手を付いて謝れば許してあげますよ?」

 

 

 私の言葉を聞いた瞬間ビリネルは私に飛び掛かろうとしたが、後ろに控えていた彼の仲間に羽交い締めにされる。

 

 

 「殺してやる!ぶっ殺してやるからな!!!」

 

 

 鼻息荒く声高に叫ぶ彼を尻目に、立会人のギルド所長に声を掛ける。

 

 

 「この決闘、ルールはあるんですか?」

 「あぁ、では、決闘開始前に掟を説明する!……おいビリネルちゃんと聞いとけ!!!……いいか、相手が戦闘不能になるか、降参するまで決闘を継続する。降参の場合は両手を地面に付けろ。それから、俺が勝敗を決定したら、それ以降の追撃は許さんからな!」

 

 

 語尾を強めながら所長はビリネルを睨む。……奴は過去に追撃をしたことがあるんだろうな。私は所長の言葉に頷き、決闘の開始位置に進む。ビリネルも落ち着いたのか、奴も開始位置についた。

 

 

 「なぁランド所長、決闘中の殺しは無罪だよなァ?」

 「……馬鹿な事を言うな、ビリネル。重ねて言うが追撃は許さんぞ!!」

 

 

 所長の言葉を聞き流しているのか、ビリネルはヘラヘラと笑みを浮かべている。私の隣に控えていたシルヴィアは緊張しているのか、堅い顔で私を見上げる。

 

 

 「なぁラーベ……貴様が強いのは分かっているのだが……やはり武器はいらんのか?良ければ“爪”を貸すぞ?」

 「いや、素手でいい。……シルヴィア、雑草を処理する時に大事なことは何だった?」

 

 

 以前老人の住む館の除草作業を請け負った時に教えた言葉を彼女に問う。困惑した表情を浮かべながらも、はっきりとした口調で彼女は答える。

 

 

 「『雑草は根本から』だろう?それがどうしたのだ……?」

 「あぁ、奴も同じだ。根本から抜かないと、また増長する。だから素手で叩きのめすんだよ」

 

 

 私の言葉にシルヴィアは笑い声を上げる。そう、雑草は、徹底的に、繰り返し、執拗に抜き去らねばならない。

 

 

 「なるほど!奴は雑草か!なはは!!」

 

 

 シルヴィアの笑い声にいきり立つビリネルだが、ローブ男が何やら耳打ちをするとまたニヤニヤと笑みを溢す。

 

 

 「それでは、両者準備はいいな?」

 

 

 所長の言葉に頷きシルヴィアに離れているように指示する。彼女の頭を撫でようと手を伸ばそうとした時、私は異変に気が付いた。まるで透明の殻に包まれたように自分の身体が動かせない。その様子を見ていたビリネルが片手剣を抜きながら大声で嗤う。

 

 

 「ハハァッ!じゃあおっさん!“正々堂々”決闘しようぜェッ!!!」

 

 

 ……この糞餓鬼、何が正々堂々だ。奴の肩越しに杖を私に向けているローブ男が目に入った。成程、ローブ男が私の周囲に“壁”を作っているようだな。この程度の障壁で私をどうにか出来ると思っているようだ。随分舐められたものだな。……いや、私は草を刈るしか能がない“草刈りのラーベ”だからな。侮るのも致し方無い。私はこの障壁と自分の身体の僅かな隙間に自らの魔力を充填する。

 

 

 「始めェ!!!」

 

 

 所長の掛け声にビリネルが跳ねるように駆ける。

 

 

 「死ねやぁぁぁぁ!!!!!」

 「ヌゥゥゥン!!!!」

 

 

 充填した魔力を一気に膨張させる。周囲にガラス瓶を地面に叩きつけたような破砕音が響き、私を囲っていた障壁が破壊される。ビリネルが突き出した片手剣を上体を逸して避け、崩れた体勢のまま右足を前に突き出す。技術も何もない、無様な前蹴りだ。だが、私が動けないと思っていた奴は無防備に突っ込んでいたため、前蹴りを避けることが出来ずに真正面から前蹴りを受け地面に転がった。

 

 

 「ガク!テメェ何やってやがる!!!」

 「おいビリネル……余所見をするなよ」

 

 

 奴は私を拘束していたローブ男に怒鳴り立てるが、私が声を駆けると素早く立ち上がり再び私に向き合った。ローブ男は胸の前で杖を握りしめて小刻みに震えている。拘束が解けたことをビリネルに詰められるのだろうか?若干同情も湧いてくるが、今は目の前のビリネルに意識を向ける。

 

 

 「……今謝れば許してやる。どうだ、ビリネル?」

 「テメェ……マジでぶっ殺す!ぶっ殺してやるからな!!!!!」

 

 

 頭に血が登っているビリネルは再び私に突っ込んできた。どうやら奴は反省する気は更々無いようだ。……仕方がない。徹底的に“教育”してやるか。

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 「……立て、ビリネル。まだ終わってないぞ」

 「も、もう……勘弁、してくれ……」

 

 

 突きを繰り出しては前蹴りで転がされ、上段から斬り掛かれば横っ面を張り飛ばされたビリネルは、その顔を真赤に腫らしている。最初こそ勢いのあったビリネルだが、何度も何度も転がされ戦意を喪失している。

 

 

 「立てよビリネル……立てェィ!!!」

 

 

 私は涙と鼻血に塗れた奴の眼前で吼える。その表情は腫れ上がって読み取ることは出来ない。私は奴の胸倉を右手で掴み上げ無理矢理立たせる。決闘開始時には湧き上がっていた観衆も、この異様な光景を固唾を呑んで見守っている。

 

 

 「よし、立てたな。……どうしたビリネル?俺を殺すんだろう?掛かってこい。……来いよォッ!!」

 「う、うおぉ……おあああーーー!!!!」

 

 

 大声を張り両手で剣を振り上げる姿は、まるで喧嘩に負けて泣きながら腕を振り回す子供のようだ。サイドステップで振り下ろされた剣を避けると、奴の太腿を鋭く蹴り降ろす。横倒しになった奴は呻き声を上げて蹲る。

 

 

 「なんだビリネル、もう終いか?根性あるんだろ?見せてみろよ、お前の根性をよォッ!さぁ立て!立てよォッ!!!」



 ビリネルは蹲ったまま何も答えない。私は奴の襟首を掴み上げ無理矢理立たせる。ビリネルの眼は虚ろで、剣を握った右手はだらし無く垂れ下がっている。

 

 

 「……もう決着はついた、ラーベ」

 

 

 私の肩に手を置きながらランド所長が告げる。私は身体の力を抜き、ランド所長に曖昧な笑みを浮かべる。崩れ落ちる音に振り返ると、ビリネルが失神して倒れ伏していた。

 

 

 「この勝負!ビリネルの戦意喪失につきラーベの勝利とする!」

 

 

 決闘終了の宣言に、観衆の声が響き渡る。宙を舞っているのはビリネルに賭けた者の賭け札だろう。駆け寄ってきたシルヴィアの頭をグリグリと撫で回す。

 

 

 「なはは!やっぱりラーベは最強だな!……でもちょっと怖かったぞ……」

 「あぁ……久し振りの“教育”だからなぁ。つい力が入ってしまった」

 

 

 私は賭博屋から配当金を受け取ると、シルヴィアに笑い掛ける。

 

 

 「よし!じゃあ祝勝会をしようか!……彼らも一緒にな」

 

 

 全身で歓びを表現しているテディ達を横目で見ながら、私は金貨の詰まった小袋を懐に仕舞うのだった。 


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