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01 新人冒険者達は、超一流を目指す。

 「なぁラーベぇ……我が言ったことを、よもや忘れているのではあるまいな?」

 「んー……?どういう意味だ?」

 

 

 シルヴィアを伴って街に戻ってから、我々はせっせと収集作業に従事している。今も街の東に広がる平原で薬草類の採集を行っている最中だ。ぷちぷちと薬草を千切る私に、シルヴィアがイライラした口調で話し掛ける。

 

 

 「我はなぁ……こんな、こんな草を集めるために里を出た訳ではないのだ!一体!何時まで!!こんな仕事をしなきゃならんのだ!!!」

 「そうは言うがな、シルヴィア。俺達はまだ木板冒険者なんだぞ?今の俺達に請けられる仕事なんてこんなもんさ」

 「でもなぁ……つまらん……つまらんのだ!!!もっとこう……バシッ!と決まるようなことがしたいのだ!!!」

 

 

 彼女の言う『バシッ!』がどういう意味かはちょっとよくわからないが、要は採集作業に飽きてきたということだろう。私は冒険者登録証を取り出し、裏面をシルヴィアに見せる。

 

 

 「ほら、今丸印が十五個溜まってるだろ?今日の採集で更に二つ付くはずだ。そうすれば、後三つで木板から鉄板に昇格する。そうしたら魔獣討伐なんかも請けられるから、もうちょっと頑張ろう。なっ?」

 

 

 冒険者ギルドでは、こなした仕事の実績によって冒険者としての格が上がる仕組みだ。駆け出しの木板冒険者が二十回仕事を成功させれば晴れて鉄板冒険者にランクアップ。木板冒険者では請けられない魔獣の討伐や交易馬車の護衛任務等、仕事の幅が広がる。収入もそれに応じて増えていく。

 

 

 我々がパーティーとしてこの街で活動を始めてから十日。世界の果てを目指すシルヴィアには退屈な日々が続いている。今すぐにでも旅立ちたい若者のシルヴィアと、計画準備を整えてから行動に移したい中年の私の間で、小さな壁が出来つつあった。思い立ったら即実行!若者らしい活力に溢れるシルヴィアには、この単調な生活が苦痛であるらしい。

 

 

 「……鉄板になったら仕事を選ばせてくれるか?」

 「……いや、シルヴィアは無謀な仕事を請けそうだしな……」

 

 

 私がそう言うとシルヴィアが奇声を発して頭を抱える。……ちょっと意地悪だったかな?シルヴィアは蹲り、涙目で私の顔を見上げる。

 

 

 「……わかった。確かに薬草採集ばっかりじゃあ退屈だもんな。次の仕事はシルヴィアが選んでいいぞ」

 「本当か!?」

 

 

 シルヴィアは勢い良くその場に立ち上がり、満面の笑みで私を見る。……私も甘くなったものだ。苦笑を浮かべて彼女の様子を見ると、魔獣討伐……やら、西の塔を……と何やら物騒な単語を口にしている。

 

 

 「……選ぶのは勿論、木板掲示板の仕事だからな?」

 「なっ……!?そ、それでは、今と殆ど変わらないではないか……!?」

 

 

 シルヴィアは目を見開き素っ頓狂な声を上げる。我々は木板冒険者だ。仮に上級依頼を軽々こなす実力があっても、残念ながらその依頼を請けることが出来ないのだ。

 

 

 「まぁ木板掲示板にも面白い依頼が色々あるぞ?食用獣の採集とか……」

 「我はもっと活躍したいのだ!魔獣討伐とか!困ってる民を救うとか!!!」

 「じゃあ鼠の駆除なんてどうだ?討伐だし、困ってる人も助けられるし……」

 「そんなんじゃないのだ~~~!!!」

 

 

 もうっ!もうっ!と私の胸をポカポカと叩く。最近では力加減を身につけて、叩かれても作業服の反応装甲が展開されることはなくなった。シルヴィアは着実に人間としての常識を身に付けつつある。



 「なぁシルヴィア……俺はな、シルヴィアのことを強くしてやりたいんだよ」

 「……どういう意味だ。我はもう十分強いぞ!ラーベも我の実力を知っておるだろう?」

 

 

 シルヴィアの頭を撫でながら優しく説く。

 

 

 「確かにシルヴィアは強い。その強さがあれば、あっという間に金板冒険者……一流の冒険者になるだろうな」

 「うむ……我は森の一族の最強だからな……で、ラーベよ、それがわかっていて、何故こんな草むしりばっかりさせるのだ……」

 「……今のままだと、シルヴィアはすぐに一流になる。でもな、一流止まりの冒険者になってしまうんだよ」

 

 

 私の胸から離れたシルヴィアは、困惑した表情を浮かべる。私はその場に座り込み、地面を叩いてシルヴィアにも座るよう勧める。……胡座の上に座られると足が痺れるのだが、まぁいい。

 

 

 「“一流”と、“超一流”の違いがわかるか?」

 「ちょう、いちりゅう……!?」

 

 

 私の口から思ってもみない単語が出たことに、シルヴィアは驚いた声を上げる。うんうんと唸るシルヴィアには、その違いを理解するのは難しいようだ。私は今までの軍人としての経験から得た見解をシルヴィアに説明する。

 

 

 「一流はな、戦場の空気を作るんだ」

 「戦場の空気……?」

 「そうだ。どんな窮地に追い込まれても、この人がいれば大丈夫、俺達は勝てる!そう思わせる空気を作れる者が、一流と呼ばれる者なんだ」

 「じゃあ我も、その一流になるぞ!」



 立ち上がったシルヴィアは右手を天に掲げて大声で宣言する。立ち上がった瞬間にぶつけられた顎が痛い。涙目になって顎を擦りながら話を続ける。

 

 

 「まぁ落ち着け。で、超一流はだな……戦場を支配するんだ」

 「戦場を支配……!?なんだそれ!?無茶苦茶、無茶苦茶格好いいではないか!」

 目を爛々と輝かせてシルヴィアは言う。どうやら、頭を私の顎にぶつけたことには気付いていないようだ。



 「天候、地形、兵の状況……様々な要素を広い目で観察する。新兵の状況は?怯えている者はいないか?浮足立っている者はいないか?突出している部隊はないか?敵軍の情勢は?……戦況を点ではなく、線、面、立体的に把握する。攻める時に攻め、引き際を誤らない。そして部隊を勝利に導く。将器の器。戦場の絶対者……それが超一流だ」



 シルヴィアは綺羅綺羅した目で私の言葉に頷く。両手は固く握られふるふると震えている。

 

 

 「なるぞ……我は、戦場の支配者に……超一流に!!!」

 

 

 感極まった口調でシルヴィアは高らかに吼える。低下したモチベーションも、どうやら持ち直したみたいだ。

 

 

 「あぁ、そのためにはまず、新兵の気持ちを理解しないとな」

 「新兵の気持ち……?」



 私は立ち上がり、ズボンに付いた土埃を払いながらシルヴィアに言う。

 

 

 「とりあえず……草、むしろうか」

 

 

 シルヴィアは口をへの字に曲げ、大きく地団駄を踏んだのだった。

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