衝撃の事実
変態の血は柚にも渚にも流れてる
いいですなあ
「疲れた……」
夕食を終え、風呂に入って自室に戻る。
ベッドの上で脱力するように大の字になると、自然と消え入るような声が漏れた。
あのあと、渚姉からは「なにかあったの?」って何回も聞かれるし、夕飯の時間は柚が変なこと口走らないか気が気じゃなかったし、美咲には約束したメール全然しなかったから、逆に心配のメール送られたのち怒られるし。
「……美咲」
まだ感触が残っている気がするくちびるにそっと指を触れる。
ほんらいなら、今日は一日中幸せで浮かれた気分で過ごすはずだった。
夕飯の時はニヤニヤしながらご飯ぼろぼろを落としたりして、両親から彼女とキスしたことがばれそうになったり、いろいろ妄想してたら長風呂になって速く出ろってどやされたり。
そして、美咲と互いに照れくささが伝わるメールをやり取りしてたはずなんだ。
そんな俺が経験するはずだった時間が全部吹っ飛んでしまった。
柚の衝撃的な本性を知り、なんとかピンチは乗り切ったけど問題はどう考えても先送り状態。
『初抜きベスト』はなんとか隠せたけど、渚姉からは柚との間になにかあったんじゃないかと疑いの目を向けられた。
そりゃそうだ。柚が目を真っ赤にはらし、俺が狼狽気味に「いません!」なんて意味不明な返答を繰り返したのだ。怖い夢で泣いただけなんて普通に考えて納得できるわけがない。
無理やりに突破したが、全身やけどに加えて、全身骨折まで負ったようなものだった。
「渚姉と、ぎくしゃくしなきゃいいけど……」
はああと大きなため息が出る。
……あれなら、まだアダルトビデオはあえて隠さないで見つかったほうがよかったんじゃないか?
もちろん柚とのあのことにはなにも言及せずに、全部『初抜き』のせいにする。
「伸くん!! 柚となにかあったの!?」
「……ごめん渚姉。これを柚に見られちまったんだ」
「こ、これって……え、エッチなビデオ!?」
「う、うん……」
「伸くん、さいってい!! もう話しかけないで!!」
うん、こっちのほうがまだマシな気がするぞ。
柚とあんな経験したら、たいていのことがなんともないことのように思える。
俺、図太さという面で精神的にかなり成長したんじゃないか?
あとは毎日誠実な対応をして、少しずつ信頼を取り戻して……。
……いや、でも待てよ。冷静に考えてみるとAVのパッケージを見られただけで、あんなに号泣した顔になるなんてちょっと苦しいんじゃないか?
「……でも、これであんなに目を腫らすほどに泣いちゃったの?」
「あ、いや、それは……」
「ほかにもなにかあるんじゃないの!?」
「……じつは、これを見ながら」
「え、エッチな映像も見られちゃったの!?」
「これを……(ぼろん)」
「って、きゃあああああ!? 伸くん、いったいなにを出してるの!?」
「こうして、いじってるところを見られちゃったんだ」
「伸くん、超さいってえええい! 苦しんで死んで!!」
……う、うん。これなら号泣の理由にも真実味があるし、これからずっと今日のことをひた隠したまま、渚姉と微妙な感じになるよりはよかったんじゃないか?
あとは、いばらの道だろうと一歩ずつ信頼回復の道を進めばいい。
よし、さっそく渚姉を部屋に呼んで今の台本で――
――って、さすがにねえよおおおおおおおおおおおおお!
いくら現在少々混乱気味の俺でも、これは確実に人生破滅するやばい選択肢だってわかるぞ。
べ、べつに渚姉に軽蔑された目で罵られたらちょっと興奮するかもなんて、全然考えてないぞ!
今夜見る夢はこんなのがいいなとか、一瞬たりとも考えてないからな!!
だいいち、これを実現するためにはとんでもなく高い壁が存在する。
そう、あのAVを渚姉に見せなきゃいけないのだ。
それだけは絶対にダメだ! それだけは避けなければならない。それだけは……。
……ん? そういえば、俺なんかすごい大事なことを忘れてるような……えーっと――
「お兄ちゃん! 入っていい?」
「――ゆ、柚か!? お、おう。いいぞ」
もう少しでなにか重要なことを思い出せそうだったのだが、ドアのノック音で霧散する。
ベッドの上で身を起こすと、柚がおずおずと気恥ずかしそうにして入ってくる。
その姿に少しだけ胸をなでおろす。
柚だって、夕方のハプニングについて歯牙にもかけないとまではいかないのだ。
もしかしたら俺の動揺に比べれば足元にも及ばないのかもしれないけれど、それでもそのちょっとだけれども常識人っぽい反応が、妹のことをきっと理解できる相手であると信じさせてくれた。
柚の服装は先ほどまでと変わってなかった。つまり、まだ風呂には入っていないようだ。
まあ、俺が出てからそう時間は経っていないので、当然と言えば当然なのだが。
ということは、タイミング的に俺が風呂から出るのを待っていたということだろう。
俺は胡坐をかいた姿勢で待つと、妹はベッドの前で足を崩して座る。
「どっこらせ!」
「おっさんか!?」
「……だってお父さんの口癖なんだもん」
「たしかに父さんはよく言ってるけど、柚から聞いたことなんてないぞ!」
「……油断してると出ちゃうの。一人の時とか。……今はお兄ちゃんしかいないから」
「そ、そっか」
なんか、嬉しい。
つまり、俺の前では油断できるということなんだろう。
照れ隠しに、ぽりぽりと頬をかいてしまった。
なんか妙な空気になってしまったので、仕切り直す。
「そ、それで! なんか用か?」
「う、うん。お兄ちゃんを安心させてあげようと思って」
「安心?」
なんのことだろうか。いや、十中八九夕方の出来事に付随するものだろうけども。
俺のことは憧れだと気づいたとか、せめて先送りになった願いの内容が単純で簡単なものならすげえ安心できるんだけど。
「お兄ちゃん、ずっとご飯の時心配してたでしょ?」
「心配?」
「わたしがあのことについて、なんか話すんじゃないかって」
「お、おう……ばれてた?」
「バレバレ!」
俺は昔から顔によく出ると言われてきた。
恥ずかしいことが起きるとすぐ顔が赤くなるし、隠し事とかもあんまり得意ではない。
ポーカーも七並べもババ抜きも大嫌いだった。神経衰弱バンザイ。
夕飯の時もかなり気を付けてたんだけど、もしかしたら両親もなにかあったことくらいは察してたんだろうか。
「そ、そっか」
「だって、お兄ちゃん緊張気味の顔でずっとチラチラわたしのほう見てるんだもん!」
「は、はは。控えめにやってたつもりだったんだけど」
「女の子って自分に対する視線に敏感なんだよ? スケベな目で見てくる男子なんて一発なんだから」
「そいつはどこにいる? 殺してくるから教えろ」
手をバキバキと鳴らす。
俺は多少力には自信があるんだ。
妹に不埒なことをしている輩は抹殺する。
「お、お兄ちゃん! 待って、待って! 安心して! わたしのガードは完璧だから! 誰にもおかずは提供してないから!」
「お、おかずって……」
「だから、安心して?」
「ま、まあ柚がいいならそれでいいけどさ」
「お、お兄ちゃんが怒ってくれたことは、嬉しいけどね!」
そういうと、柚は頬を染めて顔を目いっぱいほころばせた。
あらためて見ても、やはり柚は美少女だ。
大きな一点の濁りもない美しい双眸にさらさらと長いまつ毛。
鼻も高く、ぷるんと震えるくちびるも含めて、小顔のなかで完璧なバランスを保っている。
そして透明感のある可憐な声音がその美貌をさらに引き立たせるのだ。
信じられるか?
こんな美少女が俺の妹なんだぜ?
しかもまだ小学五年生なのに、AVガン見してんだぜ!?
恥ずかしげもなく『おかずの提供』とか言っちゃうんだぜ?
あっはっは、わけわからなすぎてすげえだろ!
そうだよ!
もう、やけくそだよこんちくしょー!!
「……んで、安心って? まさか、俺がこんな反応することまで予測して、ガードが完璧だから安心! って、話に来たわけじゃないよな!?」
「あ、当たり前でしょ! エスパーじゃないんだから! まったく別の話だよ」
「ま、まあ、そりゃそうか」
幸せそうに笑う柚をずっと見ていたい気もするけど、このまま話の先促さないときりないからね。
ただ、写真を撮ってからにすればよかったと今かなり後悔中。
「わたしが夕方見せたこの顔のことだよ。お兄ちゃん以外の人には見せるつもりないから安心して」
そう言いながら、また小悪魔みたいにニヤリと微笑む。
そう、柚は夕方俺の部屋から出て以降、こういった表情を全く出さなかった。
渚姉の前でも、両親の前でも。
それこそ、俺が今朝まで信じていたまさに天使の柚がそこにはいたのだ。
「……どっちが、本当の柚なんだ?」
「え?」
「家族の前でのおまえと、俺と二人きりの時のおまえと、どっちが本当なんだ!?」
「どっちもだよ、当然じゃん」
不敵に笑うと立ち上がり、俺に抱き着いてくる。
「柚!?」
「お兄ちゃんが信じてた、純情な柚もわたし。今ここにいる、早くお兄ちゃんとつながりたくてしかたない柚もわたし」
「んなっ!?」
柚が俺の首に舌を這わせる。
チュル、チュル、ぴちゃと官能を刺激する水音が響く。
「――や、やめろ!!」
「ふふっ。ファーストキス、首に捧げちゃった。お兄ちゃんの首、お兄ちゃんの味がしておいしかったよ」
なんとか柚を引きはがす。
そこには恍惚とした顔でペロリとくちびるを舐めまわす妹の姿があった。
「な、なんでおまえ」
「わたしはね、お兄ちゃん以外の相手なら純情な柚でいられるの。……違う逆か。もともとの純情な柚が、お兄ちゃんに関することではエロくなってしまう」
「でもおまえ、家族がいるときは――」
「必死に我慢してるんだよ。今みたいにお兄ちゃんにしゃぶりつきたくなるけど、必死に我慢してるの。でもこれって、普通のことじゃない? どんだけ変わった性癖を持ってても、それを昼間ほかの人の前で話す人なんて滅多にいないよね? わたしは、普通だよ。ほんのちょっと、ほかの人よりこういうことに本格的に興味持つのが早かっただけで」
「……やっぱりおまえがそうなってしまったのは、俺のせいなのか?」
「うーん。もちろんお兄ちゃんとしかしたくないから、お兄ちゃんがそもそもの原因だけど」
柚は指で自分の顎をトントンと叩き、考えをまとめながらといったふうに言葉を紡ぐ。
「わたしがお兄ちゃんとこうしたいんだって認識したきっかけは、べつのことかなあ」
「なんだよそれは!? もしかして、小学校での性教育が生々しかったのか!? 消したほうがいいか!?」
「消さないで消さないで! 小学校で習ったのは、卵子と精子がみたいな生命の誕生的なやつだから」
「そ、そっか」
ほっと、一つ息をつく。
とりあえず、小学校にド変態教師がいたわけではないようだ。
近ごろは、ロリコン教師の話題でニュースも持ちきりだからな。
ひとまずは安心だった。
「じゃ、じゃあなにがきっかけなんだよ?」
「べつにそれがなくても、遅かれ早かれわたしはこうなってたと思うし」
「いいから、はやく言え!」
「うーん」
柚はどうしようかと本気で悩んでいるようだった。
そんなに言いづらいことなのだろうか?
たっぷり百二十秒は数えるくらい唸っていたが、ようやく口を開いた。
「絶対に怒らないって約束できる?」
「い、いやこれに関しては善処するとしか」
「約束して!」
「………………わかったよ」
原因がまだわからない以上、怒るかどうかなんて俺にもわからないのだがな。
でも、了承しないと教えてくれないようだから仕方ない。
まあ、柚が怒らないでと念押しするってことは、そこまで酷い理由でもないのだろう。
「あのね、わたしがこうなったきっかけは、お父さん」
「ぶっ殺す!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
次の瞬間には、俺は部屋を飛び出していた。
これだけは書いておきます
基本巌さんは家族サービス大好きないいお父さんです
あらたにブックマークしていただいたかた、評価していただいたかた、本当にありがとうございます!
本当にはげみになります!