そんなの俺が許さない!!
兄妹の関係が一歩前進です
というより底なし沼への一歩かも
こうして俺は、AV鑑賞中の妹と鉢合わせし、
「はやくエッチなこと……教えて? それで、わたしの気持ちが本物だってわかって?」
今、まさに窓際へと追い詰められているのだ。
「柚、落ち着け、な? 頭に血が上った状態でやっちまったことなんて、総じて冷静になったときに大後悔することになるんだよ!」
「だーめ。それにわたし、冷静だよ? 気持ちは大激怒中だけど、頭は落ち着いてる。落ち着いて、こうしないとお兄ちゃんは信じてくれないと判断したの。それに……」
「……それに?」
「わたしはお兄ちゃんとエッチしても、絶対に後悔しないよ」
顔を淫らに崩した笑み。
興奮していることが一発でわかる、淫靡な雰囲気。
俺は悟った。
もうこれ以上は駄目だと。
この場を切り抜けるには、たとえ嘘つきになってもあの約束を破棄するしかないと。
柚にはいまだに癒えない心の傷があるから。
だから、絶対に約束は破らない。
そう、あの日、柚と約束したのに。
だけど、ここで柚の希望を叶えてしまったら、絶対に互いにもっと後悔することになる。
柚の未来だけは護るんだ――
「……それとも」
苦渋の決断をして柚の要求を突っぱねようとした瞬間、柚はうつむく。
「お兄ちゃんも約束を破るの? ……お母さんみたいに」
「……柚」
柚が俺の前で初めて大声で泣いたあの日。
俺が柚の心の傷を絶対に治すと決めたあの日。
もちろん、できればたがえたくはない。
でも、もう俺に残された選択肢は少ない。
俺がもっとうまくやっていれば、ほかのルートに抜けられたのだろうか?
それとも、俺が柚と仲良くなろうとした時点で、決まっていた終点なのか。
――その言葉を二度とおまえに言わせたくなかった!
「……わかった、もういい」
俺がいつまでも先の問いに答えられないでいると、柚はズリズリとベッドから下りながらそう呟く。
「もう、ほかの人で試すから」
「……なんだと?」
妹が紡いだその不穏な一言に、反射的に怒りの感情が零れる。
柚は俺が初めて見せる姿に少したじろぐが、すぐに気持ちを入れ直す。
「だって、しょうがないじゃん! わたしがお兄ちゃんとしたいのは、相手がお兄ちゃんだからなのか? それともわたしがエッチな女の子で、ただ単にそういうことに興味があるだけなのか? 一度試してみないと、お兄ちゃんに対するこの感情が本物なのかどうなのかもわからないじゃん! でも、お兄ちゃんは協力してくれない! ならほかの男として、嫌な気持ちになるかどうかで――」
「そんなの俺が許さないからな!!」
自棄になってるとしか思えない妹の両肩を掴み、俺は叫んでいた。
「いっ、痛」
「柚!! 俺はおまえがそんな理由でどこかの男に体を許すなんて、絶対に許さないからな!! 仮にそれがおまえを拒否したせいだったとしても、絶対に許さないからな!! 俺はおまえがおまえ自身や、おまえのことを大切に思ってくれてる人を傷つけることは絶対に許さないからな!! わかったか!!」
心の底から出た咆哮。
人生で一番の怒声。
こんなに真剣に誰かを叱ったのも初めてだ。
「……お兄ちゃん、肩、痛いんだけど」
「あ、ああ! ごめん」
ポツリと呟いて、柚が一分くらいの沈黙を破る。
「お兄ちゃんの気持ちは、伝わったよ」
「そ、そうか。わかってくれたか!」
やっぱり心からなんの飾りもなく飛び出した言葉は、伝わるのだ。
なんか恥ずかしそうにモジモジしてるのが気にはなるが、俺はたどり着くはずの終点の直前で新しいルートを切り開けたのかもしれない。
「お兄ちゃんが、わたしをほかの男に抱かせたくないって」
「なんでそうなる!?」
「……違うの?」
「いや、完全に違うわけじゃないんだけど、どうもニュアンスが……」
あれ、なんかミスってないか?
哀しそうに「……違うの?」なんて聞かれたから、反射的に違うわけじゃないなんて答えちゃったけど。いや、でもやっぱり完全に違うわけでもないし……
「ふふっ。今回はお兄ちゃんの気持ちがわかっただけで、よしとしといてあげる! お願いは、また違うの考えるから」
「いや、ちょっと待て! 話は終わってないぞ!!」
うーんと唸っている俺をよそに、柚は勝手に納得して話をまとめにかかる。
「でも、そろそろそれ隠したほうがいいんじゃない? そろそろお姉ちゃんも――」
「ただいまー」
「ほら、帰ってきた」
いつの間にかホットパンツを履き終えた妹が指さしていたのは、出しっぱなしになっているAVの数々。
友達が貸してくれた、『佐々やんの新居での初抜きベストコレクション』という頭の悪いネーミングだけど、最高に素敵な珠玉の作品たちだ。
さっきまで柚が見ていたやつも、その中の一本だった。
「柚ー! 伸くんー! 二階にいるのー?」
「い、いません!!」
「……いや、いるじゃない!」
「いるけど、いないんです!!」
支離滅裂だとはわかるが、本当に焦っている時なんてこんなもんだ。
「あ、そういえば、一つ断っとくけど」
「なんだよ!?」
あたふたしている俺に、柚がニンマリとした顔を向ける。
「何があろうと、わたしがお兄ちゃん以外の男に体を触らせるわけないじゃん」
「だから、べつに俺は触らせてほしいわけじゃ……って、もしかしておまえ、さっきの誰かに抱かれるって」
「そんなの、嘘に決まってるじゃん! ほかの男とするとか寒気がするよ」
「最初から俺を騙すつもりで――」
「そのおかげで、お兄ちゃんも自分の本心に気づけたでしょ? 名女優に感謝してね」
「だから、なんか勘違いしてないか?」
「してないしてない! じゃあ、この場は助けてあげるね」
柚は満足そうな様子でくるりと体を翻し、トテトテと部屋から出ていく。
「お姉ちゃんおかえり」
「ただいまって、柚どうしたの!? 目が真っ赤だよ!」
「怖い夢見てたみたいで、いつの間にか泣いてた」
結局なんとか柚が階段の途中で渚姉を足止めしてくれたおかげで、無事にぶつを隠すことはできた。
なんでもの約束とは別に、この働きへのお礼ということで、今週の日曜日を空けるという約束を取り付けさせられるのだが、考えてみればぶつを引っ張り出したのは柚だったとあとで気づくのだった。
次、柚エロエロ化の理由が明らかに。
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