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柚の正体

柚の本性が出てきます

こんな義妹がほしい人生だった

 どれほどの時間が過ぎたんだろうか?

 三分かもしれないし、五分かもしれないし、十分かもしれない。

 永遠のように感じるってこういうことかもな。

 この(かん)、俺はずっと胸を揉みしだいてる妹から視線を外せない。柚も俺からずっと外さない。

 視界の端にチラチラ入ってくるテレビ画面では、相も変わらずアダルトビデオが流れ続き、女優がスク水プレイに突入していた。


(このままにするわけにはいかねえよな……)


 マジで気まずいし、どうしたらいいかなんてわからないけど、ここは年長者の俺が切り出すしかない。

 そう決心をし、生唾をごくりと飲み込んだ。

 そしてたっぷりの時間をかけて、俺はようやくこう言った。


「……ゆ、柚?」


 だああああああああああああああああああああああああ!!

 おい、そこの「そんなに時間かけてそれかよ」とかのたまったおまえ!!

 ヘタレとかしょっぼとか感じたおまえ!!

 おまえらに本当に理解できてんのか!? 今の俺の置かれた状況が!?

 俺は、自分のお気に入りのAVを見ながら胸を揉んでる妹と出くわしちまったんだぞ!!

 しかもその妹はまだ小学五年生で! 

 俺と戸籍上家族になってから二ヶ月くらいで! 

 同居してからまだたったの二週間しか経ってない間柄なんだぞ!!

 そんな妹が「お兄ちゃあああん」って叫びながら、恍惚とした顔してたんだぞ!

 まだ逆なら俺だってもう少しなんかまともなこと言えたろうさ!

 俺がAV見ながら「柚うううぅ」って叫びながらしごいてるところを、急に部屋に入ってきた妹に目撃されたほうがまだ救いがあんだろ!?

 俺が逮捕されるかもしれないし、家族が崩壊するかもしれないけど、そっちのほうがいろいろとマシだろうがああああああああああああああ!!


「お、お兄ちゃん……」


 頭を抱えながら悶えていると、柚はようやく胸から手を離しヘッドフォンを頭から外す。

 妹はヘッドフォンを太ももの上に置き、おろおろするように視線をあちこちさまよわせる。

 よく見ると、肩が少し震えていた。


 そ、そうだよな。俺は自分のこと優先で困惑してるんだからどうしようもねえだろって考えてたけど、おまえからしたらきっともっと困ってるよな。これからどうなってしまうのかって不安だよな。

 大丈夫だ、柚。俺は、絶対に誰にも言ったりしない。二人だけで解決していこう!

 そもそも、小学生でも高学年ならエッチなことに興味も出るよな?

 アダルトビデオは早い気もするけど、エッチな漫画とか読みたくなるよな?

 「お兄ちゃん」って叫んでた部分はゆっくり話し合いが必要だろうけど、きっと大した壁じゃないさ。

 俺はこれを乗り越えて、おまえと世界一の兄妹になるとここに誓うぞ!

 

「……柚」

 

 さあ怖がらないで、俺の手を取って――


「スク、水に、……着替、える?」

「着替えんなあああああああああああああああああ!! 羞恥心感じてますみたいな顔もやめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 駄目だ、駄目だよこんちくしょー。やっぱそんな単純には解決しそうもねえよこれ!!

 父さん、母さん、渚姉。助けてください。

 さっきの決意、もう心が折れてしまいそうだ。


「えー、着替えないの? でも、わたしまだ小学生だから制服は持ってないし……」

「着替えさせねえよ! だいたい、なんでそんな話になってんだよ!」

「だってお兄ちゃん、制服プレイの時は何も言わなかったのに、水着プレイになったら話しかけてくれたから、……そ、その、我慢できなくなったのかなって」

「とんでもない勘違いしてんじゃねえ!」


 え、なんなのこの子。小学生って、こんなにぶっ飛んだ思考するもんだったっけ?

 小五病やべえ。中二病とか足元にも及ばねえ。

 ねえ、この子は誰なの? 俺の天使だった柚はどこなの? 純情ピュアだった妹はどこに……。


「えー? せっかくついにこの時が来たって、体が震えるくらい嬉しかったのに」

「肩震わせてた理由それかよ!!」


 もう駄目だ。頭痛い。


「……とりあえず、これ消すぞ」


 口をとがらせて、これでもかと不満をあらわにする妹。

 その横に転がっていたリモコンを持って、スク水乱交中の女優といったんおさらばする。

 ごめんな。あとで絶対迎えに行くからな!


「……んで、なんでこんなことしたんだ?」

 

 これでもかと深いため息をついて、ベッドにどかっと座る。

 女優の痴態が消え、完全に二人だけの空間になる。

 時折外からバイクの音が聞こえるだけの、夕方独特の落ち着く時間。

 そのおかげなのか、俺も少し冷静さを取り戻せていた。


「お兄ちゃんの、好みを知るためだよ!」

「はあ!?」


 柚はにっこりと微笑む。それは、俺の知ってるいつもの妹のものだった。

 そう安心したのもつかの間、


「なに驚いたふりしてるの? もう全部見たのに、いまだに気づかないなんて鈍感は許さないよ」


 今度は小悪魔的でどこか冷淡さを感じさせる表情。


「わたしは、お兄ちゃんのことが大好きなの! 愛してるの! だからお兄ちゃんのこと全部知りたい。好きなものも、嫌いなものも、それから……」


 ニヤリと笑う。


 「性癖も」

 「んなっ!?」


 いったい、今時の小学生はどうしちまったんだ。

 俺が小学生のころなんて、もっとお馬鹿な話で盛り上がって、『うんこ』とか『おっぱい』みたいなことでみんなで大笑いして。そんな感じだったぞ。

 たしかに現代は少女漫画も過激になってみたいな報道を見たことがあるし、俺の頃よりもだいぶ進んでるのかもしれないけど、さすがにこれはねえだろ。

 ……それとも、俺らの時も女子はこんな感じだったのか!?


(……いや、今はそんな昔のこと関係ねぇ。今俺が考えなくちゃいけないのは、目の前にいる柚のことだけだ)

 

 再び鈍痛を感じた頭を振って気を入れ直し、また一つ息を吐く。


「……柚ももう年頃っちゃ年頃だし、エロイことに興味がわくことは仕方がない。正直、AVはまだ早すぎると思うけど、いったんそれは置いておこう」


 柚は表情をそのままに肯定も否定もせず黙ったまま、俺に先を促す。


「でも、おまえが俺に感じている好意は勘違いだ」


 刹那、柚の顔色が一変した。

 それは、初めて見る彼女の怒りだ。

 いつもの「ぶぅ」なんてほっぺを膨らましてるものがじゃれてるだけだと再認識させられる、本物の怒り。

 だが、俺は構わず続ける。

 柚にとって本気で大事なことだと思うから。


「おまえくらいの年頃だとよくある。ちょっと年上の人が近くにいると、好きだと思っちまうんだ。俺も小学生の時、同じ団地に住んでた高校生の姉ちゃんに好きかもしれないみたいなことを思ってた。でも、今ならわかる。あれはただの憧れだってな」


 柚の体が怒りで震える。

 でも、俺はそんな妹から目をそらさない。


「柚が俺に感じているのもそれと同じだ。おまえは、いきなり近くに現れた年上のお兄ちゃんに憧れてるだけだ。もちろん俺としては、柚と仲良くなりたいと思ってるからその気持ちは嬉しい。光栄だ。でも、憧れを好きと勘違いしたまま、それをエロイことと結びつけんのは駄目だ。それで俺といろいろやっちまったら、柚は絶対に近い将来後悔する。美咲と出会って、本当の初恋をした俺だからわかる」

「お兄ちゃんに、わたしのなにがかわるの!?」


 美咲の名前が最後の引き金だったのか。

 それまで座ったまま聞いていた柚は勢いよく立ち上がると、腹から怒号を張り上げる。

 窓がビリビリと震える。部屋のドアは開けっぱなしなので、もしも一階に誰かがいたら確実に聞こえてしまう声量。というか、外に聞こえているかもしれない。


「お兄ちゃんが昔どんな勘違いしてたかなんて、わたしには全然関係ない!! お兄ちゃんの感情が勘違いだったんだとしたら、わたしのこの感情とは違う!! わたしはお兄ちゃんが大好き!! 一人の男性として愛してる!! この感情はわたしだけのもの!! わたしだけがわかるもの!! 誰にも邪魔させない!! 誰にも奪わせない!! たとえそれが、大好きなお兄ちゃんだったとしても!!」


 喉がつぶれてしまうんじゃないかと心配するほどの大声で、柚は堰を切ったように一気にまくしたてた。

 肩を大きく上下させ、「はあ、はあ」と、大きな呼吸を繰り返す。


「……柚――!?」

「――ふっ、ふえええええええ」


 ぼろぼろと溢れ出る大粒の涙。

 服の袖で何回拭っても次から次に零れていく。


「ゆ、柚」

「こないで!!」


 ベッドから立ち上がって駆け寄ろうとするが、即座に拒絶される。

 

(……嫌われちまったかな)


 またベッドに腰かけて、自虐的にふっと笑う。

 今でも俺の考えが間違ってるとは思わない。

 きっと柚の俺に対する感情は本当の恋ではなくて、少年少女だけが見る淡い蜃気楼みたいなもんで。

 でも、俺も当時誰かに同じようなことを言われたら、怒ったかもしれない。悔しくて泣いたかもしれない。

 柚のこの反応は、当然のものなのかもしれない。

 ――けれど……。


 柚はまだ泣き続けている。

 

 俺は窓の外の夕焼け空に視線を移す。

 やっぱり柚の行動は行き過ぎてた。

 もしもこのまま放置してたら、きっともっと過激なことをやり始めた。その時に拒否したなら、今付けた傷よりも深い傷になったはずだ。

 だから、今日嫌われたのはきっとベターだったのだ。

 もっと子供や女性の扱いに慣れてる人ならベストの答えを出せたのかもしれないけど、まだ童貞でついこの間まで一人っ子の俺にはこれが限界だった。


(本気でこの世で一番仲のいい兄妹になりたかったのにな……)

「……そのまま待っててね」

「……は?」


 パサリと衣擦れが聞こえたほうを見ると、泣き止んだ柚が履いていたホットパンツを床に脱ぎ捨てていた。

 Tシャツの下に、裾で隠しきれないショーツが顔をのぞかせている。


「ばっ!? な、なにやって!?」

「お兄ちゃん、約束したよね? なんでも一つ言うこと守るって」


 柚は一歩ずつ俺に歩み寄る。


「い、言ったけど――」

「じゃあ、わたしとエッチなことして?」

「何言ってんだ!? 変なことはお願いしないって――」

「変なことなんて言ってないよ。わたしは酷いことは頼まないって言ったの」

「そんなん屁理屈じゃねえか」

「屁理屈でもいいよ。エッチなことしてくれるなら。……だって、もうこうしないと信じてくれないよね?」

「な、なにが……」


「わたしのこの感情が。お兄ちゃんを愛してるって感情が。勘違いじゃなくて、偽物じゃなくて……本物だってこと」


その時、美しい夕日に照らされた柚が見せた表情は、俺がこれまでの人生で経験した中で一番淫猥なものだった。

なんで柚はエロくなってしまったのか

その理由をそろそろ書きます

次かその次か

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