美咲
彼女登場です
こんの糞リア充野郎って感じですねー
ブックマークしてくださった方ありがとうございます!
本当励みになります
伸一の登校はまず十分ほど自転車に乗って最寄駅へ。そこから電車で十五分ほど揺られる。ここまではいいのだが、高校から一番近い駅から徒歩で三十分もかかってしまう。
ということで、現在は登校に片道計約一時間要している。
両親は通学用にもう一台自転車を買ったらどうかと勧めてくれたが、なんか申し訳ない気がして断ってしまった。正直、断ったこと直後は少しだけ後悔したものだが、それもすぐに霧散した。
「美咲、おはよ!」
「うん、おはよう、伸一君」
そう、そのことを伝えたら、
「じゃあ、わたしも一緒に歩いていくね!」
と、柔らかい笑顔を返してくれたからである。
そもそも、この高校は俺の地元付近だった。
俺の地元は、今利用してるこの駅よりもさらに一つ先の駅だった。
そこは駅の周辺をほとんど団地やマンションが埋め尽くすような場所で、その中の安い賃貸団地に住んでいた。
俺が今の高校を選んだ理由は三つだ。
授業料無料の公立高校。
自宅からそこそこ近い。
バイトを禁止していない。
引っ越す前は自転車通学で十五分だったこの高校は、俺が求めたすべての条件を満たしていた。
ちなみに、今住んでいるところは柚たちの地元のままである。
家族が五人になるということで新しく一軒家を探すことになったのだが、当初は佐々木家と杉村家の中間あたりの駅にしようかという話になっていた。
でも、俺がそれを遠慮した。
駅変を伴った転居の場合、高校生の俺や渚姉は登校にかかる時間が変わるだけだが、小学生の柚は転校を余儀なくされる。
仲良しの友達や四年も一緒に過ごした同級生たちと離れてしまうのは、可哀そうだと思ったのだ。
そこに父さんの通勤時間が増えてしまうという理由も付け加えて、俺が両親を説得。
その結果、無事に柚が転校しなくていい場所で賃貸の一軒家を見つけ、俺は今の登校生活に変わったのだ。
「じゃ、じゃあ行くか」
「う、うん」
まだ少しぎこちない感じで左手を差し出すと、美咲は頬を少し染めながらその手を取る。
付き合い始めて、まだ二ヶ月くらい。
少しずつ二人で歩んできて、ようやくここまで来れた。
初めて手をつないだ時なんて、自分でもわかるくらいに顔は真っ赤、手汗でぐしょぐしょ。
そのころから比べたら、俺もかなり進んだものだ。
ちらりと美咲のほうを見ると、いつも通りのポニーテールを首下あたりでぴょこぴょこ揺らす。
(ほんと、可愛いよなあ)
彼女の可愛い横顔に、自然と頬が緩む。
俺の彼女――春日美咲は、俺と同じ高校二年生。
今までのくだりでわかると思うけど、同じ高校に通っている。
彼女の地元はこのあたりで、この高校に決めたのは、小さいころから制服が可愛いなと気に入っていたからとのことだった。たしかにどこにでもありそうな何の変哲もない男子のブレザーに対し、鮮やかな紺に細い水色と白のチェックが入ったスカートと同じデザインのリボンがチャームポイントな女子の制服は、ものすごく可愛らしいものだった。
美咲の身長は俺の首下くらいまである。俺が170cmくらいなので、女子の中では高いほうだ。
目鼻立ちは整っており、可愛いと美人の中間くらいか。
プロポーションもよく、出るところは出ている。だから、たびたび目のやり場に困ることもある。
思春期真っただ中の童貞を甘く見てはいけない。つい、なんでもないようなことですぐに下半身が反応してしまうのだ。
ただ、最近はさらにすごい身体を持った姉ができたため、少しずつだが慣れてきている。
ということで、美咲は学校一のアイドルとまではいかないが、クラスで二番目くらいに可愛い女の子。そんな感じだ。
まあ、周りの評価なんてどうでもいいけどな。
俺にとっては美咲が一番なんだから。
彼女と出会ったのは一年前、高校の入学式の日だ。
振り分けられたクラスに入った瞬間、目に飛び込んできたのが、ほかの女生徒と屈託のない笑顔で話す美咲の姿だった。
完璧なひとめぼれ。そしてこれが俺の初恋だった。
それからは頑張って話しかけ、だんだんと仲良くなり、そして紆余曲折の末今年のバレンタインから付き合い始めた。
二年でクラスが別れてしまったが、こうして毎日一緒に登校し、休み時間にちょくちょく会い、昼食は絶対に一緒に食べる。
だから寂しくなんかない。もちろんクラスが違ってしまったことは残念だけども。
でも、間違いなく今は我が人生の春!!
そんなことを考えながら歩いていると、
(……ん?)
通学路の途中にある大きな公園で、美咲の顔が普段より少しだけほてっているように見えることに気づいた。そういえば、いつもより口数も少ないし、つないだ手も本当に微妙だけれどもいつもより熱を帯びているように感じる。この段階では気のせいかもしれないとも思っていたのだが、
「こほこほっ」
「……美咲、おまえ」
そのなんとか抑えようと控えめに飛び出した咳を聞いて、彼女の体調が悪いことに気づいた。
「風邪か?」
「ち、違うの。風邪って言っても全然軽いやつだから! ちょっと薬飲んで、いつもどおりにしてたらすぐに治るくらいの――」
「今日のデートは中止な」
「……そんなぁ」
必死に身振り手振りで大丈夫アピールする美咲に、俺は問答無用でそう宣告する。
美咲はその言葉を聞くと、これでもかとがっくりとうなだれ落胆してしまう。
「だって、今日は週に一度の部活休みの日で……せっかく楽しみにしてたのに」
美咲は水泳部に所属している。
特段強豪というわけでもないのだが、そんな中で彼女は去年はホープ、そして今年はエースとして部を引っ張っている。今年は、もしかすると関東大会出場のための基準記録を切れるかもしれない。
美咲は部の期待を一身に背負っているのだった。
「楽しみにしてたのは俺も一緒だ。でも、美咲の体のほうが心配だ。それに、これ以上悪くなったら部活にも支障が出るだろ? これから、大切な時期だろ?」
「……でも、でも」
「春の風邪は長引く。だから引き始めが肝心。昔から言われてることだろ?」
「むぅ」
なんとか今日のデートを復活させようとする美咲だが、俺は正論の連発でことごとくそれをブロック。追い詰められた美咲はとうとう拗ねてしまった。
俺はやれやれとため息を吐くと、こう提案する。
「帰りに家まで送ってやるから、な? それが今日のデートってことで」
でも、美咲は首を縦に振らない。
もう少しなにかオプションを付けないとダメかなあなんて思案していると、
「ゆっくり、ゆーっくり歩かないとだめだよ?」
そう、彼女がつぶやいた。
「わかった」
「あと、あと、ソフトクリーム食べたい」
今度は上目遣い。
「わかったよ。いつもの店な」
駅前の商業施設の中にある、ソフトクリームを売ってるお店。うち含めた周辺の小中高生に人気の店だ。
そこならべつに美咲の家まで遠回りになるわけでもないしいいだろう。
「イチゴとメロンね」
「二つも食うのかよ!? それは、さすがに体冷えるしダメだろ!」
「違うの! わたしがイチゴ! でもメロンもちょっと食べたいから、伸一君がメロン」
「いや、俺は普通に牛乳ソフトが……」
「だめー! 伸一君はメロンなの」
「マジかよー」
こうしてそんな他愛ない会話をしながら、二人で高校に向かったのだった。
次は短いです
もう少しでプロローグの場面につながるところまで来ます