朝の日常1
朝の日常風景です。
こんな姉妹が存在する時空線に行きたい。
その日の朝も、いつもとなんら変わらなかった。
「伸くん! 起きて!!」
その美声とともに、体がゆさゆさと揺らされる。
新しくできた美人の姉――渚(なぎさねえと俺は呼んでいる)が、朝に弱い俺を優しく起こしてくれているのだ。まだ同居を始めて二週間くらいなのに、すっかり彼女のルーティーンになっていた。
最初は申し訳ない気もしたのだが、
「気にしなくていいの! わたしがやりたくてやってるんだから。だから伸くんは、これからもギリギリまで寝てる男の子でいてね?」
なんてはにかみながら言われたら、誰だって断るはずがないだろう。
そうしていつも通り女神の笑顔で覚醒するという贅沢な朝を迎え、目をこすりながら階段を下りてダイニングに行くと、
「おにちゃん! おはよっ!!」
今度は天使が、満開の笑顔で俺を出迎えてくれる。
そう、渚姉と柚は誰もが羨む美人姉妹なのだ!
と言っても、高校三年生の渚姉に対して柚はまだ小学五年生だから、完成形を拝むのはあと少なくても五年は要するだろうが。
絶対に俺は、何があろうとも、それを見るまでは死ねん!!
グッと握り拳を作りそんな馬鹿なことを考えている隙に、柚はほおばっていた食パンを皿において席を立つと、俺の腰に向けて抱き着いてくる。
「おう、おはよう! ほんと柚は今日も可愛いなあ」
「……むふぅ」
そんな妹の頭を優しくなでると、なでられた本人はとても満足そうな声を漏らす。美しい黒髪のセミロングはツヤサラで手触りが心地いい。
これが俺と柚の、毎朝の挨拶となっていた。
「あ、ずるーい! また柚だけなでてる。ねぇ、わたしは? わたしは?」
そんな俺たちの姿を見て、俺用の牛乳をコップに入れて持ってきてくれた渚姉がほっぺを膨らまして訴えてくる。そのコップをテーブルに置くと、トテトテと俺の横まで移動する。こちらもサラサラという擬音を響かせていそうな腰まで伸びた長髪を揺らしながら、頭をずずいと近づけてくる。少しだけ青みがかった髪の毛からは、いい匂いとしか表現しようのない空気が漂ってくる。
「い、いや、いつも言ってるけど、渚姉は一つ上だろ!? というか、超美人な一年先輩の頭をなでるのと変わらないと考えると……無理! 絶対に無理!! 恥ずかしくて死ぬ! 鼻血出る!!」
首をこれでもかと横に振って必死の抵抗。
もう渚姉と知り合ったのは半年以上前だけど、正式に家族になってからは一か月も経たないわけで……。しかも柚から香る匂いは子供っぽさを感じるミルキーなものだけど、渚姉の匂いは気を抜いたら家族会議に発展しそうな危ない類いのもので。さすがにこんなプレイはピュア童貞な俺にはハードルが高すぎる! せめてあと半年……いや、一年……!!
ぶんぶん首を振り続ける俺に諦めたのか、渚姉はふうとため息をつくと、
「もう、伸くんは本当に恥ずかしがり屋なんだから……。でも、今日は超美人って褒めてくれたからそれで許してあげる! でも、明日こそはなでてもらうからね!」
「勘弁してくれ……」
そう言って小悪魔的な笑顔でぺろっと舌を出し、颯爽と自分の席に腰を下ろす。
そんな彼女の姿を見て、あらためて学校でどんだけモテてるんだろうなあなんて考えてしまう。
ただ容姿が綺麗なだけじゃない。ちょっとした仕草や言動などがとても魅力的なのだ。
どうやら彼氏はいないみたいだけど、どれだけの男子が涙を飲んだのか……。
そんなことを考えながらぼおっと渚姉を見ていると、
「……おにいちゃん、手が止まってるよ?」
「――うぉっ!? ごめんごめん。ちょっと考えごとしてた」
ちょっとだけ不機嫌そうな妹の声に、俺は慌ててなでなでを再開する。
ここ最近気づいたことだが、柚はかなりの甘えん坊で、そしてちょっと嫉妬深い。
でも、これがきっとこのくらいの年の妹の普通の姿なんだと思う。
妹なんて初めてできたから、俺もよくはわからないけど。
次は両親が出てきます。