②阪急西北駅「0Ωの家」
②阪急西北駅 桜川深咲
「茅野の家,来る?」
いきなり神崎に誘われ俺はどう答えればいいのかわからない
逆にゆっくりできないような気がする…
…その前に神崎ってある意味,鬼だよな?
まぁ行ってみるか. 家に帰るよりかはいいだろう.
「…行く.」
「お. 桜川にしては決断が早かったね~」
「家に居てもだるいし…」
「あ,安心してね家にはいま誰もいないから」
え?安心しちゃいけないでしょ.母さんがよく言うてるよ.”親御さんのいない時によその家にあがらんでね,うちにも入れたらいけんよ.”ってさ.
まぁいいか.
トランペットを楽器庫へ戻し,鍵を職員室へ返して校門を出た.
そういえば神崎と学校から帰るの初めてだな…
いつも小林と神崎が一緒に帰っているから自分はいつもハブにさ…
「あれ? 2人ってそういう関係だっけ」
噂をすれば小林,本人登場. 小林もトランペットやってるクラスメイト.
「あ,歩瑠!違うよ~. 一緒に帰ってるだけ」
「えぇ~,ほんとうは裏になんかあったりするんじゃないの~?」
なんでも恋バナに結び付けて奥深く追求する奴だ.面倒くさい.
今から神崎の家に行くなんて知られたら,考えただけで恐ろしい.
「ないない」
「ホントに?」
「ないから」
「ほんとうのホントに?」
「だからないって言ってるでしょう?そいう歩瑠はなにしてんのよ.」
「内緒だよ.何だ二人面白くないな~ また明日~」
なにが”内緒だよ”だ!自分は内緒じゃない!
他愛のない会話をしながら西北に向かって歩くこと30分.
夏の午後最悪~,俺汗だくだよ!横の汗流す神崎はなぜか爽やかに見える.
何で同じ状況なのにこんなに差が出るのかな?
「ここ茅野の家. どうぞ~」
「いざ来てみたらなんか抵抗がある.」
「電熱線なんかつけてないよ. 0Ω」
「その抵抗じゃなくて…」
「どーぞ,どーぞ」
誰も理科の話なんかしたくないよ.
電流だか電圧だか電力だか知らないけど.
神崎の家は西北の駅前マンション.
窓から茶色い車両が大量に見える.
阪急の車庫だ. なんか見てるうちに気持ち悪くなりそうだ.
「いい景色でしょ?」
「そう?電車はいらん.」
「電車重要だよ? 別に興味はないけどなかったらなんか寂しくない?」
「全く寂しくない.」
「だって目の前車庫だよ? アレが住宅地だったらって想像したらいい景色じゃなくなる」
いやいや… 迷惑だろ. うるさいし,眩しいし,色は地味だし.
電車見るだけで母さんの顔が浮かんできていやなこった.
クーラーが効いてきた頃,神崎がおやつを持ってきてくれた.
「あ,これ美味しい.なに?」
「門戸厄神の近くで売ってるバームクーヘン. ちなみに,耳無料.」
「ミミムリョウ?なんそれ?」
「あ,耳じゃない. 形整えるときに切り落とした部分.切れ端?」
「ああ,耳・無料,か」
「ごめんごめん~」
門戸厄神近くの店って,俺の家の近くにある美味しいところね.
そうか,これバームクーヘンの端っこか.
味おなじ.当たり前か!
これまた他愛のない会話をして,ふと時計を見ると,もう5時半!
やばいやばい.
「ごちそうさま.俺,そろそろ帰るわ.」
おやつ食べるために神崎の家にきたみたい.
夕方になり元気を取り戻したセミがウワンウワン啼いている.
ああ,うるさい!一日中どこにいてもうるさい!
西北からだし歩いて帰る.せっかく引いた汗がまた噴出した.
家に帰ってから学校で30分もやれなかった宿題をやりだした
電車の音が聞こえないようにヘッドホンで音楽を大音量で聴く.
「深咲―. ご飯! 深咲―」
父さんがそういっていたみたいだけど音楽を大音量で聴いている俺には聞こえない.
後ろからいきなり頭をわしづかみにされてびっくりした.
「ご飯だよ. また大音量で聞いてたんでしょ. 耳悪くなるよ」
「わかってるけど電車がうるさくて」
「轟音?」
「ほんまそれ.轟音!父さんよく平気で暮らしてるね.」
「まぁ,うるさいといえばうるさいけど,気にしなければ気にならない!」
父さんは笑いながら階段を先に下りていった.
気にしなければ気にならない?わけわかんねぇ!母さんの一存,ごり押しだな.
電車を轟音と表現する父さんがこんなところに家たてるとは思えない.
…松山行ってなにするかな….暇すぎて死ぬかも.
そんなことを考えながら,父さんの作った晩ご飯を口に放り込んだ.