①媛鉄西宮駅「コンクール後の2人合奏」
①媛鉄西宮駅 桜川深咲
2044年8月1日
夏休みに入って1週間ほどたった.
吹奏楽コンクールが昨日終わって今日は休み.
結果は銅賞. まぁうちの学校では定番だよ.
俺が生まれる前からずっと銅賞をとり続けている「逆に」すばらしい中学.
夏休みは8月末まであるのに母さんは勉強しろ宿題しろってうるさい
しかもやろう思ったときにいわれるからやる気が出ないんだよな.
窓の外は電車がうるさくて勉強なんてできっこない.
今朝もテキスト開こうとした瞬間に出勤前の母さんに”涼しい午前中にすすめとくんよ”なんていわれて,もうやる気-1000%!もう昼過ぎたのに持続性1000%!
「深咲~. 部活っていつから休み?」
父さんが部屋に入ってきた. 勝手に入ってくんなってアレだけ言ってんのに…
母さんほどうるさくないからまぁいいけど.
「なんで?」
「いや,じいちゃんばあちゃん家帰るでしょ?」
え…帰省? あ~確かに1年以上行ってないのか~
行きたくないけどそれだけはしょうがないか…
「明日が夏休み最後の部活.」
「で,学校始まりは?」
「9月1日」
「OK. ありがとう. 何日間ぐらい泊まりたい?」
「何日でも」
「わかった.予定たてとくな~.」
父さんはものすごい笑顔を向けて部屋を出ていった.
今日は休みだっけ?ま,どっちでもいいや.
あ~.それにしても,電車うるさい. まじで母さんの電車好きが理解できない!
やる気でな~い.思い立って制服に着替えて部屋を出た.
「深咲どこ行くん?」
「学校」
「暑いのにお疲れ.気をつけてね.」
家はやっぱり好きじゃない. 学校で勉強するほうがはかどるや.
夏休み中,学校は部活や自主勉のために開放されている.
媛鉄西宮から普通電車に乗って2分. 学校に着いた.
しかもたったの150円. 150円で静かな環境が手に入る.
学校のすぐ隣には阪急が走っているけどさほどうるさく感じない.
母さんのいう抵抗制御とかなんやらと違ってVVV何とかは静か.
わけわかんねぇ.
それ以前に教室は防音壁採用. グラウンドで他クラスが体育をしていてもうるさくない.
職員室で鍵を取り,誰もいない静かな教室で一人宿題だ.
だれにもごちゃごちゃ言われないし,電車の音も聞こえない最高の場所で勉強できるなんて最高じゃ…
「あれ?桜川じゃん. すごいね部活ない日は勉強って」
ドアが開いて現れたのは神崎だ.
おなじトランペットやっていてすごい上手い奴.
っていうかせっかくの一人で静かな環境が台無し!!
「神崎だって勉強しに来たんじゃないの?」
「いや~ 一人だったらしょうがなくやるけど他の人がいたらね~」
俺は邪魔なのか? それならとっとと帰るけど…
「一緒に練習しない?」
は!? 昨日コンクール終わったのに練習!?
神崎は「お願い!」と手を顔の前で合わせて頼んできた.
なんか断るのも面倒だから二人で楽器庫にトランペットを
取りに行った.
「ありがとう.桜川.」
「別に. 何やるん?」
「コンクールの2曲 全部通さない?」
ものすごく楽しげな顔で言ってくれるが…
おぉ… コンクールで緊張して何度,音を間違えたことか…
特に自由曲,俺には難易度高いんだよ!
何でスタートが同じなのにこんなに差が出るのかな?
「今までの曲もやろう? お遊びで」
お遊びで曲を吹けるなら楽だろうね~
いままでの曲全部? 俺を殺す気か!?
「もう無理. こんな連続で吹けへん.」
2時間ほど吹いたところで俺は口が痛くなり限界を迎えた.
「そっか~ じゃあ桜川はいまから勉強するの?」
「いや,もう帰る. 疲れた.」
「そっか~. じゃあ茅野も帰る.」
「家帰るのもだるいなぁ~」
「じゃあ学校にいとけばいいじゃん.」
「それもだるいなぁ~.机も椅子も硬いしなぁ~.」
そう愚痴っていたとき神崎がいきなり言い出した.
「茅野の家,来る?」