3話
姿の見えない何かが近くに居る恐怖を感じつつ、三人と狐は黙って背中合わせに立った。そうすることで、何処から何がきても分かるようにする為だ。
ガサッガサッとゆっくりだが、確実に近付いてくる何か。風にのって、シューっと変な音も聞こえてくる。
むつは、そっと祐斗と繋いでいた手を離し、姿勢を低く構えた。だが、草を掻き分け移動するような音はピタリと止まった。それが、かえって警戒心を煽る。
そして、突然ガサッガサッガサッと勢いよく動き出した。それは確実にこちらに気付いて、向かってくるようだ。
ざざっと現れたそれは、見上げなければならないほどの巨大なものだった。
「訂正して正解だ」
八本の足に四つずつ、二列に並んだ赤い目は蜘蛛らしいが、大きさがおかしい。
「むっちゃん、逃げれるように、動きを止めるくらいにしよう」
「正体分かったのに?それじゃ被害が広がるだけじゃん‼仕留めたいっ」
むつは、そう言うとポケットから出した人形の紙を鋭く投げた。ただの紙であるはずなのに、途中で落ちる事もなく太すぎる蜘蛛の足に張り付いた。
「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・カン!」
人形が、ぼっと勢いよく燃えた。だが、大したダメージを与えられなかったようだ。
「今の体調じゃ無理だ。体勢を整えよう」
「けどっ‼」
むつは、再び人形を投げる。
蜘蛛はむつに狙いを定めたようで、長い足を動かして向かってくる。かなりのスピードだ。
「夜間の外出と山への立ち入りを控えるよう呼び掛けたら良い‼」