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3話
颯介と祐斗は、この一帯を回ってみる為に人に化けた狐を車に押し込んだ。どうやら、むつに付いて行きたかった様がありありと分かる。
風呂場に潜り込んだのも、この狐に違いないと颯介は決めつけていた。
「ずいぶんと、うちのむつにご執心のご様子ですね?」
バンドルを握る颯介は、バックミラーごしに少しだけ狐を睨み付けた。
「可愛いからなぁ」
「うっそっ‼」
祐斗が、勢いよく後ろを向いたのに驚いた狐が、すこし後ろに引いた。
「祐ちゃんはまだ、むっちゃんのばっちりな姿見た事なかったっけ?」
「あるような…ないような?」
ばっちりってどんな、ばっちりなのだろうかと祐斗は考えた。仕事中の雄々しい姿もばっちりなのだろうか。
今でも仕事経験は浅いが、本当にアルバイトを始めた頃、祐斗の危機に駆け付けてくれたむつは、ばっちり…格好良かったが、女の子らしい可愛い所は今のところ皆無のような気がしている。
「ま、ベースは悪くないよね」
「風呂場でみた身体も綺麗だっなぁ」
バンドルを握っている颯介の代わりに、祐斗が狐の頭に拳骨をおとした。