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1話
甘い香りの祐斗のコーヒーが気になるのか、カップの周りをするすると回っている。
「管狐ってコーヒー飲むんですか?」
「いや、どうかな?クッキーとかは、むっちゃんに貰ってるみたいだけど」
むっちゃんと聞こえたからか、管狐は細長い身体を持ち上げてキッチンの方を見つめている。
キッチンからは、かすかに換気扇の音と苦いようなタバコの香りがコーヒーの香りに混じって流れてきていた。
「管狐、ココアは飲むよ。ねぇ~」
キッチンから、顔をのぞかせているむつが、管狐の方に指先をくるくると回すと、呼ばれたと思ったのか行ってしまった。
「なついてますよね」
「むっちゃんは、あぁいうのに好かれるし、扱いになれてるからね」
「あぁ。彼氏は出来ないくせに、ですね」
颯介の押し殺した笑い声と、むつの舌打ちが聞こえた気がしたが、器用にも祐斗はどちらも知らん顔をした。そして、湯気のたつコーヒーカップを両手で包んで、ゆっくりと飲み始めた。