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3話
翌朝、起きるとすでにむつも颯介も起きているのか、布団は空っぽだった。
慌てて着替えを済ませた祐斗は、台所の方をのぞき、居間に入っていった。そこには颯介だけがいて、上着を手にし外に出ていこうとしていた。
「どうしたんですか?」
「むっちゃんが居ない」
「えぇ‼狐は?」
見渡して、呼んでみても狐たちは姿を現さなかった。狐たちが、むつに何かをしたのだろうかと、不安になった祐斗も颯介を追って外に出た。
勢いよく出たものの、すぐに颯介の背中にぶつかった。颯介は、玄関口に立ち止まっていたのだ。
「あ、おはよう」
むつの声がした。
賽銭箱に寄り掛かるようにして座ったむつが、ひらひらと手を振っていた。
「起きてこないからさ。ちょっと先に外に出てきたの」
そう言い、むつは二人の方に向かってきた。手には黒い布に包まれた細長い物がしっかりと握られていた。
「帰ってこなかった、10体も式を放ったのに1体も戻ってない。全部、襲われた。大きな鋏みたいなのに」
食われる怖さだけ10回も体験したよ、と疲れた声でむつが呟いた。